東アジア、ASEAN諸国の人口高齢化と人口移動に関する総合的研究

文献情報

文献番号
201705001A
報告書区分
総括
研究課題名
東アジア、ASEAN諸国の人口高齢化と人口移動に関する総合的研究
課題番号
H27-地球規模-一般-001
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 透(国立社会保障・人口問題研究所 人口構造研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 林 玲子(国立社会保障・人口問題研究所 国際関係部)
  • 小島克久(国立社会保障・人口問題研究所 情報調査分析部)
  • 菅 桂太(国立社会保障・人口問題研究所 人口構造研究部)
  • 中川雅貴(国立社会保障・人口問題研究所 国際関係部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 地球規模保健課題解決推進のための行政施策に関する研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
3,590,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本を追って急速な経済発展を果たしたアジアNIEsと中国に続き、発展の波はASEAN諸国へと波及している。これらの国々では出生率が急激に低下し、日本以上に急速な高齢化が予想される。東アジア・東南アジアの多くの国で人口ボーナスは消失しつつあり、十分な経済発展と社会保障制度の整備が達成される前に人口高齢化の負の影響が現れる「未富先老」が懸念される。世界で最も高齢化した日本の先行事例を伝えるとともに、これらの国の政策対応を比較分析することは、日本に有益な示唆を与え得る。同時に大都市への人口集中が地方の高齢化を加速させ、高齢化が外国人労働者、国際結婚、退職者の移住等を促進する側面にも注目する必要がある。
研究方法
本事業においては、まず東アジア、ASEAN諸国における人口変動過程(少子化、長寿化、高齢化、国内・国際人口移動等)および関連する政策(少子化対策、家族政策、健康医療介護政策、地方分権政策、移民政策等)の比較分析により、個々の特徴や問題点を明らかにする。また、人口変動に対処する社会保障制度、とりわけ高齢化により需要が急増する医療・介護人材に関する比較を行い、現状や課題、対応策などの多様性を明らかにし、各国の介護政策のあり方とともに、わが国の医療・介護施策の東アジアでの位置、施策の普遍性、今後のあり方に資する知見を得ることを目指す。さらに低出産・高齢化と国内・国際人口移動の交互作用、及び政策との関連を分析する。
結果と考察
 東アジアの多くは置換水準を大きく下回る出生率を示し、置換水準以上の国でも老年人口の増加率は生産年齢人口を大きく上回る。老年人口の増加は介護需要の増加をもたらし、現在介護人材の送出国であるフィリピンやインドネシアもその余裕がなくなるかも知れない。外国人介護人材に依存する高所得国は、今後対応を迫られるだろう。
 日本・韓国・台湾・シンガポールが外国人労働者・外国人花嫁の受入国であるのに対し、シンガポール以外のASEAN諸国は送出国の性格が強い。中国は送出国と受入国の両面を持つと言える。比較的厳格な出入国管理を維持している東アジア諸国に比べ、ASEAN域内の国際人口移動は相対的に多いと思われる。マレーシアはシンガポールに次いで受入国の性格が強く、インドネシア人、フィリピン人、シンガポール人、タイ人が多く滞在している。インドネシアは送出国の性格が強く、女性の出国者が増加している。中国やASEAN諸国の労働者・人材に対しては、今後分野によって日本・韓国・台湾といった受入国の間で獲得競争が激化する可能性がある。
結論
 これまで人口高齢化は先進国の人口問題であり、高度に発達した経済システムと社会保障システムを前提にその影響が論じられてきた。しかし充分に先進国化していない中国や東南アジア諸国で人口ボーナスが終わりつつあり、社会保障制度が未成熟なまま人口高齢化によって発展が阻害される状況は、東南アジア全般に拡散する可能性がある。賢明な経済政策と外国資本の意欲的な投資などで、人口学的不利をはね除けて経済発展できればよいが、そうでなければ深刻な事態に陥り得る。
 日本は外国人単純労働者の受入を避けてきたが、いずれは移民の導入によって人口急減の悪影響を緩和せざるを得なくなると思われる。韓国・台湾・シンガポールは早くから外国人雇用プログラムを実施しており、中国も高度人材の誘致に乗り出している。これらの国々と競争し、望ましい人材をひきつけるためには、より公正で人道的な移民制度が必要となるだろう。

公開日・更新日

公開日
2018-05-24
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2018-05-24
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201705001B
報告書区分
総合
研究課題名
東アジア、ASEAN諸国の人口高齢化と人口移動に関する総合的研究
課題番号
H27-地球規模-一般-001
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 透(国立社会保障・人口問題研究所 人口構造研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 林 玲子(国立社会保障・人口問題研究所 国際関係部)
  • 小島克久(国立社会保障・人口問題研究所 情報調査分析部)
  • 菅 桂太(国立社会保障・人口問題研究所 人口構造研究部)
  • 中川雅貴(国立社会保障・人口問題研究所 国際関係部)
  • 佐々井司(福井県立大学 地域経済研究所)
  • 中川聡史(埼玉大学 大学院人文社会科学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 地球規模保健課題解決推進のための行政施策に関する研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本を追って急速な経済発展を果たしたアジアNIEsと中国に続き、発展の波はASEAN諸国へと波及している。これらの国々では出生率が急激に低下し、日本以上に急速な高齢化が予想される。東アジア・東南アジアの多くの国で人口ボーナスは消失しつつあり、十分な経済発展と社会保障制度の整備が達成される前に人口高齢化の負の影響が現れる「未富先老」が懸念される。世界で最も高齢化した日本の先行事例を伝えるとともに、これらの国の政策対応を比較分析することは、日本に有益な示唆を与え得る。同時に大都市への人口集中が地方の高齢化を加速させ、高齢化が外国人労働者、国際結婚、退職者の移住等を促進する側面にも注目する必要がある。
研究方法
本事業においては、まず東アジア、ASEAN諸国における人口変動過程(少子化、長寿化、高齢化、国内・国際人口移動等)および関連する政策(少子化対策、家族政策、健康医療介護政策、地方分権政策、移民政策等)の比較分析により、個々の特徴や問題点を明らかにする。また、人口変動に対処する社会保障制度、とりわけ高齢化により需要が急増する医療・介護人材に関する比較を行い、現状や課題、対応策などの多様性を明らかにし、各国の介護政策のあり方とともに、わが国の医療・介護施策の東アジアでの位置、施策の普遍性、今後のあり方に資する知見を得ることを目指す。さらに低出産・高齢化と国内・国際人口移動の交互作用、及び政策との関連を分析する。
結果と考察
 韓国と台湾は2000年以後低出生率に対する危機感を強め、出生促進策を採択したが、初期には抵抗もあった。中国では過剰人口への懸念や政治的要請から、依然として出生抑制策が維持されている。結局2015年10月には無条件で第二子を許容する方針が決定されたが、出生数は2017年には早くも減少に転じ、期待されたほどのベビーブームはなかった。
 韓国では極端な都市化と一極集中に対処するため、世宗特別自治市への首都移転計画を進めた。世宗市への行政機関移転は2015年までにほぼ完了し、まだその評価には時期尚早かも知れないが、地域別将来人口推計ではソウル特別市がシェア低下と世宗市・忠清南北道のシェア上昇が予想されている。
 台湾は1992年、韓国は2003年から外国人雇用許可制度を実施しており、日本より積極的に外国人労働者を受け入れている。韓国は中国朝鮮族を優遇しているのに対し、台湾は逆に中国人の流入に障壁を設けている。シンガポールの外国人労働者は、シンガポール人との結婚・妊娠・出産に制限が化せられている。
 韓国は1999年、台湾は2008年、中国は2010年に制度上は皆年金化を達成した。この中で最も早かった韓国で高齢者の福祉が最も悪化しているのは、中国・台湾に比べ家族支援が少ないためだろう。中国では制度的には皆年金・皆保険が達成されたが、農村部では加入率が低く、地域間や公私セクター間の格差も解消されていない。
結論
 中国は現在でも共産党の一党独裁体制を維持しており、強権的で強引な政策が見られる。第2子まで緩和されたとは言え、出産に罰金を科すのは他に類を見ない強権的な政策で、中絶・不妊手術の強制を含む人権侵害が継続される恐れもある。戸口制度は身分差別に近いもので、出生地によって社会保障へのアクセスが制限され、移動の自由は阻害され、農民工の賃金抑圧のためにも悪用された。老年人権益保障法に見られるように、中国政府は社会保障制度の拡充に及び腰で、家族に負担を押しつけようという意図が見られる。
 日韓の日系・韓国系優先や台湾の中国系排除のような民族差別的な移民政策は、長期的に維持できるものではないと思われる。シンガポールの結婚・妊娠・出産の制限は、人道的な問題を含む。移民として最も適応に問題が少ないのは、留学生として入国しその国で就業する場合だろうが、これでは農林漁業や単純労働の人手不足は解消できないだろう。日本が移民国家に転換する際には、公正で人道主義的な制度が求められる。

公開日・更新日

公開日
2018-05-24
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201705001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
国立社会保障・人口問題研究所機関誌『人口問題研究』において特集の予定。また英文著書をSpringer Briefs in Population Studiesシリーズ内で刊行の予定。
臨床的観点からの成果
特になし。
ガイドライン等の開発
特になし。
その他行政的観点からの成果
特になし。
その他のインパクト
各種学会報告に加え、韓国保健社会研究院、中国民政部政策研究中心、中国社会科学院等との共同セミナーでも成果を報告した。

発表件数

原著論文(和文)
17件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
8件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
26件
学会発表(国際学会等)
24件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2018-05-24
更新日
-

収支報告書

文献番号
201705001Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,590,000円
(2)補助金確定額
3,590,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,442,957円
人件費・謝金 44,800円
旅費 1,806,924円
その他 295,907円
間接経費 0円
合計 3,590,588円

備考

備考
自己資金で超過分588円を充填した

公開日・更新日

公開日
2018-05-24
更新日
-