縦断調査を用いた中高年者の生活実態の変化とその要因に関する研究

文献情報

文献番号
201702005A
報告書区分
総括
研究課題名
縦断調査を用いた中高年者の生活実態の変化とその要因に関する研究
課題番号
H28-統計-一般-005
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
金子 能宏(一橋大学 経済研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 高山 憲之(公益財団法人年金シニアプラン総合研究機構・研究主幹)
  • 小塩 隆士(一橋大学 経済研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(統計情報総合研究)
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
1,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
「ニッポン一億総活躍プラン」(平成28年)に示された高齢者の就労促進・社会参加が確保される社会、高齢者と現役世代が安心して生活できる社会保障制度を構築することが課題となっている。また、健康日本21(第2次)(平成24年)では、10か年計画の指針としてライフステージに応じた「こころの健康」「高齢者の健康」の推進が示された。従って、全世代が安心して生活できる社会保障制度を構築するためには、中高年者の生活状況・健康状態を把握し、社会保障制度や社会経済的要因を考慮しながら定年退職前後の行動変容を分析し、政策に資する基礎的資料を得ることが必要である。本研究の目的は、これらの課題に対して「中高年者縦断調査」を用いて、中高年者の属性(学歴等)、生活状況と就業の関係、健康状況・メンタルヘルス、医療需要行動、定年退職前後の行動変容などについて、パネル・データの特性を生かした実証分析を行い、社会保障の充実・安定化に向けた施策に資する基礎資料を得るとともに縦断調査の利活用を進めることである。
研究方法
「中高年者縦断調査」第1回~第10回までの調査結果から得られる個票データを利用してパネル・データを構築し、研究協力者の協力を得ながら各種の実証分析を行うと共に、研究分担者は各自の研究テーマに基づき実証分析を行った。具体的には、上記のパネル・データを用いて、クロス集計や年齢階層別のデータの回帰分析に加えて、変数間の相互影響・内生性を考慮した複数の推定方法による比較分析、生存時間分析、パネル・データ分析などの推定方法を応用して実証分析を行った。
結果と考察
【結果】定年前後の就業状態の推移に関する分析(協力者:川口大司・松山晋一)から、60 歳で定年退職した労働者の多くが再雇用制度を用いて新たな雇用契約の下で同じ企業で働き続けること、その就業継続の傾向は企業内に人的資本蓄積を促す賃金体系を持つといわれる大企業で顕著であることと、この結果と労働経済学の複数の理論に関する留意する必要性が明らかとなった。所得が医療利用に与える影響に関する分析(協力者:湯田道生)から、医療需要の所得弾力性はマクロデータを用いた計測結果以上に非弾力的であることが明らかとなった。親の介護が女性の労働供給とメンタルヘルスに及ぼす影響に関する分析(分担研究者:小塩隆士・協力者:臼井恵美子)から、固定効果(時間とともに変化しない要因)の影響を制御した場合、家族介護は女性の労働供給、労働日数や労働時間への影響は小さいのに対して、介護者のメンンタルヘルスを悪化させることが明らかとなった。中高年時における学歴の健康格差拡大とその媒介要因に関する分析(研究分担者:小塩隆士)から、中高年者では学歴による健康格差が加齢によって拡大すること見いだされた。引退が中高年の健康・健康行動に及ぼす影響に関する分析(分担研究者:小塩隆士・協力者:菅万理)から、引退は健康や健康状態の非連続的な変化を即座にもたらし、その変化の速さにも影響を及ぼすことが明らかとなった。高年期における就労と離職に関する分析(分担研究者:高山憲之・協力者:白石浩介)から、60歳で定年した者はその時点で離職し再就職する者とそのまま引退する者に分かれること、高年期就労に影響する要因は同時期の離職行動と関連することなどが明らかとなった。
【考察】「中高年者縦断調査」は豊富な変数があること、調査期間が長く(10年以上)、サンプルの脱落率が比較的少なく(脱落率:毎回平均4%)パネル・データとしてのサンプル数が多いことなどのメリットがある。(既存の個票レベルのパネル・データとして、JSTARとJAGESがあるが、前者は10地域に限られており、後者はやや高齢層に偏っておりまだ全国ではない)。従って、クロス集計や年齢階層別のデータごとの回帰分析に加えて、変数間の相互影響・内生性を考慮した複数の推定方法による比較分析、生存時間分析、パネル・データ分析など新しい推定方法を応用して、中高年者の生活実態の把握と引退過程における政策と行動変容に関わる実証分析ができるメリットがある。とくに、健康関連変数と社会経済変数がともに豊富で学際的研究に有効である。ただし、居住地情報は第1回調査のみのため、少子高齢化と都市部と地方との格差是正のために関心がもたれている人口移動に関する研究やGISを応用した研究については、同調査では難しいという課題が残されている。
結論
本研究の結果は、分担研究の結果と相俟って、「中高年者縦断調査」を用いた分析によって厚生労働行政の各分野の政策立案に資する基礎的資料のみならず、各分野の政策の連携に資する基礎的資料を提供することが可能になることを示唆している。

公開日・更新日

公開日
2018-09-07
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-09-07
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201702005B
報告書区分
総合
研究課題名
縦断調査を用いた中高年者の生活実態の変化とその要因に関する研究
課題番号
H28-統計-一般-005
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
金子 能宏(一橋大学 経済研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 高山 憲之(公益財団法人年金シニアプラン総合研究機構・研究主幹)
  • 小塩 隆士(一橋大学 経済研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(統計情報総合研究)
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
「ニッポン一億総活躍プラン」(平成28年)では、高齢者の就労促進・社会参加が確保される社会、高齢者と現役世代が安心して生活できる社会保障制度の構築が課題とされ、健康日本21(第2次)(平成24年)では、ライフステージに応じた「こころの健康」「高齢者の健康」の推進が指針として示された。本研究の目的は、これらの課題に対応して、「中高年者縦断調査」を用いて、中高年者の属性(学歴等)、生活状況と就業の関係、健康状況・メンタルヘルス、医療需要行動、定年退職前後の行動変容などについて、パネル・データの特性を生かした実証分析を行い、今後の社会保障政策に資する基礎資料を得ると共に縦断調査の利活用を進めることである。
研究方法
平成28年度は、縦断調査を用いた分析の論点整理のための文献研究、既存パネル・データを用いた分析を行った。後者に関しては、「全国消費実態調査」都道府県別・要介護者の有無別・世帯1ヶ月当たり消費額・有業人員数のデータを用いた介護状況と就業・医療支出との関係に関する分析、中高年者を対象とする「くらしと仕事に関する中高年インターネット特別調査」を用いた公的年金の受給開始年齢の引き上げと在職老齢年金制度の就労に関する分析を行った。平成29年度は、「中高年者縦断調査」第1回~第10回までの調査結果から得られる個票データのパネル・データを用いて、研究協力者の協力を得ながら実証分析を行うと共に、研究分担者が各自の研究テーマに基づき実証分析を行った。具体的には、クロス集計や年齢階層別のデータの回帰分析に加えて、変数間の相互影響・内生性を考慮した複数の推定方法による比較分析、生存時間分析、パネル・データ分析等の推定方法を応用して実証分析を行った。
結果と考察
【結果】本研究の研究成果のうち、「中高年者縦断調査」を用いて学術論文という形で結実した主な結果は次の4つである。第1に、家族介護の女性の労働供給に及ぼす影響を固定効果分析で推計すると、統計的に有意なマイナスの影響が確認できるが、その影響は小さく(労働供給を3.2%減少させる程度)、労働供給を続ける場合も家族介護によって労働日数や労働時間は殆ど変化していない。一方、メンタルヘルスに及ぼす影響は、家族介護はマイナス、雇用はプラスとなっているが、両者の交絡項の係数は有意ではないことが分かった。第2に、学歴による健康格差が加齢によって拡大するという仮説「累積的不利仮説」を支持する結果が得られた。学歴による健康格差拡大においては社会参加や余暇時間での運動などの要因が無視できない程度で媒介していることも明らかとなった。第3に、引退が多くの健康変数に異なる形で影響を及ぼすことが明らかになった。男性の場合、引退が良好な形で影響を及ぼすものとして余暇時間での運動や主観的健康感、心理的ディストレスがあり、引退後の変化のペースが望ましい方向に変化するものとして喫煙や余暇時間での運動、主観的健康感、有症が挙げられる。第4に、自分の親または配偶者の親が要介護状態の場合、中高年女性が介護者になる確率は各々30.9%、30.3%となるが、親との同居や労働供給への影響は軽微であるが、一方、親が要介護状態になることによる中高年女性のメンタルヘルス悪化のうち介護者になることで説明される部分は全体の4割前後となることが分かった。
【考察】「中高年者縦断調査」は、既存の個票レベルのパネル・データ(JSTAR、JAGES等)と比較して、豊富な調査項目を含むこと、調査期間が長い(10年以上)こと、サンプルの脱落率が比較的少なくパネル・データとしてのサンプル数が多いことなど多くのメリットがある。従って、クロス集計や年齢階層別のデータごとの回帰分析に加えて、変数間の相互影響・内生性を考慮した複数の推定方法による比較分析、生存時間分析、パネル・データ分析など新しい推定方法を応用して、中高年者の生活実態の把握と引退過程における政策と行動変容に関わる実証分析ができるというメリットがある。特に、健康関連変数と社会経済変数が共に豊富で学際的研究に有効である。但し、居住地情報は第1回調査のみなので、少子高齢化と都市部と地方との格差是正のために関心がもたれている人口移動に関する研究やGISを応用した研究については、同調査を用いた分析が難しいという課題が残されている。
結論
本研究の結果は、「中高年者縦断調査」を駆使した実証分析によって、厚生労働行政の各分野の政策立案に資する基礎的資料のみならず、各分野の政策の連携に資する基礎的資料を提供することが可能になることを示唆している。

公開日・更新日

公開日
2018-09-07
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201702005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
「中高年者縦断調査」は、既存の個票レベルのパネル・データと比較して、豊富な調査項目を含むこと、調査期間が長い(10年以上)こと、サンプルの脱落率が比較的少なくパネル・データとしてのサンプル数が多いことなど多くのメリットがある。このメリットを活用して、本研究では、クロス集計や年齢階層別のデータごとの回帰分析に加えて、変数間の相互影響・内生性を考慮した複数の推定方法による比較分析、生存時間分析、パネル・データ分析など新しい推定方法を応用した分析を行い、学会発表と学術論文として研究成果を発表した。
臨床的観点からの成果
本研究は臨床研究ではないが、「中高年者縦断調査」の個票データに基づくパネル・データを利用した実証分析として、医学的にも重要な研究テーマのうち、中高年者の介護とメンタルヘルスの関係、中高年者における学歴と健康格差との関係(「累積的不利仮説」)、引退が多くの健康変数に異なる形で影響を及ぼすことに関する研究成果が得られた。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
研究により得られた成果の今後の活用・提供:本研究の成果が政策立案に資するように、政策立案に携わる方々との意見交換の機会を設けて研究を進めていくとともに、学術論文・書籍等の刊行物及等により、広く一般に成果普及する。これらの研究成果の普及活動を通じて、縦断調査の利活用をさらに進めると共に、中高年者の雇用と生活水準・健康状態等の向上につながる政策立案に資する基礎的なエビデンスの提供に努める。
その他のインパクト
本研究に関するマスコミからの問い合わせがあることに対して、総括報告書や総合研究報告書に基づいて対応し、本研究の成果を広く一般に成果普及する。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
4件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
1件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2018-09-07
更新日
-

収支報告書

文献番号
201702005Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
1,100,000円
(2)補助金確定額
837,000円
差引額 [(1)-(2)]
263,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 228,044円
人件費・謝金 383,360円
旅費 26,120円
その他 199,556円
間接経費 0円
合計 837,080円

備考

備考
自己資金80円を充当

公開日・更新日

公開日
2018-10-24
更新日
-