脳波・脳磁図を用いたAI解析による認知症の診断・重症度評価に関する実証研究

文献情報

文献番号
201703021A
報告書区分
総括
研究課題名
脳波・脳磁図を用いたAI解析による認知症の診断・重症度評価に関する実証研究
課題番号
H29-ICT-一般-011
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
柳澤 琢史(国立大学法人大阪大学 国際医工情報センター臨床神経医工学寄附研究部門)
研究分担者(所属機関)
  • 貴島 晴彦(国立大学法人大阪大学 大学院医学系研究科脳神経外科)
  • 原田 達也(東京大学 大学院情報理工学系研究科)
  • 数井 裕光(国立大学法人大阪大学 大学院医学系研究科精神科)
  • 畑 真弘(国立大学法人大阪大学 大学院医学系研究科精神科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(臨床研究等ICT基盤構築研究)
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
7,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、認知症患者及びPreclinical段階の被験者の脳波・脳磁図を用いて脳の機能的活動状態を高い時間・空間解像度で捉え、これを波形データに特化した新しいDeep Neural Network (DNN)により診断し、発症の予測を高精度で行う人工知能を開発する。
研究方法
大阪大学脳神経外科で保有する多疾患の脳磁図データに対して、東京大学原田研究室で開発した脳波用のDNNを適用し学習を行った。てんかん患者151名、パーキンソン病患者29名、脊髄損傷患者35名、認知症患者52名、健常者(age-match)67名の安静時脳磁図を入力として、各疾患を予測した。各疾患について220秒のデータを入力として学習した。疾患の弁別においては、各被験者内で、800ms毎のデータで推定した確率を平均し、各疾患を弁別した。
また、同じデータから、delta (1-4Hz), theta (4-8Hz), alpha1 (8-10Hz), alpha2 (10-13Hz), beta(13-30Hz), low-gamma (30-50Hz)のパワーを求め、それらを入力としてsupport vector machine (SVM)によって弁別を行った。10-fold cross-validationにて正答率を評価した。
アルツハイマー型認知症(n=58)、DLB(n=42)、特発性水頭症(n=56)の3種類の認知症の安静時脳波を入力としてDNNによる識別を行った。脳磁図と同様に0.8s毎に判定を行った。
結果と考察
脳磁図ビッグデータを用いたDNNの学習と認知症を含む多疾患の識別
健常者と比較して、てんかんは96%、脊髄損傷は81%、認知症は88%の精度で弁別が出来た。また、同じデータに対してSVMを用いた弁別を行うと、健常者との比較で、てんかんでは83%、脊髄損傷では63%、認知症では85%の精度であった。これらの精度をDNNによる精度と比較すると、DNNにより有意に高い精度で推定ができていることが示された。これより、DNNを用いることで、これまでのパワーを中心とした特徴量では捉えられなかった疾患の特徴的脳信号を捉えていることが示唆された。
脳波によるDNNの学習と認知症の種類の識別
安静時脳波を用いてAD, DLB, 正常圧水頭症の3種類の認知症を弁別したところ、正答率は約60%であった。

安静時の脳磁図信号に対して我々が提案するDNNを用いて弁別を行ったところ、高い精度で認知症を判定することができた。特に信号のパワーを用いてSVMで弁別を行った場合と比較して有意に高い精度を得られたことから、パワー以外の新しい特徴をDNNが捉えている可能性が示唆された。
今後、ネットワークの層を深くしたDNNを用いて、より長い学習を行うことで、さらに精度が向上することが予測される。また、今回の学習では脳磁図のセンサー信号そのものを入力としたため、信号源の違いは考慮されていない。また、被験者毎にセンサーと頭部位置が微妙に違うことも考慮されていない。今後、脳磁図信号とMRI画像をフュージョンして、脳の各部位からの電流源を推定する。推定された電流源を入力として学習・弁別を行うことで、脳部位特異的な解析も可能になり、さらに精度の改善が見込まれる。また、推定した電流源で学習を行うことで、我々とは異なる脳磁図計測器を用いた場合とデータを共有することも検討される。
脳波による認知症の種類の弁別については、成績が60%程度と上がらなかった。各認知症間の脳波での違いが少ないことも考えられるが、各疾患の数が限られていたため、DNNをそのまま適用する形では正答率が上がらなかったことも予測された。今後、計算方法を工夫することで、精度の向上が期待される。また、共同研究者の原田達也教授らが開発した入力のデータ数を擬似的に増やす方法などを用いることで、学習の精度を改善できると期待している。
結論
我々が作成した脳波・脳磁図用のDNNを用いて、認知症を含む多疾患の安静時脳信号を弁別できることが示された。特に脳磁図を用いた弁別は精度が高く、各疾患を8-9割の精度で識別できることが示された。今後、さらに学習方法を改良することで、実用的な認知症検査に発展できると期待される。

公開日・更新日

公開日
2018-10-24
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201703021Z