注射用抗がん剤等の適正使用と残液の取扱いに関するガイドライン作成のための研究

文献情報

文献番号
201706030A
報告書区分
総括
研究課題名
注射用抗がん剤等の適正使用と残液の取扱いに関するガイドライン作成のための研究
課題番号
H29-特別-指定-030
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
加藤 裕久(昭和大学 薬学部 薬剤情報学講座 医薬情報解析学部門)
研究分担者(所属機関)
  • 濱 宏仁(神戸市立医療センター 西市民病院・薬剤部)
  • 田崎 嘉一(旭川医科大学・病院 薬剤部)
  • 中山 季昭(埼玉県立小児医療センター・薬剤部)
  • 山口 正和(国立がん研究センター東病院・薬剤部)
  • 成川 衛(北里大学 薬学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
13,419,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 注射用抗がん剤等の高額な医薬品の残液が廃棄されることによる医療費の損失は膨大である。その方策として、一定の条件のもと1つのバイアル製剤を複数の患者で使用するマルチユース(複数回使用)が、諸外国で実施されている。我が国では、従来、1回使用して廃棄する単回使用(シングルユース)が、ほとんどの注射剤で行われていた。1つのバイアル製剤を複数回使用することによる感染の危険性、取り間違え等による重大な医療事故の発生、調製作業の増加による患者待ち時間への影響と薬剤師業務の負担の増加などが懸念される。本研究班では、我が国で注射用抗がん剤等の残液を安全に複数回使用するための指針をポジションペーパーとして取りまとめた。
研究方法
 安全な複数回使用に関する研究として、残液の複数回使用時の安全性に関する検討、安全に複数回使用する医療現場での無菌調製環境に関する検討、調製者の安全性を考慮した無菌調製手順の検討、複数回使用に伴う調製業務への影響に関する検討を行った。そして、注射用抗がん剤等の医療費の適正使用に関する検討として、医療機関を対象とした注射用抗がん剤の使用状況の調査及びそれに基づく残液に関する試算、製薬企業を対象とした注射用抗がん剤の小規格製剤の製造販売に要するコスト等に関する調査を行った。
結果と考察
 1つのバイアル製剤を安全に複数回使用するための調製環境は、安全キャビネット(ISO Class 5)(BSC)の使用、無菌室(ISO Class 5)に設置されたBSCの使用が望ましいが、一般注射製剤室等(ISO Class 8)に設置されたBSCを使用する。調製手順は、日本病院薬剤師会監修「抗がん薬調製マニュアル」に準拠した無菌調製の実施、調製者への抗がん剤の曝露の危険性を回避するための曝露防止用閉鎖式薬物移送システム(CSTD)の使用の推奨、同一バイアル製剤の穿刺回数は2回まで、ISO Class 8相当の一般注射製剤室等に設置した冷蔵庫あるいは室温保管庫への保管、保管庫あるいはBSC内での保管は最初に穿刺した当日のみ、施設毎の調製手順書の作成である。
 施設で調製方法、保管方法・期間等を変更する場合は、無菌性と安全性について、各施設で十分に検証後、実施しなければならない。
注射用抗がん剤の使用状況調査を基にした試算結果より、残液を同日内に複数回使用することにより、廃棄量を1/3~2/3に削減できることが示された。新たな小規格製剤やマルチドース製剤の開発の問題点も浮き彫りになった。
今後の課題として、複数回使用する抗がん剤の選定とその基準、日本人の実投与量に見合った適切な製剤規格の開発、体表面積等で算出される投与量と実投与量の検討などが挙げられる。
結論
注射用抗がん剤等を安全に複数回使用するための調製環境ならびに調製手順(「注射用抗がん剤等の安全な複数回使用に関する手引き」)、医療経済性ついて、検討した。施設で調製方法、保管方法・期間等を変更する場合は、無菌性と安全性について、各施設で検証後、実施する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2019-02-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2019-02-20
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201706030C

成果

専門的・学術的観点からの成果
注射用抗がん剤の複数回使用時の微生物学的安全性ならびに安全に複数回使用するための調製環境、調製方法そして保管期間について細菌培養試験等により検討した結果、臨床に適用可能な取扱い基準を示すことができた。
臨床的観点からの成果
国内においては、抗がん剤を安全に複数回使用する院内残液の取扱いに関する明確な指針がなかったことから、各医療機関の判断で院内残液を取り扱っている現状であったが、本研究により、院内残液の安全性が確保され、かつ日本国内の医療の現状に即したガイドライン(手引き)の策定が可能となり、曝露防止用閉鎖式薬物移送システム(CSTD)を用いた標準的な取扱いについても一定の見解を示すことができた。
ガイドライン等の開発
本研究は、「注射用抗がん剤の適正使用と残液の取扱いに関する手引きについて」として、第1回医薬品医療機器制度部会(平成30年4月11日)で報告された。
その他行政的観点からの成果
抗がん剤の複数回使用に関する安全性の高い取扱い指針を明確化するとともに、これまで院内残液の活用・削減について、医療費適正化効果を検証したエビデンスはなく、本研究の成果を活用することで、効果的な医療費適正化に資する取組を実施できると見込まれる。実際に医療機関で院内残液の活用方策を実施した場合のコストと残液の削減効果を検証した成果は、厚生労働省における今後の政策決定に活用されることが想定され、行政施策への寄与は高いものである。
その他のインパクト
新聞社、テレビ局等の報道関係者より取材申し込みがあり、適宜対応した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
第1回医薬品医療機器制度部会(平成30年4月11日)報告
その他成果(普及・啓発活動)
1件
日本病院薬剤師会監修「抗がん薬調製マニュアル」改訂版に掲載予定

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
米村 雅人, 山口 正和, 加藤 裕久 他
注射用抗がん薬バイアルの複数回使用に伴う無菌調製業務への影響の評価
日本病院薬剤師会雑誌 , 54 (11) , 1396-1402  (2018)
2019093055
原著論文2
濱 宏仁, 森本 茂文
単回使用バイアルの分割使用を前提とした保管条件の違いによるバイアル内無菌性保持の検討
医療薬学 , 45 (1) , 21-27  (2019)
2019099151
原著論文3
濱 宏仁
Single-dose vial穿刺後の残液分割使用における安全性の検討
医療薬学 , 44 (9) , 449-457  (2018)
2019002257
原著論文4
中山 季昭, 内田 礼人, 片山 明香, 嶋崎 幸也
抗がん薬分割使用時における曝露リスクに関する検討
医療薬学 , 44 (11) , 575-581  (2018)
2019065682
原著論文5
中山 季昭
抗がん薬曝露の危険性と安全対策 獣医療に必要な抗がん薬曝露対策とは?
Japanese Journal of Veterinary Clinical Oncology , 14 (1) , 78-84  (2018)
2018157189

公開日・更新日

公開日
2019-02-20
更新日
2022-05-26

収支報告書

文献番号
201706030Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
16,274,000円
(2)補助金確定額
15,893,463円
差引額 [(1)-(2)]
380,537円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 7,253,376円
人件費・謝金 0円
旅費 584,612円
その他 4,300,475円
間接経費 3,755,000円
合計 15,893,463円

備考

備考
単年度短期間の研究であったため、調製業務調査の研究において当初データ集計、解析に研究協力者を配置し研究を行う予定であった。しかしながら、Webアンケートを採用し全国から効率的にデータ収集し、迅速な処理が可能となり、また分担研究者の施設で業務量の計測にご協力いただくことが可能となり、最終的に謝金や人件費分などの支出が不要となり、予算と支出に差額が生じた。

公開日・更新日

公開日
2019-02-20
更新日
-