社会保障費用をマクロ的に把握する統計の向上に関する研究

文献情報

文献番号
201701004A
報告書区分
総括
研究課題名
社会保障費用をマクロ的に把握する統計の向上に関する研究
課題番号
H27-政策-一般-006
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
竹沢 純子(国立社会保障・人口問題研究所 企画部)
研究分担者(所属機関)
  • 渡辺 久里子(国立社会保障・人口問題研究所 企画部)
  • 黒田 有志弥(国立社会保障・人口問題研究所 社会保障応用分析研究部)
  • 沼尾 波子(東洋大学 国際地域学研究科)
  • 山重 慎二(一橋大学大学院 経済学研究科、国際・公共政策大学院)
  • 高端 正幸(埼玉大学大学院 人文社会科学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
社会保障の財源と給付に係る政策議論の基礎データとして、社会保障費用統計においても、一定の客観的基準に基づき、地方単独事業を含め、財源構成に関わりなくその事業の機能・性格に着目した社会保障費の全体像を把握することが求められている。同統計が準拠する国際基準に従えば地方単独事業費も集計対象であるが、統計の制約により一部(公立保育所運営費、公費負担医療費)のみ計上となっている。本研究は国際基準に沿って地単事業を含む社会保障費を総合的に把握する方法の検討を目的とする。
研究方法
研究方法と分担は以下の通りである。
1) 社会保障費調査の自治体記入担当者へのヒアリング(沼尾、竹沢)
2) 自治体から提供を受けた社会保障費調査データの分析(山重、山口)
3) 総務省提供の社会保障費調査を用いたトライアル集計(竹沢)
4) OECDにおけるヒアリング及びセミナー講演における成果発信(山重)
5) EU-ESSPROS担当者の招聘による講演会と国際ワークショップ開催(竹沢、山重)
6) 社会保障関係の地方単独事業に関する実態把握と地方財源保障をめぐる最近の動向(高端)
7) 内閣府「障害者施策関係の単独事業の実施状況等」)を利用した障害者施策の地方単独事業費の分析(渡辺)
8) 社会保障法学における社会保障概念に関する一考察(黒田)
結果と考察
社会保障費用統計において地方単独事業を計上するに際しては、やはり単価等に基づく推計ではなく、総務省社会保障費調査を利用し実績値ベースの集計を基本とすべきである。子ども子育て分野において現費用統計が使用する公立保育所運営費の推計値と自治体の決算に基づく実績値を比較すると大幅な乖離が生じていることが自治体データ分析より明らかとなったことからも、実績値に基づく統計が必要である。
平成27年度社会保障費調査を利用し社会保障費用統計に地方単独事業を追加するトライアル集計の結果は以下の通りである。平成27年度ベースで、社会保障財源計3.9%増、うち地方単独事業を含む他の公費負担(地方自治体の負担)は35.5%増であった。社会保障給付費計は3.7%増であり、部門別でみると医療は4.4%、年金は0.0%、福祉その他は11.8%、うち介護対策は3.2%増に対して介護対策以外が18.1%と増加が大きかった。OECD基準でみると、家族政策が最も大きく増えており、家族支出計は14.2%増、うち現物は31.8%増と大きく増えており、就学前教育保育における23.7%増が影響している。対GDP比社会保障給付費は21.58%から22.39%へ0.80ポイント上昇する。山重報告で指摘された通り、子ども子育て分野における単独事業の規模は大きいことが確認された。
国際基準に沿って地方単独事業を総合的に計上するためには、社保費調査について以下の点で限界がある。第一に、施設整備費に関しては、様式4で把握しているが、補助事業と単独事業が分けられないため利用できない。自治体ヒアリングによれば、補助と単独を分けて計上することも可能であるとのことであり、今後の改善が期待される。第二に、住宅や災害救助費等については社保費調査の対象外であるが国際基準においては対象となる。これらの単独事業をいかに計上するかについては今後検討を要する。
結論
社会保障関連の地方単独事業について適切に把握することは、増大する社会保障関連経費とその負担の在り方について検討する上でも重要である。自治体の財政担当課へのヒアリングから、データ作成に際しては、作業上ミスが生じにくいフォーマットの整備や、記入のための丁寧な情報提供が必要であるといった指摘もあった。自治体の負担増に考慮しつつ、可能な限り正確かつ効率的に社会保障費用をマクロ的に把握するためには、地方自治体の実際の歳出を収集・把握するシステムを再構築する必要がある。
平成30年度からの「公的統計の整備に関する基本的計画」において、今後5年以内に、社会保障費用統計において「国際基準に準拠した地方公共団体の社会保障支出の総合的な把握に向け、社会保障関係費用に関する調査結果の活用や、単価に基づく推計等を検討し改善を図る。」ことが盛り込まれた。本研究を通じて、国際基準に則り、一定水準の精度を確保した集計が可能な見通しを得たことから、早ければ平成30年度公表(平成28年度結果)より、単独事業を含む社会保障費用統計を公表する予定である。さらなる検討や改善を要する点も残されていることから、引き続き、国際機関や自治体の協力を得て、さらに統計の向上を図っていることが社会保障費用統計の課題である。

公開日・更新日

公開日
2018-11-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-11-27
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201701004B
報告書区分
総合
研究課題名
社会保障費用をマクロ的に把握する統計の向上に関する研究
課題番号
H27-政策-一般-006
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
竹沢 純子(国立社会保障・人口問題研究所 企画部)
研究分担者(所属機関)
  • 渡辺 久里子(国立社会保障・人口問題研究所 企画部)
  • 黒田 有志弥(国立社会保障・人口問題研究所 社会保障応用分析研究部)
  • 沼尾 波子(東洋大学 国際地域学研究科)
  • 山重 慎二(一橋大学大学院 経済学研究科、国際・公共政策大学院)
  • 高端 正幸(埼玉大学大学院 人文社会科学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
社会保障の財源と給付に係る政策議論の基礎データとして、社会保障費用統計においても、一定の客観的基準に基づき、地方単独事業を含め、財源構成に関わりなくその事業の機能・性格に着目した社会保障費の全体像を把握することが求められている。同統計が準拠する国際基準に従えば地方単独事業費も集計対象であるが、統計の制約により一部(公立保育所運営費、公費負担医療費)のみ計上となっている。本研究は国際基準に沿って地単事業を含む社会保障費を総合的に把握する方法の検討を目的とする。
研究方法
研究方法は次の通りである。

1.社保費調査を利用した社会保障費用統計における地方単独事業の計上に向けた検討
①社会保障費調査の自治体記入担当者へのヒアリング
②自治体から提供を受けた社会保障費調査データの分析
③総務省社会保障費調査(平成27年度)を用いたトライアル集計

2.国際機関、各国事例調査
①国際機関へのヒアリング、長期派遣及び国際会議等への出席を通じた情報収集並びにネットワーク構築(OECD、EU統計局)
②各国事例ヒアリング(韓国、フランス)
③EU-ESSPROS基準にもとづく社会保障財政の日欧比較に向けた検討
④EU-ESSPROS統計担当者の招聘による公開特別講演会、及び「欧州・日本・韓国の社会保障費用に関する国際ワークショップ」開催
結果と考察
国際基準と整合的な様式で自治体の社会保障費を取りまとめた統計調査として総務省「社会保障に要する経費に関する調査」(以下、社保費調査)がある。本研究では同調査を利用した地単事業の計上に向けて、総務省及び自治体に対して同調査の作成過程についてヒアリングを行うともに、国際基準に沿ってより適切に分類整理を行うために国際機関等より最新動向を収集し、実際に計上する上での課題を整理した。また、現費用統計において家族分野の地単事業として唯一計上している「公立保育所運営費」について国の推計値と自治体の決算値を比較し大幅な過小推計の可能性を明らかにし、子ども子育て支援策を立案・評価する基礎データとして社保費調査より決算を利用すべきことを示した。さらに、総務省から社保費調査の提供を受けて、平成27年度費用統計に地単事業を追加するトライアル集計を実施した。社会保障財源うち他の公費負担は35.5%増加し、支出の分野別では子ども子育て分野において最も大幅に増加した(OECD基準家族うち就学前教育保育は23.7%増)。尚、集計に際しては、国際基準に照らし社保費に加除すべき項目等について、国際基準に関するヒアリング等をふまえて精査した。 
結論
社会保障関連の地方単独事業について適切に把握することは、増大する社会保障関連経費とその負担の在り方について検討する上でも重要である。自治体の財政担当課へのヒアリングから、データ作成に際しては、作業上ミスが生じにくいフォーマットの整備や、記入のための丁寧な情報提供が必要であるといった指摘もあった。自治体の負担増に考慮しつつ、可能な限り正確かつ効率的に社会保障費用をマクロ的に把握するためには、地方自治体の実際の歳出を収集・把握するシステムを再構築する必要がある。
平成30年度からの「公的統計の整備に関する基本的計画」において、今後5年以内に、社会保障費用統計において「国際基準に準拠した地方公共団体の社会保障支出の総合的な把握に向け、社会保障関係費用に関する調査結果の活用や、単価に基づく推計等を検討し改善を図る。」ことが盛り込まれた。本研究を通じて、国際基準に則り、一定水準の精度を確保した集計が可能な見通しを得たことから、早ければ平成30年度公表(平成28年度結果)より、単独事業を含む社会保障費用統計を公表予定である。さらなる検討や改善を要する点も残されていることから、引き続き、国際機関や自治体の協力を得て、さらに統計の向上を図っていることが社会保障費用統計の課題である。

公開日・更新日

公開日
2018-11-27
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201701004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
社会保障費用統計における地方単独事業の総合的計上により、学術研究の基礎データとしての有用性が増し、国際比較研究の精度が向上する。
臨床的観点からの成果
該当なし
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
社会保障費用統計における地方単独事業の総合的計上により、国内の政策議論の基礎データとしての有用性が増すとともに、国際比較でみた日本の位置をより正確に表すことが可能となる。
平成30年度からの「公的統計基本計画」において、今後5年以内に、「国際基準に準拠した地方公共団体の社会保障支出の総合的な把握に向け、社会保障関係費用に関する調査結果の活用や、単価に基づく推計等を検討し改善を図る。」ことが盛り込まれた。早ければ平成30年度公表より、単独事業を含む社会保障費用統計を公表する予定である。
その他のインパクト
2018年3月19日および20日に、EU-ESSPROS統計担当者であるギウリアーノ・アメリニ氏を招聘し公開特別講演会、及び「社会保障費用統計に関する国際ワークショップ-日本・韓国・欧州-」を開催した。所外研究者及び社会保障統計に関わる行政官等の約20名の参加を得て、活発な質疑が行われた。

発表件数

原著論文(和文)
5件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
5件
OECD韓国政策センター、中国民生部、OECD雇用労働社会局における報告
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
沼尾 波子
社会保障制度改革と自治体行財政の課題
社会福祉 , 7 (3) , 12-26  (2016)
原著論文2
高端 正幸
地方財政計画と地方交付税-問うべきことを見つめ直す
都市問題 , 108 (5)  (2017)
原著論文3
高端 正幸
対人サービスと地方財政
地方財政を学ぶ , 227-245  (2017)
原著論文4
沼尾 波子
対人社会サービスにおける地方自治体の財政需要とその財源
ネクストステージに向けた都市自治体の税財政の在り方に関する研究会報告書 , 59-67  (2018)
原著論文5
竹沢 純子
新制度施行後の就学前教育・保育支出-2015年度ベースの試算と交際比較
社会保障研究 , 3 (2) , 206-221  (2018)

公開日・更新日

公開日
2022-05-31
更新日
-

収支報告書

文献番号
201701004Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,000,000円
(2)補助金確定額
2,994,000円
差引額 [(1)-(2)]
6,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 624,817円
人件費・謝金 344,550円
旅費 962,670円
その他 1,062,879円
間接経費 0円
合計 2,994,916円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2019-05-16
更新日
-