汎用性のある系統的な苦痛のスクリーニング手法の確立とスクリーニング結果に基づいたトリアージ体制の構築と普及に関する研究

文献情報

文献番号
201708002A
報告書区分
総括
研究課題名
汎用性のある系統的な苦痛のスクリーニング手法の確立とスクリーニング結果に基づいたトリアージ体制の構築と普及に関する研究
課題番号
H27-がん対策-一般-002
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
松本 禎久(国立研究開発法人国立がん研究センター東病院 緩和医療科)
研究分担者(所属機関)
  • 清水 研(国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院 精神腫瘍科)
  • 里見 絵理子(国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院 緩和医療科)
  • 木澤 義之(神戸大学大学院医学研究科内科系講座先端緩和医療学分野)
  • 明智 龍男(名古屋市立大学大学院・精神腫瘍学)
  • 森田 達也(聖隷三方原病院・緩和医学)
  • 大谷 弘行(国立病院機構九州がんセンター・緩和医療科)
  • 小川 朝生(国立研究開発法人国立がん研究センター先端医療開発センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
4,708,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
政策では、がん対策推進基本計画等で、がんと診断された時からの緩和ケアや苦痛のスクリーニングが勧められているが、国際的にエビデンスは拮抗し、実臨床での実施に関しては様々な議論がある。わが国においてもスクリーニング・トリアージの有用性を検証することが必要である。本研究班全体では、スクリーニング・トリアージの有用性を検証し普及することを目的とし、1)がん診断された時からの苦痛のスクリーニング等の有用性の検証および2)苦痛のスクリーニング・トリアージプログラムを全国に普及するための研究を行う。
研究方法
1)がん診断された時からの苦痛のスクリーニング等の有用性の検証および2)苦痛のスクリーニング・トリアージプログラムを全国に普及するための研究としては、具体的に以下のような各々の研究を行った。1)進行肺がん患者を対象とした看護師によるスクリーニング・トリアージの有用性を検証するためのランダム化比較試験をわが国で初めて実施した。さらに、2)電子カルテの5thバイタルサインを用いたスクリーニングの有効性の検討と3)アドバンスケアプランニングの希望に関するスクリーニングの有効性の検討、の2つのスクリーニングの有用性の検証をコホート研究によって行った。また、スクリーニングについて全国の拠点病院を対象とした、本研究班で行ったわが国初の調査に基づく課題と解決策を検討するワークショップを開催し、効果の検証を行った。また、従来にない、抗がん剤の副作用モニタリングと併行して実施できるPRO-CTCAE日本語版による苦痛のスクリーニングシステムの開発を行った。
結果と考察
看護師によるスクリーニング・トリアージプログラムのランダム化比較試験では85例(目標症例数206名の41.3%)の症例登録が行われた。電子カルテの5thバイタルサインを用いたスクリーニングの有効性の検討では、スクリーニング対象患者2427人中スクリーニング陽性患者は223人(9.1%、95%信頼区間 8-10%)であり、スクリーニング陽性患者うち12人(5.4%、95%信頼区間 3-9%)が追加の緩和治療が必要であると考えられた。アドバンスケアプランニングの希望に関するスクリーニングの有効性の検討では、スクリーニング陽性となった患者を中心に施設単位で行う「アドバンスケアプランニング介入プログラム」について、98%の患者が『闘病生活の中で全体的に役に立つ』と回答し、その理由として、『自ら今後の事を考えるきっかけ』『医療者・家族との話し合いのきっかけ』となったこと、『自分の意向が尊重される』と思ったことなどを挙げていた。スクリーニング・トリアージプログラムを全国に普及するための研究では、ワークショップに47名が参加し、ワークショップへの参加で、スクリーニングに関する知識9項目の全てが参加直後で改善し、ワークショップの有用性が示唆された。また、スクリーニングに関する考えにおいてはスクリーニングの有用性が再認識され、結果を担当医にフィードバックする方法への認識が改善された。PRO-CTCAE日本語版による苦痛のスクリーニングシステムの開発では、がん診療連携拠点病院での実装を目指してESAS-rならびにPRO-CTCAEを実装したモデル開発を開始し、端末、サーバーのシステム開発は完了して電子カルテと連動する前段階まで完成した。
結論
看護師によるスクリーニング・トリアージプログラムのランダム化比較試験では、85例(目標症例数206名の41.3%)の症例登録が行われ、ランダム化比較試験は問題なく実施可能であることが確認された。電子カルテの5thバイタルサインを用いたスクリーニングの有効性の検討では、苦痛STASを用いたスクリーニングは実行可能であるが、有用性に関しては緩和ケア提供体制の異なる施設においてさらに研究が必要であることが示唆された。アドバンスケアプランニングの希望に関するスクリーニングの有効性の検討では、スクリーニング陽性となった患者を中心に、施設単位で「アドバンスケアプランニング介入プログラム」を行うことは、患者は役に立つと認識し、施設全体の終末期ケアの質が向上することが明らかになった。スクリーニング・トリアージプログラムを全国に普及するための研究では、開催したワークショップによる好ましい効果が認められ、その有用性が示唆された。PRO-CTCAE日本語版による苦痛のスクリーニングシステムの開発では、わが国のがん診療連携拠点病院での実装を目指したPROMsシステムの開発を行った。

公開日・更新日

公開日
2018-07-06
更新日
-

研究報告書(PDF)

総括研究報告書
分担研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表
研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2018-07-06
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201708002B
報告書区分
総合
研究課題名
汎用性のある系統的な苦痛のスクリーニング手法の確立とスクリーニング結果に基づいたトリアージ体制の構築と普及に関する研究
課題番号
H27-がん対策-一般-002
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
松本 禎久(国立研究開発法人国立がん研究センター東病院 緩和医療科)
研究分担者(所属機関)
  • 清水 研(国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院 精神腫瘍科)
  • 里見 絵理子(国立研究開発法人国立がん研究センター中央病院 緩和医療科)
  • 木澤 義之(神戸大学大学院医学研究科内科系講座先端緩和医療学分野)
  • 明智 龍男(名古屋市立大学大学院・精神腫瘍学)
  • 森田 達也(聖隷三方原病院・緩和医療学)
  • 大谷 弘行(国立病院機構九州がんセンター・緩和医療)
  • 小川 朝生(国立研究開発法人国立がん研究センター先端医療開発センター精神腫瘍学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
政策では、がん対策推進基本計画等で、がんと診断された時からの緩和ケアや苦痛のスクリーニングが勧められているが、国際的にエビデンスは拮抗し、実臨床での実施に関しては様々な議論がある。わが国においてもスクリーニング・トリアージの有用性を検証することが必要である。本研究では、スクリーニング・トリアージの有用性を検証し普及することを目的とし、1)がん診断された時からの苦痛のスクリーニング等の有用性の検証および2)苦痛のスクリーニング・トリアージプログラムを全国に普及するための研究を行う。
研究方法
具体的に以下のような各々の研究を行った。1)看護師によるスクリーニング・トリアージの有用性を検証するためのランダム化比較試験をわが国で初めて実施した。2)電子カルテの5thバイタルサインを用いたスクリーニングの有効性の検討と3)アドバンスケアプランニングの希望に関するスクリーニングの有効性の検討、の2つのコホート研究を行った。4)苦痛のスクリーニングに関するアンケート票による全国実態調査を行った。5)全国実態調査の結果に基づいて苦痛のスクリーニングにおける課題と解決策を検討するワークショップを開催し、効果の検証および内容の質的分析を行った。6)抗がん剤の副作用モニタリングと併行して実施できる、PRO-CTCAEによる苦痛のスクリーニングシステムの開発を行った。
結果と考察
看護師によるスクリーニング・トリアージプログラムのランダム化比較試験では、介入手順書を完成し、85例(目標症例数206名の41.3%)の症例登録が行われ、ランダム化比較試験は問題なく実施可能であることが確認された。また、看護師による介入に関するインタビュー調査を行い、記録された実際の介入内容と合わせた質的分析を行った。
電子カルテの5thバイタルサインを用いたスクリーニングの有効性の検討では、スクリーニング対象患者2427人のうち、スクリーニング陽性患者は223人(9.1%、95%信頼区間 8-10%)であった。スクリーニング陽性患者うち12人(5.4%、95%信頼区間 3-9%)において追加の緩和治療が必要であると考えられ、対応が行われていた。苦痛STASを用いたスクリーニングは実行可能であるが、有用性に関しては緩和ケア提供体制の異なる施設においてさらに研究が必要であることが示唆された。
アドバンスケアプランニングの希望に関するスクリーニングの有効性の検討では、スクリーニング陽性となった患者を中心に施設単位で行う「アドバンスケアプランニング介入プログラム」について、98%の患者が「全体的に役に立つ」と回答し、その理由として、「自ら今後の事を考えるきっかけ」「医療者・家族との話し合いのきっかけ」となったこと、「自分の意向が尊重される」と思ったことなどを挙げた。スクリーニング陽性となった患者に施設単位で行う介入プログラムについて、患者は役に立つと認識し、施設全体の終末期ケアの質が向上することが明らかになった。
スクリーニング・トリアージプログラムを全国に普及するための研究では、がん診療連携拠点病院等(以下、拠点病院)422施設を対象とした全国実態調査によって、拠点病院における苦痛のスクリーニング実施状況およびスクリーニング実施における困難や阻害因子が明らかになった。約90%の施設はなんらかの規模でスクリーニングを導入していたが、入院でも外来でも25%以上の部署を対象としたスクリーニングを導入していた施設は1/3 程度であり、23%の施設ではスクリーニング陽性患者を問題に対応できる部署へ紹介できるシステムが整っていなかった。さらに、様々な困難や阻害因子が存在することが明らかとなった。全国実態調査の結果および好事例をまとめて公表した。また、苦痛のスクリーニングに困難を感じている拠点病院の医師・看護師・薬剤師を対象とした、苦痛のスクリーニングにおける課題と解決策を検討するワークショップに98名が参加し、スクリーニングに関する知識が改善し、スクリーニングの有用性が再認識されるなど、ワークショップの有用性が示唆された。また、ワークショップの内容を質的に分析し、現場でできるアイデアプールとしてまとめた。
PRO-CTCAEによる苦痛のスクリーニングシステムの開発では、拠点病院での実装を目指してPRO-CTCAEによるPatient Reported Outcome Measures (PROMs)モデル開発を開始し、端末、サーバーのシステム開発は完了して電子カルテと連動する前段階まで完成した。
結論
本研究においては、わが国における苦痛のスクリーニングの実態を明らかにし、拠点病院を中心としたスクリーニングの普及に寄与し、汎用性のある系統的な苦痛のスクリーニング手法に資するプログラムやシステムを検討し開発した。

公開日・更新日

公開日
2018-07-06
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-07-06
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201708002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
わが国おけるスクリーニング・トリアージの実態を明らかにし英文での報告を行った。医療者を対象としたスクリーニングに関するワークショップの有効性を明らかにした。わが国初のスクリーニング・トリアージプログラムのランダム化比較試験を実施し、問題なく実施可能であることを確認した。スクリーニング・トリアージに関する2つのコホート研究を実施し、有効性の検討を行った。従来にないPRO-CTCAEによるスクリーニングモデル開発を行った。
臨床的観点からの成果
全国実態調査により、がん診療連携拠点病院等における苦痛のスクリーニング実施状況および実施における困難や阻害因子を明らかにした。また、苦痛のスクリーニング実施に困難を感じる医療者を対象にワークショップを行い、さらには好事例や課題や解決策をまとめた冊子を2種作成し、スクリーニング・トリアージの普及に寄与した。また、各種の汎用性のある系統的な苦痛のスクリーニング手法に資するプログラムやシステムを検討し開発した。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
本研究で作成した「緩和ケアスクリーニングに関する事例集」が、厚生労働省ホームページで公開された。
その他のインパクト
各種学術集会におけるシンポジウム等で成果を発表した。
2回のワークショップを開催した。

発表件数

原著論文(和文)
32件
原著論文(英文等)
228件
その他論文(和文)
179件
その他論文(英文等)
12件
学会発表(国内学会)
244件
学会発表(国際学会等)
22件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Okuyama T, Kizawa Y, Morita T, et al.
Current Status of Distress Screening in Designated Cancer Hospitals: A Cross-Sectional Nationwide Survey in Japan.
J Natl Compr Canc Netw , 14 (9) , 1098-1104  (2016)

公開日・更新日

公開日
2018-05-24
更新日
2019-03-27

収支報告書

文献番号
201708002Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
6,120,000円
(2)補助金確定額
6,120,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 433,034円
人件費・謝金 1,342,210円
旅費 93,250円
その他 2,839,506円
間接経費 1,412,000円
合計 6,120,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2019-03-27
更新日
-