文献情報
文献番号
201706003A
報告書区分
総括
研究課題名
医療通訳の費用対効果研究
課題番号
H29-特別-指定-003
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
柴沼 晃(東京大学大学院医学系研究科 国際地域保健学教室)
研究分担者(所属機関)
- 神馬 征峰(東京大学大学院医学系研究科 国際地域保健学教室 )
- 桐谷 純子(東京大学大学院医学系研究科 国際地域保健学教室 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生労働科学特別研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
7,282,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
日本では在留外国人人口は増加している。彼らの保健医療サービスへのアクセスを保障するためには、言語の障壁を取り除く必要があり、医療通訳制度の導入がその解決策となり得る。既存研究では、在留外国人の健康状態や保健医療サービスへのアクセスについて、限定された地域におけるケースタディーが多く、その全体像は必ずしも明らかでない。また、医療機関を訪れた患者を対象とした調査や単一のコミュニティーを調査したものが多く、出身地域の異なる多様な在留外国人を対象にした包括的な住民調査は少ない。本研究では、日本に3ヶ月以上在住する在留外国人(英語話者及び非英語話者)を対象に、医療通訳サービス等、受療時にコミュニケーション支援を受けたかどうか、また受ける意思があるかどうかについて調査した。また、かかる支援と実際の保健医療アクセスとの関連について検討した。
研究方法
横断研究として日本の関東地方(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、茨城県、群馬県、栃木県)において2018年1月から3月の間にインタビュー調査を実施した。調査対象者は、日本に3ヶ月以上在住する20歳以上の外国籍の住民とした。日本語会話能力について、「病院において医師との会話に全く問題ない」と回答した者は除外した。データ収集は、構造化された調査票(中国語、ネパール語、フィリピノ語、ベトナム語、英語)を用いて対面式のインタビュー調査として実施された。収集されたデータは、集計表による記述統計とロバスト標準偏差を用いた一般化推定方程式により分析された。
結果と考察
本研究では、523人が調査に同意し、調査に回答した。調査時点1年以内に何らかの症状のあったのは366人(70.0%)であった。受療した214人のうち、通訳のために友人や家族が付き添ったのは72人(33.6%)、職業医療通訳者(病院が準備した医療通訳者を含む)が付き添ったのは6人(2.8%)であった。日本語能力の主観的評価が低い在留外国人に限ると、友人や家族が付き添った者のうち、「医師の説明を理解した」と答えた割合は42.5%であり、職業医療通訳者(病院が準備した医療通訳者を含む)が付き添った者や付添人がいなかった者よりもその割合が少なかった。職業医療通訳者を雇用する場合の支払意思額で最も多かったのは、1,000円と6,000円で、それぞれ141人(27.0%)が回答した。約4割(38.1%)が6,000円以上の支払意思を示した。咳や痰、発熱の症状が4週間続いたとする仮想的な症状に対して、168人(32.1%)が「通訳がいるなら病院へ行く」と回答した。日本語能力が低いと回答した304人に限れば、「通訳がいるなら病院へ行く」と回答したのは142人(46.7%)であった。喉の渇き、空腹、頻尿、体重減少が6ヶ月続いたとする仮想的な症状に対する受療意思について、201人(38.4%)が「通訳がいるなら病院へ行く」と回答した。日本語能力が低いと回答した304人に限れば、「通訳がいるなら病院へ行く」と回答したのは162人(53.3%)であった。
在留外国人の言語能力と受療行動や医師の説明への理解については、過去の研究においても指摘されている。本研究では、それに加えて、受療時に医師の説明への理解が低い在留外国人の属性を明らかにした。中でも、英語話者を中心とする「その他の出身国」に比べて、ネパール人とフィリピン人は医師の説明を理解している者の割合が有意に低かった。この結果は英語話者以外の医療通訳サービス普及の必要性を示唆している。また、日本語能力が低い在留外国人の場合、結核や糖尿病などに症状に対しては通訳サービスを提供することが受療率を向上させるために重要であることが示唆された。支払意思額の分析から、適切な医療通訳者がいればサービスを利用し対価を払う者が一定数いることが示唆された。一方、支払意思のない者も約2割いたことから、当該サービスへの財政支援を検討する必要があると考えられる。
在留外国人の言語能力と受療行動や医師の説明への理解については、過去の研究においても指摘されている。本研究では、それに加えて、受療時に医師の説明への理解が低い在留外国人の属性を明らかにした。中でも、英語話者を中心とする「その他の出身国」に比べて、ネパール人とフィリピン人は医師の説明を理解している者の割合が有意に低かった。この結果は英語話者以外の医療通訳サービス普及の必要性を示唆している。また、日本語能力が低い在留外国人の場合、結核や糖尿病などに症状に対しては通訳サービスを提供することが受療率を向上させるために重要であることが示唆された。支払意思額の分析から、適切な医療通訳者がいればサービスを利用し対価を払う者が一定数いることが示唆された。一方、支払意思のない者も約2割いたことから、当該サービスへの財政支援を検討する必要があると考えられる。
結論
関東地方に在住する中国語、ネパール語、フィリピノ語、ベトナム語、英語を母語とする在留外国人の間では、医療通訳サービスの利用はごくわずかであること、家族や友人が通訳として付き添った者は受療時の医師の説明への理解が低いことが分かった。医療通訳サービスへの支払意思がある者とない者に二分されているが、結核や糖尿病など治療が継続されない場合の健康負荷が高い疾病に関して、受療時の医療通訳を求める者は多い。英語などに加えて、多言語の医療通訳サービス普及と財政支援が求められる。
公開日・更新日
公開日
2018-06-26
更新日
-