HTLV-1母子感染予防に関するエビデンス創出のための研究

文献情報

文献番号
201707015A
報告書区分
総括
研究課題名
HTLV-1母子感染予防に関するエビデンス創出のための研究
課題番号
H29-健やか-指定-003
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
板橋 家頭夫(昭和大学 昭和大学病院)
研究分担者(所属機関)
  • 齋藤 滋(富山大学 大学院医学薬学研究部 産科婦人科学教室)
  • 森内 浩幸(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科小児科)
  • 宮沢 篤生(昭和大学 医学部小児科学講座 )
  • 根路銘 安仁(鹿児島大学 医学部保健学科看護学専攻母性・小児看護学講座)
  • 米本 直裕(京都大学 大学院医学研究科)
  • 関沢 明彦(日本産婦人科医会)
  • 時田 章史(日本小児科医会)
  • 渡邉 俊樹(聖マリアンナ医科大学 大学院先端医療開発学)
  • 内丸 薫(東京大学 大学院新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻病態医療科学)
  • 西野 善一(金沢医科大学 医学部公衆衛生学講座)
  • 郡山 千早(鹿児島大学 大学院医歯学総合研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
11,168,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班ではHTLV-1母子感染予防に関するエビデンスの創出を目的に以下の検討を行うこととした。それらは、1)前研究班(「HTLV-1母子感染予防に関する研究:HTLV-1抗体陽性母体からの出生児のコホート研究」)で行われたコホート研究を継続し乳汁栄養別母子感染率を明らかにする、2)HTLV-1母子感染予防に関するシステマティックレビュー(SR)を行う、3)母子感染予防によってどのようにキャリア数やATL発生数が減少するのかを予測する、4)エビデンスに基づく適切な母子感染予防法や指導方法、体制構築についての指針を明らかにすること、である。
研究方法
本年度は、コホート研究を継続するとともに、SRの準備、平成28年度妊婦HTLV-1抗体スクリーニング検査の実施状況やHTLV-1母子感染対策協議会の実態、HTLV-1母子感染の自然史の構築、キャリア妊産婦からみた母子感染予防の課題について研究・調査を行った。
結果と考察
1)コホート研究(中間解析):登録された妊婦から出生した879名の児がフォローアップの対象となっている。現時点で3歳になった児で抗体検査が実施されたのは280名(フォローアップ率は88%)で、このうち母子感染が確認されたのはWB法陽性妊婦から出生した8名(長期母乳栄養、短期母乳栄養、凍結母乳栄養各1名、人工栄養5名)およびPCR法陰性妊婦から出生した長期母乳栄養児1名であった。今後も可能な限り高いフォローアップ率を維持することが当面の課題となる。なお、凍結母乳例が極端に少なく、最終的には人工栄養と短期母乳栄養の母子感染率の比較となると予想される。2)HTLV-1母子感染予防に関するSR:質の高いSRを行うための手引きを作成し、これに基づいて研究計画書を作成し、研究計画登録システムであるPROSPEROに登録した。これにより質の高いSRの実施が可能になった。3)母子感染予防介入によるキャリアおよび関連疾患患者の推移予測:男女別に母子間の垂直感染とパートナー間の水平感染を考慮した自然史モデル案を構築した。今後、キャリア妊婦の母子感染の高リスク群と低リスク群の分布や、キャリアのATLやHAMの高リスク群と低リスク群の分布、感染経路によるHAM発症リスクについて明らかにする必要がある。平成28年度日本産婦人科医会調査では、HTLV-1スクリーニング陽性率は全体で0.32%であった。妊婦キャリア率は全体では0.141%で、平成23年度調査よりわずかに減少した。4)エビデンスに基づく適切な母子感染予防法や指導方法、体制構築についての指針作成:HTLV-1母子感染対策協議会は25府県で設置され、既存事業で対応しているのが13都県、とくに対応がないのが9県であった。回答のあった38都道府県のうちHTLV-1母子感染対策の事業として多かったのが普及・啓発事業、次に講習会・研修会で、それぞれ31、30都道府県であり、母子感染の評価を行うと回答したのは3県のみであった。HTLV-1キャリア登録ウェブサイトキャリねっと登録者のうち分娩経験のある登録者を対象にアンケート調査を行い、授乳方法の選択の現状、授乳指導に対する評価、問題点などについて解析した。分娩後の授乳指導や児への対応についての満足度が低く、心理的なサポートも含めて支援の必要性が明らかとなった。現状の母子感染予防体制ではキャリア妊婦や出生した児の支援は十分とはいえず、質の高い支援や母子感染に関するデータを集約するうえでも、各都道府県の実情に応じて、HTLV-1母子感染予防のための基幹施設を設定することを考慮しても良いかも知れない。
結論
1)フォローアップが終了しておらず、乳汁栄養法別の母子感染率について結論は得られないが、今後も可能な限り高いフォローアップ率を維持することが当面の課題となる。なお、凍結母乳例が極端に少なく、最終的には人工栄養と短期母乳栄養の母子感染率の比較となると予想される。2)質の高いシステマティックレビューの準備が整い、次年度中に終了する見込みが明らかとなった。3)男女別に母子間の垂直感染とパートナー間の水平感染を考慮した自然史モデル案が構築された。4)平成28年度のキャリア妊婦は前回調査に比べて約0.03%低下した。母子感染予防法として人工乳の選択が増加傾向にあり、マニュアルの改定内容が浸透しつつあることが示唆された。5)多くの都道府県でHTLV-1母子感染対策協議会や既存事業で母子感染予防の対応がなされているが、キャリアから出生した児の指導やフォローアップ体制構築については極めて不十分であることが示された。6)キャリア妊婦の分娩後の授乳指導や児への対応については課題が多く、質の高い個別化した指導や対応が求められる。

公開日・更新日

公開日
2018-11-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2018-11-01
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201707015Z