総合的な思春期・若年成人(AYA)世代のがん対策のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
201708005A
報告書区分
総括
研究課題名
総合的な思春期・若年成人(AYA)世代のがん対策のあり方に関する研究
課題番号
H27-がん対策-一般-005
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
堀部 敬三(独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター 臨床研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 清水 千佳子(国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院 乳腺・腫瘍内科)
  • 小原 明(東邦大学医学部 小児科学講座(大森))
  • 大園 誠一郎(社会医療法人大道会森之宮病院)
  • 山本 一仁(愛知県がんセンター中央病院 血液・細胞療法部)
  • 松本 公一(国立研究開発法人国立成育医療研究センター小児がんセンター)
  • 多田羅 竜平(大阪市立総合医療センター 緩和医療学、小児科学)
  • 鈴木 直(聖マリアンナ医科大学医学部 産婦人科学)
  • 古井 辰郎(岐阜大学医学系研究科 産科婦人科学)
  • 中塚 幹也(岡山大学大学院保健学研究科 生殖医学)
  • 北島 道夫(長崎大学病院 産婦人科)
  • 木村 文則(滋賀医科大学医学部 産婦人科学)
  • 高井 泰(埼玉医科大学総合医療センター 産婦人科学)
  • 森重 健一郎(岐阜大学医学系研究科 産科婦人科学)
  • 中村 晃和(京都府立医科大学大学院 泌尿器外科学)
  • 清水 研(国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院 精神腫瘍科)
  • 鈴木 礼子(東京医療保健大学 医療保健学部医療栄養学科)
  • 川井 章(国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院 骨軟部腫瘍・リハビリテーション科)
  • 丸 光惠(甲南女子大学 看護リハビリテーション学部看護学科国際看護開発学)
  • 高橋 都(国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター がんサバイバーシップ支援部)
  • 新平 鎮博(独立行政法人国立特別支援教育総合研究所 小児科学、特別支援教育(病弱))
  • 小澤 美和(聖路加国際大学聖路加国際病院 小児科)
  • 高山 智子(国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター がん情報提供部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
17,765,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国の思春期・若年成人(AYA)世代のがん医療の実態調査および患者・がん経験者のニーズ調査を行い、その結果をもとにこの世代の特徴に配慮したAYA世代がん対策のあるべき姿を具体的に政策提言する。診療・支援のツールや評価法の開発、ガイドラインの作成、および、妊孕性温存のための生殖医療提供体制の構築を行い、AYA世代のがん患者の包括医療の向上を図る。さらに、これらを広く医療関係者、国民に周知して普及啓発を図る。
研究方法
平成28年度に実施したAYA世代のがん治療中患者・がん経験者とその家族、および健常者(対照)に対するアンケート調査、がん診療連携拠点病院および小児がん拠点病院のがん登録部門、相談部門、緩和ケアチームに対する診療・相談体制と実績、相談員・緩和ケアスタッフの意識調査、がん関連領域の専門医に対するWebによる意識調査、がん診療連携拠点病院の看護師に対する意識調査結果を分析する。各種個別研究、ならびに、がん・生殖医療の普及啓発に資する取り組みを実施する。
結果と考察
A世代とYA世代のニーズに相違が認められ、多様な対応が望まれる。15才未満発症のAYA世代は、自己管理の意識や実践割合が低く、治療終了後の自己管理指導の必要性が明らかになった。親、きょうだいの悩みは、仕事、経済、体調、関係性など多岐に及ぶため外部機関の情報提供が望まれる。遺族調査において、家族の関係悪化が認められ、終末期に親の気持ちを話す機会や死別後の相談場所のニーズが明らかになった。がん診療連携拠点病院および小児がん拠点病院におけるAYAがん診療の現状は、患者数が少なく、特に24歳以下の年間中央値は5例であり、年齢階級でがん種が異なることから、経験の蓄積が困難と考えられた。A世代を多数診療している施設は、YA世代の多数診療施設であるが、多数診療施設においても生殖医療や緩和医療の専門医、精神腫瘍医の配置が60%以下であり、改善が必要と考えられた。がん関連専門医の意識調査において、望ましい診療体制として、「AYA診療チーム」が多かった。小児診療科において24歳未満の若年層に対してAYA病棟やAYA専用病室の必要性が認識されていた。患者との対話時間の確保や終末期患者や家族への説明に困難を感じる医師が多かった。看護師調査の分析では、AYA世代のがん患者・サバイバーには既存の医療体制では対応しきれない問題が多く、特に経験豊富な看護師や専門性の高い看護師において職務範囲外の問題に対するケア困難感の存在が示唆された。
医療コミュニケーションに関する半構造化面接調査を行い、説明時のニーズとして「距離や壁を感じさせない」「子ども扱いしない」「研究対象として扱うような態度をとらない」等が抽出された。患者の気持ちへの配慮については、「患者の心情を無理に探らない」「患者の気持ちの探索をあえて言葉にしない」「過度な共感をしない」等が抽出された。栄養と味覚に関するニ-ズ調査において、「味覚・嗅覚・食嗜好の変化」が、健常若年成人にない悩みであった。特に10代患者が『病院食が好きになれない』と答えていた。食育イベントにおける一般人のAYAの言葉を認知度は1~4%と低かった。教育支援に関する研究として、小児がんのある高校生の教育、および大学生の支援に関して都道府県・指定都市教育委員会および国立大学を対象に調査を実施し、実態を明らかにし、教育支援ガイドを作成した。小児期・AYA期発症がん経験者に特化した就労問題に関して文献のシステマティックレビューを実施した。AYA世代がん患者へのがんの情報や支援に関するインタビュー調査により、生活上の情報やセクシュアリティに関する情報が不十分であること、相談相手を得る上で医療者や医療機関が重要な役割を果たすことが明らかとなった。骨軟部腫瘍患者の身体機能・QOLを適切に評価するため、疾患特異的HR-QOL評価尺度を作成し、多施設共同の前向き観察研究を行った。普及啓発活動として、患者・家族向けの情報冊子「AYA」の作成、医療従事者向け「支援の手引き」の作成準備、そして、一般向けおよび医療者向けシンポジウムを全国4か所で実施した。妊孕性に関する実態調査により必ずしも適切なタイミングで正確な内容の情報提供がなされていない実態が明らかになった。がん・生殖医療地域ネットワークの整備を全国各地に展開し18府県まで拡大した。

結論
AYA世代がん患者・経験者の医療と支援の向上には、A世代およびYA世代特有のがん種と年代に適切に対応した診療体制の整備が必要である。小児診療科と成人診療科の連携、AYA世代特有の支援を可能にする多職種の「AYA支援チーム」の形成、地域の専門機関や支援組織との有機的連携が望まれる。

公開日・更新日

公開日
2018-08-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2018-07-04
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201708005B
報告書区分
総合
研究課題名
総合的な思春期・若年成人(AYA)世代のがん対策のあり方に関する研究
課題番号
H27-がん対策-一般-005
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
堀部 敬三(独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター 臨床研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 清水 千佳子(国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院 乳腺・腫瘍内科)
  • 小原 明(東邦大学医学部 小児科学講座(大森))
  • 大園 誠一郎(社会医療法人大道会森之宮病院)
  • 山本 一仁(愛知県がんセンター中央病院 血液・細胞療法部)
  • 松本 公一(国立研究開発法人国立成育医療研究センター 小児がんセンター)
  • 多田羅 竜平(大阪市立総合医療センター 緩和医療学、小児科学)
  • 鈴木 直(聖マリアンナ医科大学医学部 産婦人科学)
  • 古井 辰郎(岐阜大学医学系研究科 産科婦人科学)
  • 中塚 幹也(岡山大学大学院保健学研究科 生殖医学)
  • 北島 道夫(長崎大学病院 産婦人科)
  • 木村 文則(滋賀医科大学医学部 産婦人科学)
  • 高井 泰(埼玉医科大学総合医療センター 産婦人科学)
  • 森重 健一郎(岐阜大学医学系研究科 産科婦人科学)
  • 中村 晃和(京都府立医科大学大学院 泌尿器外科学)
  • 清水 研(国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院 精神腫瘍科)
  • 鈴木 礼子(東京医療保健大学 医療保健学部医療栄養学科)
  • 川井 章(国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院 骨軟部腫瘍・リハビリテーション科)
  • 丸 光惠(甲南女子大学 看護リハビリテーション学部看護学科国際看護開発学)
  • 高橋 都(国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター がんサバイバーシップ支援部)
  • 新平 鎮博(独立行政法人国立特別支援教育総合研究所 小児科学、特別支援教育(病弱))
  • 小澤 美和(聖路加国際大学聖路加国際病院 小児科)
  • 高山 智子(国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター がん情報提供部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国の思春期・若年成人(AYA)世代のがん医療の実態調査および患者・がん経験者のニーズ調査を行い、その結果をもとにこの世代の特徴に配慮したAYA世代がん対策のあるべき姿を具体的に政策提言する。診療・支援のツールや評価法の開発、ガイドラインの作成、および、妊孕性温存のための生殖医療提供体制の構築を行い、AYA世代のがん患者の包括医療の向上を図る。さらに、これらを広く医療関係者、国民に周知して普及啓発を図る。
研究方法
AYA世代のがん治療中患者・がん経験者とその家族、および健常者(対照)に対するアンケート調査、がん診療連携拠点病院および小児がん拠点病院のがん登録部門、相談部門、緩和ケアチームに対する診療・相談体制と実績、相談員緩和ケアスタッフの意識調査、がん関連領域の専門医に対するWebによる意識調査、がん診療連携拠点病院の看護師に対する意識調査、各種個別研究、ならびに、がん・生殖医療の普及啓発に資する取り組みを実施する。
結果と考察
患者・経験者および家族のアンケート調査において、治療中患者の悩みの上位は、自身の将来、仕事、経済面、診断・治療、生殖機能であったが、15歳~19歳では学業と体力の維持・運動が上位に含まれた。がん経験者の悩みでは、生殖機能と後遺症・合併症、体力の維持・運動が上位に上がった。患者・経験者は、多岐にわたり個別性が高い情報・相談ニーズがあり、意思決定への参加意欲や自己管理への意識が高かった。療養環境の困りごとの上位は、食事が合わない、同世代がいない、Web環境がないであった。若年者ほど食事に不満を持っていた。がん診療連携拠点病院および小児がん拠点病院におけるAYAがん診療の現状は、患者数が少なく、特に24歳以下の年間中央値は5例であり、がん種が年齢階層で特徴があり多岐にわたっていた。AYA世代多数診療施設においても生殖医療や緩和医療の専門医、精神腫瘍医の配置が60%以下であり、改善が必要と考えられた。緩和ケアスタッフの約4割で25歳未満患者の緩和ケアの実践経験がなく、実践経験者もケア困難感を認めた。がん関連専門医の意識調査で、「AYA」という言葉を知らない専門医が約40%いる一方、80%以上の専門医がAYA世代(若年)を意識して診療していた。望ましい診療体制として「AYA診療チーム」が多かった。患者との対話時間の確保や終末期患者や家族への説明に困難さを感じる医師が多かった。看護師調査では、必要な支援の上位に「メンタルサポート」「診断時の情緒心理面への支援」「どう生きたいか(どう死にたいか)」が挙げられた。ケアの実施経験では、性・生殖に関連する経験は乏しかった。これら実態調査をもとに政策提言を行った。
個別研究として、医療コミュニケーションに関する半構造化面接調査を行い、説明時のニーズとして「距離や壁を感じさせない」「子ども扱いしない」「研究対象として扱うような態度をとらない」等が抽出された。患者の気持ちへの配慮については、「患者の心情を無理に探らない」「患者の気持ちの探索をあえて言葉にしない」「過度な共感をしない」等が抽出された。「味覚・嗅覚・食嗜好の変化」が、健常若年成人にない悩みであった。小児がんのある高校生の教育、および大学生の支援に関して都道府県・指定都市教育委員会および国立大学を対象に調査を実施し、実態を明らかにし、教育支援ガイドを作成した。小児期・AYA期発症がん経験者に特化した就労問題に関して文献のシステマティックレビューを実施した。AYA世代がん患者へのインタビュー調査により、生活上の情報やセクシュアリティに関する情報が不十分であること、相談相手を得る上で医療者や医療機関が重要な役割を果たすことが明らかとなった。骨軟部腫瘍患者の身体機能・QOLを適切に評価するため、疾患特異的HR-QOL評価尺度を作成し、多施設共同の前向き観察研究を行った。普及啓発活動として、患者・家族向けの情報冊子「AYA」の作成、医療従事者向け「支援の手引き」の作成を準備した。妊孕性に関する実態調査により必ずしも適切なタイミングで正確な内容の情報提供がなされていない実態が明らかになった。がん・生殖医療地域ネットワークの整備を全国各地に展開し18府県まで拡大した。がん・生殖医療ナビゲータの養成と配置の重要性が認識された。

結論
各種実態調査により、AYA世代がん患者・経験者のアンメットニーズが明らかになった。AYA世代のがん医療と支援の向上には、世代特有のがん種と年代に適切に対応した診療体制の整備が必要である。小児診療科と成人診療科の連携、AYA世代特有の支援を可能にする多職種の「AYA支援チーム」の形成、地域の専門機関や支援組織との有機的連携が望まれる。

公開日・更新日

公開日
2018-08-15
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201708005C

収支報告書

文献番号
201708005Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
23,094,000円
(2)補助金確定額
23,080,000円
差引額 [(1)-(2)]
14,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,221,699円
人件費・謝金 4,685,222円
旅費 4,458,941円
その他 7,385,927円
間接経費 5,329,000円
合計 23,080,789円

備考

備考
千円未満切り捨てのため(789円は自己資金)

公開日・更新日

公開日
2018-12-11
更新日
-