新課題医療廃棄物の処理システムの構築に関する研究

文献情報

文献番号
199800603A
報告書区分
総括
研究課題名
新課題医療廃棄物の処理システムの構築に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
松島 肇(浜松医科大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 配島由二(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 保科定頼(東京慈恵会医科大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
新課題医療廃棄物には、毎日、多量に排出される消毒剤、遺伝子増幅(PCR)法などで多量に複製されたDNAを含む廃棄物(PCR廃棄物)、狂牛病などの原因であると考えられているプリオン蛋白などの細胞毒性廃棄物などがある。消毒剤は有害性廃棄物であり、PCR廃棄物は発がん性、遺伝毒性などを示す可能性があり、プリオン蛋白は狂牛病、クロイツフェルト・ヤコブ病などの原因物質と考えられているが、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」では、特別に注意を要する廃棄物として規制されていないのが現状であり、医療廃棄物従事者などは慢性的に危険に曝されている可能性がある。
そこで、細胞毒性廃棄物の安全な処理法の確立を目指し、消毒剤については、医療機関などの排水処理に多用されている活性汚泥による毒性評価を通して、活性汚泥法の適用を探る。PCR廃棄物、プリオン蛋白などについては、酸化剤、アルカリ化剤などによる不活化法を確立して、それらの実用化処理装置を模索する。医療機関などに対して、細胞毒性廃棄物の処理についてアンケ-ト調査および聞き取り調査を実施し、それらの実態と問題点を具体的に提示する。
平成10年度は、消毒剤の活性汚泥への適用を検討するために、ワ-ルブルグ検圧計を用いて酸素吸収量を測定して、最大無作用濃度、半数致死濃度(阻害率50%濃度)で評価する。PCR廃棄物、プリオン蛋白などの廃棄物については、文献検索によって画期的な処理法を探るとともに、基礎的な実験法を模索する。医療機関などに対して、細胞毒性廃棄物の取扱いのアンケ-ト調査を実施して、その実態を明らかにする。
研究方法
ワ-ルブルグ検圧計を用い、採取後、医療系廃水に特徴的な貧栄養下で馴養した活性汚泥の適量に、供試消毒剤希釈溶液などを添加し、活性汚泥の酸素吸収量(呼吸量)を測定した。反応容器の主室には供試消毒剤希釈溶液などを入れ、副室には呼吸によって発生する二酸化炭素吸収用の水酸化ナトリウム溶液を入れる。測定条件は、予備実験の結果、水温20℃、振とう回数100回/分、活性汚泥濃度3、500mg/l、基質(グルコ-ス)濃度 100mg/l、pH 7.2(リン酸緩衝液使用)、測定時間 5時間とした。
遺伝子増幅のためのプライマ-として大腸菌16Sリボソ-ムRNAの519-536番目と907-926番目に相当する配列をDNA合成し、16Sリボソ-ムユニバ-サルプライマ-#1(16SRRI:CAGCAGCCGCCGTAATAC)と#2(16SRRⅡ:CCGTCAATTCCTTTGAGTTT)を用いて実験を行った。この二つのプライマ-は各菌種の16Sリボソ-ムRNAに広く保存された塩基配列を示し、それをコ-ドしている細菌DNA の存在を検出できる。PCRによる細菌16Sリボソ-ムDNAの検出には Gene Amp PCR Reagent Kit(ABI)を用いた。検体を98℃3分加熱急冷し、DNAを十分熱変性された後、前述したキット試薬を添加し、 94℃1分、60℃2分、72℃3分で30サイクルDNA増幅を行った。反応終了後、6%ポリアクリルアミドゲル電気泳動し、エチジウムブロマイド染色して紫外線をあて約400塩基のバンドを確認する。
プリオン蛋白汚染物の不活化に応用できる新処理技術については、各種の論文調査およびインタ-ネットホ-ムペ-ジにアクセスして必要な情報を収集した。また、米国の関係企業の協力によりアルカリ加水分解装置の資料の入手を試みた。
医療機関などにおける細胞毒性廃棄物の取扱いの実態についてアンケ-ト調査を実施した。
結果と考察
活性汚泥に対する消毒剤の毒性については、ワ-ルブルグ検圧計を用いて測定して、 5時間後の活性汚泥の酸素吸収量が正常値と同じ値になったときの消毒剤の濃度を最大無作用濃度として評価した。また、同様に、 5時間後の活性汚泥の酸素吸収量が正常値の半分(50%)になったときの消毒剤の濃度を半数致死濃度(阻害率50%濃度)として評価する方法を用いた。最大無作用濃度または半数致死濃度(阻害率50%濃度)の値が小さいほど、活性汚泥に対する毒性(阻害)が強いことになる。
各種消毒剤の活性汚泥に対する毒性試験の結果、最大無作用濃度でみると、最も毒性の強い消毒剤は、ヘキサクロロフェンで推定 6mg/lであり、つづいてトリクロサンで20mg/lであり、20%クロルヘキシジンジグルコネ-トで 110mg/l、塩化ベンゼトニウムで 120mg/l、ポビドンヨ-ドで 130mg/l、クレゾ-ル石けん液で 320mg/lなどの順である。
また、半数致死濃度(阻害率50%濃度)でみると、最も毒性の強い消毒剤は、トリクロサンで50mg/lであり、つづいてヘキサクロロフェンで 110mg/lであり、 4%クロルヘキシジンジグルコネ-トで 140mg/l、 5%クロルヘキシジンジグルコネ-トで 200mg/l、20%クロルヘキシジンジグルコネ-トで 220mg/l、塩化ベンゼトニウムで 290mg/l、ポビドンヨ-ドで 300mg/l、アルキルジ(アミノエチル)グリシン塩酸塩で 640mg/l、クレゾ-ル石けん液で 920mg/lなどの順である。今後は、これらの値を活性汚泥処理装置で実験的に評価して、活性汚泥による実用化処理の方向性を探る。
PCR廃棄物に関して、前述したユニバ-サルプライマ-を用いた研究で、実験室内が広範に汚染されている実態が認められた。 DNA診断によって生じる同じ塩基配列をもった多量のPCR廃棄物については、同じ塩基配列を含んでいることが多く、正常細胞に曝露されることは問題が多いと考える。このようにPCR廃棄物の処理には、感染性廃棄物容器への封じ込めと中間処理、とくに次亜塩素酸ナトリウムによる酸化分解、活性汚泥、紫外線による分解、また作業には手袋の着用が有効と考えられる。
プリオン蛋白汚染物の不活化法として、文献およびインタ-ネットで検索した結果、アルカリ加水分解法が最も有力であると考えられるので、米国の関係企業の協力により入手したアルカリ加水分解装置の資料を基に、その基礎的実験の検討に入っている。
医療機関などにおける細胞毒性廃棄物のアンケ-ト調査については、解析中である。
結論
医療系廃水に特徴的な貧栄養下にある活性汚泥を用いて、ワ-ルブルグ検圧計による酸素吸収量から、各種消毒剤の活性汚泥に対する毒性(阻害)を求めた。
最大無作用濃度では、ヘキサクロロフェンで推定 6mg/lと最も毒性が強く、つづいてトリクロサン、20%クロルヘキシジンジグルコネ-ト、塩化ベンゼトニウム、ポビドンヨ-ド、クレゾ-ル石けん液の順で、 20-320mg/lである。半数致死濃度(阻害率50%濃度)では、トリクロサンで50mg/lと最も毒性が強く、つづいてヘキサクロロフェン、クロルヘキシジンジグルコネ-ト、塩化ベンゼトニウム、ポビドンヨ-ド、クレゾ-ル石けん液などの順で、 110-920mg/lである。
ユニバ-サルプライマ-により実験室内のPCR廃棄物汚染が観察された。このようにPCR廃棄物の処理には、感染性廃棄物容器への封じ込めと中間処理、次亜塩素酸ナトリウムによる酸化分解、活性汚泥、紫外線による分解、また作業には手袋の着用が有効と考えられる。
PCR廃棄物、プリオン蛋白などの新処理技術の文献検索から、前者については次亜塩素酸ナトリウムによる酸化分解、後者についてはアルカリ剤による加水分解がそれぞれ有力であると判断した。

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