新生児マススクリーニング検査に関する疫学的・医療経済学的研究

文献情報

文献番号
201707013A
報告書区分
総括
研究課題名
新生児マススクリーニング検査に関する疫学的・医療経済学的研究
課題番号
H29-健やか-指定-001
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
但馬 剛(国立成育医療研究センター 研究所 マススクリーニング研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 小林 弘典(島根大学 医学部 小児科)
  • 沼倉 周彦(山形大学 医学部 小児科)
  • 西野 善一(金沢医科大学 医学部 公衆衛生学)
  • 福田 敬(国立保健医療科学院 医療・福祉サービス研究部)
  • 山口 清次(島根大学 医学部 小児科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
5,385,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国の新生児スクリーニング(NBS)は、昭和52年度に始まり40年余が経過するが、NBS事業は平成13年度から都道府県・指定都市へ移管され、その実施体制に地域差が生じることとなった。統一的な実態把握の仕組みは構築されておらず、小児の障害発生防止、国民の健康増進に効率よく貢献しているかどうかなど、事業としての評価は困難な状況にある。そこへ平成26年度からは「タンデムマス(TMS)法」が導入されて対象疾患が拡大し、対象疾患の自然歴・予後の解明や治療法向上への要請はさらに高まっている。個々の対象疾患は稀少疾患であるため、自治体の枠を超えた情報集積が不可欠であり、全国共通の事業基盤を再構築する必要がある。
研究方法
(1) NBS実施体制の全国標準化: CPT2欠損症をモデルケースとして:本疾患はNBS指標が確立せず、自治体によって検査実施の有無が分かれていため、試験研究で提唱した現行指標 (C16+C18:1)/C2 の有効性を検証した。(2)発見患者の悉皆コホート体制の構築:(a)先行研究(山口班:平成26~28年度)の継続コホート調査を実施した。(b)NBS対象の脂肪酸代謝異常症では、本研究班員が発見患者の大半の診断に関与しており、診断情報を共有するための共同研究体制を構築した。(3)タンデムマス試験研究期発見患者の予後調査:参加地域の精査医療機関50施設へ調査票を郵送した。(4) 公的検診事業としての評価と費用対効果分析:がん検診制度との比較によるNBSの事業評価の進め方および、多疾患の一斉検査が可能なTMS法スクリーニングに適した費用対効果分析の手法について検討した。(5)今後のNBSの在り方について:(a)NBS発見患者の長期追跡体制に関して、行政担当部署・担当医・患者家族会を対象に意識調査を実施した。(b) 成人期フェニルケトン尿症患者の実態調査を実施した。
結果と考察
(1)NBS実施体制の全国標準化:CPT2欠損症NBSでの現行指標の有用性を論文報告し、平成30年度から全自治体でNBSが実施されることとなった。その準備として、以下の取り組みを行った。(i) 現行指標の検証から、より感度・特異度が高い新指標 C14/C3 が見出され、各検査機関の測定値分布を分析した結果、「現行・新指標とも99.9パーセンタイル以上」を陽性とする方針を策定した。(ii) 確定検査を本研究班員へ依頼するよう要請する文書を作成し、各自治体・検査機関から精査担当医へ配布する手配を整えた。(iii) 公衆衛生協会地域保健総合推進事業と連携して、各自治体のNBS中核医師を集めた「第1回NBS全国ネットワーク会議」を開催し、研究班の取り組みへの協力を要請した。(iv) 担当医向けの手引き資料を作成した。(2)発見患者の悉皆コホート体制の構築:先行研究の継続コホート182例の調査に対して170症例(93.4%)の回答が得られた。幼児期の急性感染症を契機とする死亡が3例確認された。発達遅滞は22例で観察されていた。(3)タンデムマス試験研究期発見患者の予後調査:該当患者216例に対して年度末までに101例分を回収した。原疾患に起因する死亡が2例確認された。発達遅滞は18例で観察されていた。引き続き回収を進めている。(4) 公的検診事業としての評価と費用対効果分析:悉皆性のあるモニタリング体制が不可欠であることを確認するとともに、診療レセプトデータベース情報の分析に取り組む方針とした。(5)今後のNBSの在り方について:行政担当部署・担当医・患者家族会の三者とも、長期追跡の必要性を認める結果を得た。成人期フェニルケトン尿症調査では、対象85名すべてについて回答が得られた。治療中断による精神症状の出現事例などが明らかとなり、自治体の協力下で小児科医を窓口とする長期追跡体制の実現が望ましいと考えられた。考察:わが国のNBS、特に先天代謝異常症については、欧米諸国に比べて疾患頻度が全般的に低い一方、実施主体は67自治体に細分化され、自治体・検査機関ごとの相違が増大している。標準化の端緒として、CPT2欠損症で諸課題の解決に取り組み、他の疾患へ応用できるモデルケースを提示する方針である。
結論
本研究全体の課題名となっている、NBS検査の「疫学的・医療経済学的」評価を確立するには、検査に関する様々な側面での標準化と、自治体の枠を超えて発見患者情報を集める仕組みの構築が不可欠である。平成29年度の本研究では、CPT2欠損症スクリーニング全国実施の実現に寄与するとともに、これを諸課題解決のための端緒とすべく、様々な検討や準備作業を行った。平成30年度以降、それらの実効性を評価するとともに、試験研究期症例調査や診療レセプト情報分析など後方視的検討を並行して進め、NBS事業の有用性向上につなげたい。

公開日・更新日

公開日
2018-11-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2018-11-01
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201707013Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
7,000,000円
(2)補助金確定額
7,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,525,384円
人件費・謝金 0円
旅費 624,960円
その他 1,234,656円
間接経費 1,615,000円
合計 7,000,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2018-11-01
更新日
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