文献情報
文献番号
201706012A
報告書区分
総括
研究課題名
医療的ケア児に対する教育機関における看護ケアに関する研究
課題番号
H29-特別-指定-012
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
田村 正徳(埼玉医科大学 総合医療センター総合周産期母子医療センター)
研究分担者(所属機関)
- 岩本 彰太郎(三重大学医学系研究科)
- 田角 勝(昭和大学小児科)
- 米山 明(心身障害児総合医療療育センター)
- 前田 浩利(医療法人財団はるたか会)
- 田中 総一郎(あおぞら診療所 ほっこり仙台)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
8,716,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
医療的ケア児が学校において義務教育を受け易くする体制整備の推進のためには、どの様な方式での訪問看護師の関与が安全で効果的であるかを明らかにする。
研究方法
人工呼吸器を装着した児童を対象として、呼吸器ケアに習熟した訪問看護師が学校での医療的ケアに関与することによって、保護者の付き添いを解消することの利点と課題を明らかにするために以下の4パターンでの介入研究を実施し、関係者の事前と事後のアンケート調査から介入の効果を評価した。
Ⅰ型(訪問看護師の付き添い):訪問看護師が付き添い学校での医療的ケアを全て行う。
Ⅱ型(訪問看護師による伝達):訪問看護師が学校看護師にケアの方法などを伝達する。
Ⅲ型(訪問看護師によるケア+伝達)訪問看護師が学校看護師にケアの方法などを伝達し、同時に訪問看護師もケアを実施する。
IV型(訪問看護師が複数の児の付き添い):訪問看護師が複数の人工呼吸器児の医療的ケアを行う。
Ⅰ型(訪問看護師の付き添い):訪問看護師が付き添い学校での医療的ケアを全て行う。
Ⅱ型(訪問看護師による伝達):訪問看護師が学校看護師にケアの方法などを伝達する。
Ⅲ型(訪問看護師によるケア+伝達)訪問看護師が学校看護師にケアの方法などを伝達し、同時に訪問看護師もケアを実施する。
IV型(訪問看護師が複数の児の付き添い):訪問看護師が複数の人工呼吸器児の医療的ケアを行う。
結果と考察
1.21例の事例において安全に介入研究を実施出来た。パターン別にみるとI型は14例、II型は3例、III型は4例で全21例であった。IV型は4組だが、他の型の患者と併用であった。
2. 介入前後のアンケート調査の対象者別の回答数と回答率を表に示す。
回答者 介入前回答者数(回答率) 介入後回答者数(回答率)
対象児の保護者 22名(85%) 18名(86%)
学校看護師 (常勤) 45名(98%) 26名(70%)
担任教師 35名(100%) 27名(87%)
同級生の保護者 5名(100%) 5名(100%)
訪問看護師 ------------- 20名(95%)
3. すべてのパターンに共通する利点
予想通り保護者の負担を減らす事が出来た。その上に母子分離による対象児の自立や社会性の促進が認められた。更に同じクラスの児童も看護師に対象児に関する質問をしたり対象児に声かけをしたりして児童同士の交流が深まった。担任も子ども同士の世界を作ることが出来、授業に専念できた。学校看護師にとっても対象児の医療的ケアの内容を客観的に理解し意見交換する好機となった。
4. すべてのパターンに共通する課題
学校関係者も訪問看護師も医療的トラブルや事故が発生したときの責任は誰がどの様にとることになるのかを危惧していた。学校関係者は第三者が入ってくることによる教育の現場の混乱を危惧していたが、今回の介入研究ではそうした報告は無かった。ただ訪問看護師と学校関係者と主治医との協議や引き継ぎには分担研究者も含めて多大な労力と時間を割かねばならなかった。そのため介入時給8千~1万円、もしくは1日5万~6万円という報酬でないと訪問看護ステーションが引き受けてくれないだろうという意見が出された。IV.型は経済効率が良さそうであるが、別のクラスの児をカバーする場合は保護者や教員から不安の声が上がった。また今回の介入研究では特別支援学校では、医療的ケアの在り方に関する規則が決まっていたため、訪問看護師と学校看護師と話し合っても変更する余地は少なかった。これに対し、小中学校では学校看護師が1人しかおらず、訪問看護師が介入することを喜ばれ、医療的ケアに関する規則が柔軟であったため児童のケアに関する協議が発展し、技術の伝授が起こり、訪問看護師にとっても学校にとってもメリットは大きかったという報告が見られたが、事例が少ないので一般化できるか否かは今後の検討が必要である。
以上のような諸課題を解決するためには、介入研究を更に継続すると同時に平行して、①学校における人工呼吸器ケアの運用改善、②学校看護師向け研修、③トラブル発生時の法的な保障の検討、④4訪問看護師と学校側との連携協議、⑤訪問看護師介入時の費用負担の検討、⑥複数児への対応問題、⑦学校外活動時のケア、⑧学校における看護ケア手順の作成 等の取り組みをすることが必要であると考えられる。
2. 介入前後のアンケート調査の対象者別の回答数と回答率を表に示す。
回答者 介入前回答者数(回答率) 介入後回答者数(回答率)
対象児の保護者 22名(85%) 18名(86%)
学校看護師 (常勤) 45名(98%) 26名(70%)
担任教師 35名(100%) 27名(87%)
同級生の保護者 5名(100%) 5名(100%)
訪問看護師 ------------- 20名(95%)
3. すべてのパターンに共通する利点
予想通り保護者の負担を減らす事が出来た。その上に母子分離による対象児の自立や社会性の促進が認められた。更に同じクラスの児童も看護師に対象児に関する質問をしたり対象児に声かけをしたりして児童同士の交流が深まった。担任も子ども同士の世界を作ることが出来、授業に専念できた。学校看護師にとっても対象児の医療的ケアの内容を客観的に理解し意見交換する好機となった。
4. すべてのパターンに共通する課題
学校関係者も訪問看護師も医療的トラブルや事故が発生したときの責任は誰がどの様にとることになるのかを危惧していた。学校関係者は第三者が入ってくることによる教育の現場の混乱を危惧していたが、今回の介入研究ではそうした報告は無かった。ただ訪問看護師と学校関係者と主治医との協議や引き継ぎには分担研究者も含めて多大な労力と時間を割かねばならなかった。そのため介入時給8千~1万円、もしくは1日5万~6万円という報酬でないと訪問看護ステーションが引き受けてくれないだろうという意見が出された。IV.型は経済効率が良さそうであるが、別のクラスの児をカバーする場合は保護者や教員から不安の声が上がった。また今回の介入研究では特別支援学校では、医療的ケアの在り方に関する規則が決まっていたため、訪問看護師と学校看護師と話し合っても変更する余地は少なかった。これに対し、小中学校では学校看護師が1人しかおらず、訪問看護師が介入することを喜ばれ、医療的ケアに関する規則が柔軟であったため児童のケアに関する協議が発展し、技術の伝授が起こり、訪問看護師にとっても学校にとってもメリットは大きかったという報告が見られたが、事例が少ないので一般化できるか否かは今後の検討が必要である。
以上のような諸課題を解決するためには、介入研究を更に継続すると同時に平行して、①学校における人工呼吸器ケアの運用改善、②学校看護師向け研修、③トラブル発生時の法的な保障の検討、④4訪問看護師と学校側との連携協議、⑤訪問看護師介入時の費用負担の検討、⑥複数児への対応問題、⑦学校外活動時のケア、⑧学校における看護ケア手順の作成 等の取り組みをすることが必要であると考えられる。
結論
十分な準備期間の下に訪問看護師を活用することにより教育機関で保護者の付き添いが無くとも人工呼吸管理中の児の医療的ケアを安全に実施することが出来た。それは保護者の負担を軽減するだけで無く、対象児や周囲の児童にも種々の教育的効果をもたらすことが示された。しかし、今回の研究では事例数が少なく、4つの介入パターンともに種々の課題があることもあきらかになったので、具体的な政策提言をするためには更なる介入研究の継続が必要であると考えられる。
公開日・更新日
公開日
2018-12-27
更新日
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