文献情報
文献番号
201706018A
報告書区分
総括
研究課題名
2020年オリンピック・パラリンピック東京大会等に向けた化学テロ等重大事案への準備・対応に関する研究
課題番号
H29-特別-指定-018
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
小井土 雄一(独立行政法人国立病院機構災害医療センター 臨床研究部)
研究分担者(所属機関)
- 阿南 英明(藤沢市民病院 救命救急センター)
- 本間 正人(鳥取大学 医学部救急災害医学)
- 水谷 太郎(公益財団法人日本中毒情報センター)
- 吉岡 敏治(公益財団法人日本中毒情報センター)
- 近藤 久禎(独立行政法人国立病院機構災害医療センター 臨床研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
3,150,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究は、オリパラの会場規模や配置等も踏まえた上で、化学テロ発生時の多数傷病者対応や、必要医薬品の種類・量の再検討、既存の化学テロ等対応の資料の再整理、緊急時用医薬品の国家備蓄及び流通在庫の配送スキームの整理等を行うことで、本邦の化学テロ対応体制の向上を目的とする。
研究方法
1.化学テロ等発生時の多数傷病者対応(病院前)
海外の先進的指針の検証、本邦の現行化学テロ対応指針に関する検証、本邦と海外の対応指針の比較検討による改変すべき指針の方向性を検討する。
2.化学テロ等発生時の多数傷病者対応(病院内)
化学テロを想定した机上訓練を実施し、①災害拠点病院や総合病院の対応、②一般病院が行うべき初期対応と準備、③明らかに病院の受け入れ能力を超えた場合の地域対応計画の検討をする。
3.化学テロ発生時の必要薬剤の種類・量の再検討
化学テロ等発生時に必要な解毒薬・拮抗薬に関するアンケート調査を各施設に行い、在庫状況を確認する。その上で、東京オリパラ競技会場の屋外・屋内大型施設におけるサリン散布事案を想定したシナリオを作成する。
4.化学災害・化学テロ対応に関する資料の収集と新たなテロ対策の構築
国内外の研究会・検討会、医学会等を通じて得られた情報から、文献的裏付けの得られた事実を整理し、サリンテロを中心に化学兵器危機管理データベースを作成する。
5.国家備蓄及び流通在庫の配送スキーム
①諸外国での化学テロ災害時等の解毒薬・拮抗薬流通モデルや体制の調査と②東京オリパラ開催時における化学テロ等の解毒薬・拮抗薬配備と搬送スキーム等を検討する。
海外の先進的指針の検証、本邦の現行化学テロ対応指針に関する検証、本邦と海外の対応指針の比較検討による改変すべき指針の方向性を検討する。
2.化学テロ等発生時の多数傷病者対応(病院内)
化学テロを想定した机上訓練を実施し、①災害拠点病院や総合病院の対応、②一般病院が行うべき初期対応と準備、③明らかに病院の受け入れ能力を超えた場合の地域対応計画の検討をする。
3.化学テロ発生時の必要薬剤の種類・量の再検討
化学テロ等発生時に必要な解毒薬・拮抗薬に関するアンケート調査を各施設に行い、在庫状況を確認する。その上で、東京オリパラ競技会場の屋外・屋内大型施設におけるサリン散布事案を想定したシナリオを作成する。
4.化学災害・化学テロ対応に関する資料の収集と新たなテロ対策の構築
国内外の研究会・検討会、医学会等を通じて得られた情報から、文献的裏付けの得られた事実を整理し、サリンテロを中心に化学兵器危機管理データベースを作成する。
5.国家備蓄及び流通在庫の配送スキーム
①諸外国での化学テロ災害時等の解毒薬・拮抗薬流通モデルや体制の調査と②東京オリパラ開催時における化学テロ等の解毒薬・拮抗薬配備と搬送スキーム等を検討する。
結果と考察
1.化学テロ等発生時の多数傷病者対応(病院前)
特筆すべき海外の先進的指針の内容は以下であった。①人命救助のためには一刻も早い対応を強調し、特別な資機材の有無に関わらず、行動を開始すること。②支援を必要とする被災者対策を明確化していること。また、脱衣により90%減少し、各ステップで10%ずつ低下することが示された。一方、本邦の化学テロ対応指針や救助者の認識には救命の観点や、論理的整合性、新知見との融合の面で課題が残っていた。両者の比較から早急に改善すべき事項を抽出した。
2.化学テロ等発生時の多数傷病者対応(病院内)
机上シミュレーションを通して、現場で全ての傷病者を捕捉することは困難であり、多くの患者が消防等の現場管理をすり抜けて、早期から病院に到着すること、現場での除染には時間を要し、除染を待ちきれない傷病者が病院に向かう可能性があることが明らかとなった。
3.化学テロ発生時の必要薬剤の種類・量の再検討
屋外大型競技会場(患者数750名)及び屋内大型競技会場(患者数500名)でのサリン散布シナリオを想定した。競技会場から半径10km圏内にある災害拠点病院へ患者を搬送した場合、両シナリオとも各施設の解毒薬・拮抗薬の保有数量で初期投与分を賄うことができず、各初期投与後の継続投与も出来ない状況であった。
4.化学災害・化学テロ対応に関する資料の収集と新たなテロ対策の構築
【化学兵器危機管理データベース】研究結果は、本分担報告書(巻末)に収載した成果物の項目に沿ってまとめられた。そのなかで本報告書では、本邦では未だ訓練マニュアル等に反映されていない項目について概略を述べた。
【サリンの物性、症状や治療法等についての基本データベース】日本中毒情報センターが整備したサリンの物性、症状や治療法などについての基本データベースに改変を加えた。
5.国家備蓄及び流通在庫の配送スキーム
米国とイスラエルの調査での共通点は、化学テロ等の対応に関して、国主導での体制・組織作りが行われていた点である。これを踏まえ、東京オリパラに対する解毒薬・拮抗薬配備と搬送スキーム等の検討を行った結果、東京オリパラ用の新規国家備蓄の確保が重要であることが判明した。また解毒薬・拮抗薬の早期投与を目標に掲げ、戦略的配置・供給方法の検討を行った結果、戦略的配置としては、新規国家備蓄を東京23区内の地域災害拠点中核病院の7病院に初期配置すること、戦略的供給方法としては既存と新規国家備蓄搬送に対する「二つの矢構想」を考案した。
特筆すべき海外の先進的指針の内容は以下であった。①人命救助のためには一刻も早い対応を強調し、特別な資機材の有無に関わらず、行動を開始すること。②支援を必要とする被災者対策を明確化していること。また、脱衣により90%減少し、各ステップで10%ずつ低下することが示された。一方、本邦の化学テロ対応指針や救助者の認識には救命の観点や、論理的整合性、新知見との融合の面で課題が残っていた。両者の比較から早急に改善すべき事項を抽出した。
2.化学テロ等発生時の多数傷病者対応(病院内)
机上シミュレーションを通して、現場で全ての傷病者を捕捉することは困難であり、多くの患者が消防等の現場管理をすり抜けて、早期から病院に到着すること、現場での除染には時間を要し、除染を待ちきれない傷病者が病院に向かう可能性があることが明らかとなった。
3.化学テロ発生時の必要薬剤の種類・量の再検討
屋外大型競技会場(患者数750名)及び屋内大型競技会場(患者数500名)でのサリン散布シナリオを想定した。競技会場から半径10km圏内にある災害拠点病院へ患者を搬送した場合、両シナリオとも各施設の解毒薬・拮抗薬の保有数量で初期投与分を賄うことができず、各初期投与後の継続投与も出来ない状況であった。
4.化学災害・化学テロ対応に関する資料の収集と新たなテロ対策の構築
【化学兵器危機管理データベース】研究結果は、本分担報告書(巻末)に収載した成果物の項目に沿ってまとめられた。そのなかで本報告書では、本邦では未だ訓練マニュアル等に反映されていない項目について概略を述べた。
【サリンの物性、症状や治療法等についての基本データベース】日本中毒情報センターが整備したサリンの物性、症状や治療法などについての基本データベースに改変を加えた。
5.国家備蓄及び流通在庫の配送スキーム
米国とイスラエルの調査での共通点は、化学テロ等の対応に関して、国主導での体制・組織作りが行われていた点である。これを踏まえ、東京オリパラに対する解毒薬・拮抗薬配備と搬送スキーム等の検討を行った結果、東京オリパラ用の新規国家備蓄の確保が重要であることが判明した。また解毒薬・拮抗薬の早期投与を目標に掲げ、戦略的配置・供給方法の検討を行った結果、戦略的配置としては、新規国家備蓄を東京23区内の地域災害拠点中核病院の7病院に初期配置すること、戦略的供給方法としては既存と新規国家備蓄搬送に対する「二つの矢構想」を考案した。
結論
本研究により、化学テロ対応等に関する海外の最新の知見や準備・対応状況、国内の体制整備状況等が明確となった。これらを踏まえ、新知見に基づいた病院前・病院の対応の刷新や治療方針の見直しを進めることで、化学テロ対応等における国際的な標準化に資するものと考える。また、現状の解毒薬・拮抗薬の保有状況を踏まえ、オリパラに向けた国家備蓄の再検討(新規購入計画策定に向けた基礎資料として提示)、新規購入分の初期分配場所の提案、国家備蓄・新規購入備蓄の2つの配送スキームの検討を進めることにより、国家備蓄使用においてより迅速かつ効果的な体制構築に資するものと考える。
公開日・更新日
公開日
2018-06-05
更新日
2019-01-15