安全な薬物治療をリアルタイムで支援する臨床決断支援システムの開発に関する研究

文献情報

文献番号
201703004A
報告書区分
総括
研究課題名
安全な薬物治療をリアルタイムで支援する臨床決断支援システムの開発に関する研究
課題番号
H28-ICT-一般-004
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
森本 剛(兵庫医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 作間 未織(兵庫医科大学 医学部)
  • 太田 好紀(兵庫医科大学 医学部)
  • 松本 知沙(兵庫医科大学 医学部)
  • 中村 嗣(島根県立中央病院 感染症科、医療安全推進室)
  • 園山 智宏(島根県立中央病院 薬剤局臨床薬剤科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(臨床研究等ICT基盤構築研究)
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
10,385,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究は、電子カルテやオーダリングシステムから得られる患者の個別データのみならず、既に報告されている診療ガイドラインと患者背景や治療を組み合わせることで、個別の患者に最も適切な薬物治療をガイドする臨床決断支援システムを開発し、これまでの研究と同様にプロセスのみならず患者アウトカムを評価しようとするものである。また、プロセスとしてのオーダーされた薬剤の種類や用量を評価するだけではなく、これまで研究代表者が実施してきた薬剤性有害事象研究の方法論に基づき、薬剤性有害事象や入院期間、死亡率などのアウトカムについても評価しようとする実証的な研究である。さらに、臨床決断支援システムの導入前後のデータを用いて、臨床決断支援システムの費用効果性を評価することも目標とする。
研究方法
 平成29年度は前年度に作成された薬物療法支援ガイド及び診療プロセスガイドを臨床決断支援システムに導入し、島根県立中央病院の電子カルテシステムに実装した。
 薬物療法支援ガイドは、腎機能に基づく薬剤投与量の推奨機能と、添付文書に基づく検査の推奨機能を元に開発し、診療プロセスガイドは、多くの診療科が関わり、推奨が浸透しにくいと考えられるステロイド性骨粗鬆症のガイドラインに基づく薬物治療や検査を推奨する機能とした。
 腎機能に基づく薬剤投与量の推奨機能については、過去の研究で実施した入院患者における腎機能に基づく薬剤投与量の推奨の効果が明らかであったため、腎機能に基づく薬剤投与量の推奨を外来患者に拡大して導入することとした。また、添付文書に基づく検査の推奨機能については、ビルダグリプチン、マルチキナーゼ阻害薬のパゾパニブ塩酸塩、レゴラフェニブ水和物、アキシチニブ、スニチニブリンゴ酸塩及び免疫チェックポイント阻害薬のニボルマブ、ペムブロリズマブ、そしてアミオダロン塩酸塩を対象とすることとした。
 ステロイド性骨粗鬆症のガイドラインに基づく薬物治療や検査を推奨する機能は、経口ステロイドを3ヶ月以上使用中及びビスホスホネート製剤の処方または注射を受けた患者に対して、電子カルテシステムから得られた患者の背景を元に、「ステロイド性骨粗鬆症の薬物療法(ビスホスホネート製剤)開始の推奨」や「骨折歴の確認」、「血清Ca, P, Mg, Cre, BUN及び骨密度(BMD)検査の実施」を推奨する診療プロセスガイドとした。
 導入された臨床決断支援システムの有効性を評価するために、前向きコホート研究を開始し、臨床決断支援システムがバックグラウンドで稼働している状態(対照期間)における診療データの収集を行った。
結果と考察
 当初の計画通り、昨年度に開発された薬物療法支援ガイド及び診療プロセスガイドについて、電子カルテに導入可能な形に具体化させ、臨床決断支援システムとして電子カルテに実装した。
 電子カルテに実装後、臨床決断支援システムをバックグラウンドで稼働させながら、前向きコホート研究を開始した。これらのプロセスに不備がないことを確認するため、10-12月までの初期データを抽出し、基本的な統計量や主要評価項目である推奨医療(薬剤・検査)及び推奨診療ガイドラインの利用の回数を評価した。初期データでの外来受診患者総数は4,526名、延べ外来受診数は16,126名であった。患者年齢の中央値は68歳(四分値 56-77歳)、男性が53%であった。腎機能に基づく薬剤投与量の推奨機能については、対象となる処方数は9,353件で、潜在的な推奨稼働回数は634回であった。添付文書に基づく検査の推奨機能については、対象となる処方の総数は1,115件、潜在的な推奨稼働回数は406回であった。ステロイド性骨粗鬆症のガイドラインに基づく薬物治療や検査を推奨する機能については、支援の対象となる「3ヶ月以上にわたり使用されている経口ステロイド」に該当する処方は合計1,252件であった。これに対し、潜在的なアラート稼働は83%に該当する1,035件に認められた。
結論
 患者の腎機能に基づいた薬剤投与量のガイドや、添付文書に記載されていながら日常診療では確実に遵守することが困難な薬物治療において、電子カルテシステムが適切にガイドすることで、適切な処方の頻度を増やし、不要な疑義照会を減らすといったプロセスを改善することが期待される。また、骨粗鬆症のように多くの診療科が関わるような疾患について、臨床決断支援システムを用いて、適切にタイムリーにガイドラインに基づいた医療を提供することで、同様に診療プロセスを改善することが期待される。そして、これらの診療プロセスを改善することで、最終的には薬剤性有害事象などの患者アウトカムが改善されることが期待できる。

公開日・更新日

公開日
2018-10-25
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-10-25
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201703004Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
13,500,000円
(2)補助金確定額
13,097,000円
差引額 [(1)-(2)]
403,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,653,482円
人件費・謝金 2,311,550円
旅費 1,203,652円
その他 4,906,368円
間接経費 3,022,515円
合計 13,097,567円

備考

備考
差異の567円については自己資金分(うち14円については預金利息充当)である。

公開日・更新日

公開日
2019-03-18
更新日
-