社会保障制度の制度改正の政策効果及び人口減少と世帯の多様性に対応した社会保障制度・地域のあり方に関する研究

文献情報

文献番号
201701003A
報告書区分
総括
研究課題名
社会保障制度の制度改正の政策効果及び人口減少と世帯の多様性に対応した社会保障制度・地域のあり方に関する研究
課題番号
H27-政策-一般-004
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
菅原 琢磨(法政大学 経済学部)
研究分担者(所属機関)
  • 小椋 正立(法政大学 経済学部)
  • 酒井 正(法政大学 経済学部)
  • 稲垣 誠一(国際医療福祉大学総合教育センター)
  • 濱秋 純哉(法政大学 比較経済研究所(経済学部))
  • 小黒 一正(法政大学 比較経済研究所(経済学部))
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
1,786,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
社会保障改革推進法に基づき、地域包括ケアシステムの構築、年金・医療・介護や少子化対策の制度改正が予定、実施されている。制度改革の方向性等を見定めるためには、正確な現状認識、課題に対応した政策効果をエビデンスにもとづき評価する必要があるが、十分な検証と知見の蓄積がなされていない。本研究では以下の課題の分析をおこない、厚生労働政策に資する知見を導出することを目的とした。
1.地域包括ケアシステム提供体制とコンパクトシティの関係/人口減少・超高齢下における効率的施設配置に関する研究
2.年金・医療・介護の制度改革と世帯構成・所得格差に関する研究
3.子育て支援の制度改正と雇用・賃金に関する研究
4.介護報酬改定が介護従事者の賃金,労働時間,離職率に与えた影響
5.心理尺度を用いた家族介護の質とインセンティブの関係性
6.後発品利用状況の地域差と子ども医療費助成制度の地域差の影響要因
研究方法
1.では高齢者人口密度と介護給付費、老人福祉費の関係などを分析し、人口集約化政策による高齢者福祉費の節減可能性などを試算した。また75歳以上人口の予測データに基づき、地域のグループホーム施設の過不足の状況について検討した。
2.では高齢者の年金額分布や同居家族、貧困率などの将来見通しを推計するためマイクロシミュレーションという手法を用いた。
3.では子供を持つことの労働時間への影響、子供を持つことで被る賃金低下を学歴から検証した。また子供を持つ女性の所得階層ごとの認可保育所利用率、利用への影響要因を検討した。
4.では東京23区でのみ介護報酬の地域区分別上乗せ割合が引き上げられたことを自然実験と見なし、「差の差」法により、どの程度介護従事者不足の解消に寄与するかについて政策効果の識別を試みた。
5.では『国際調査』、『国民生活基礎調査』を用いて高齢者の家族形態と家族介護者の変化、扶養と相続の関連を捉えた。さらに介護負担感に関する心理尺度の日本語版を開発し、介護による幸福度の低下量を計算、その要因を検証した。
6.では都道府県、二次医療圏レベルで、地域の社会経済要因が後発医薬品の利用率に影響を及ぼしているか分析した。また「子ども医療費助成制度」における助成対象年齢範囲の差異に関する分析では、助成対象年齢に影響を与える地域要因を検証した。
結果と考察
1.「地域包括ケア・コンパクトシティ」等による人口集約政策により、老人福祉費等の合計は、約2490億円/年間のコスト節減が可能であることが示唆された、介護施設配置の将来の需要予測として、これから2030年までと、2030年から2050年までの間に状況の差、エリア毎の差もあること等から適正な整備を行っていくには十分な検討が必要である。また施設の老朽化の状況も考慮する必要がある。
2.非正規雇用者の厚生年金適用の拡大を行った時の将来の高齢者の貧困率に及ぼす影響の推計の結果、中長期的な効果(2040年頃まで)はほとんどないことが明らかとなった。 また未婚・離別の高齢女性の貧困率は、死別・有配偶の女性の貧困率よりも著しく高くなることが示された。
3.時間当たり賃金率では、子供を持つことによる賃金低下は観察されなかった一方で、月給で賃金を受け取っている者に限れば、それが観察された。また高所得層ほど認可保育所利用率が低い傾向が見られた。都市部に限定すれば、認可保育所利用率は所得階層により有意な差はなかった。
4.介護報酬改定が介護従事者の賃金に与えた影響では「実賃金」にそれが認められた。実労働時間数への影響は有意ではなかったが、離職率については訪問介護員非正社員短時間労働者については離職率が4.5%ポイント低下、介護職員正社員については4.8%ポイントの低下が見られた。
5.世帯員からの介護が難しい高齢者は約4割(単独世帯と一世代世帯の半分)に達する。世帯構造の変化にともない、もっとも重要な家族介護者は配偶者(44%)である。介護の負担感指標の結果では「受け止め」が負担感を軽減する。効用の(仮想)改善量を介護負担感と日本語版のCRAの4因子で回帰したところ、もっとも大きな影響力を持つのは「受け止め」で「経済」は有意な影響力を持たなかった。
6.地域の「所得水準」や「高齢化率」が後発医薬品利用率に対し、負で有意な結果となった。また独自事業として実施されている子ども医療費助成制度の適用(年齢)範囲に影響を及ぼす負の有意な要因として、地域の「平均所得」、「一人あたり医療費」、「年少人口数」が見出された。一方で「自己負担の設定」や「自治体の財政力指数」は有意ではなかった。
結論
以上で述べたように今年度も各分担研究課題で多くの有益な知見を得た。このようなEvidence(知見)をベースに今後のあるべき社会保障制度に関する政策論議が進むことが望まれる。

公開日・更新日

公開日
2018-11-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-11-27
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201701003B
報告書区分
総合
研究課題名
社会保障制度の制度改正の政策効果及び人口減少と世帯の多様性に対応した社会保障制度・地域のあり方に関する研究
課題番号
H27-政策-一般-004
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
菅原 琢磨(法政大学 経済学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
社会保障改革推進法に基づき、地域包括ケアシステムの構築、年金・医療・介護や少子化対策の制度改正が予定、実施されている。制度改革の方向性等を見定めるためには、正確な現状認識、課題に対応した政策効果をエビデンスにもとづき評価する必要があるが、十分な検証と知見の蓄積がなされていない。本研究では以下の課題の分析をおこない、厚生労働政策に資する知見を導出することを目的とした。
1.地域包括ケアシステム提供体制とコンパクトシティの関係/人口減少・超高齢下における効率的施設配置に関する研究
2.年金・医療・介護の制度改革と世帯構成・所得格差に関する研究
3.子育て支援の制度改正と雇用・賃金に関する研究
4.介護報酬改定が介護従事者の賃金,労働時間,離職率に与えた影響
5.心理尺度を用いた家族介護の質とインセンティブの関係性
6.後発品利用状況の地域差と子ども医療費助成制度の地域差の影響要因
研究方法
1.では高齢者人口密度と介護給付費、老人福祉費の関係などを分析し、人口集約化政策による高齢者福祉費の節減可能性などを試算した。また75歳以上人口の予測データに基づき、地域のグループホーム施設の過不足の状況について検討した。
2.では高齢者の年金額分布や同居家族、貧困率などの将来見通しを推計するためマイクロシミュレーションという手法を用いた。
3.では子供を持つことの労働時間への影響、子供を持つことで被る賃金低下を学歴から検証した。また子供を持つ女性の所得階層ごとの認可保育所利用率、利用への影響要因を検討した。
4.では東京23区でのみ介護報酬の地域区分別上乗せ割合が引き上げられたことを自然実験と見なし、「差の差」法により、どの程度介護従事者不足の解消に寄与するかについて政策効果の識別を試みた。
5.では『国際調査』、『国民生活基礎調査』を用いて高齢者の家族形態と家族介護者の変化、扶養と相続の関連を捉えた。さらに介護負担感に関する心理尺度の日本語版を開発し、介護による幸福度の低下量を計算、その要因を検証した。
6.では都道府県、二次医療圏レベルで、地域の社会経済要因が後発医薬品の利用率に影響を及ぼしているか分析した。また「子ども医療費助成制度」における助成対象年齢範囲の差異に関する分析では、助成対象年齢に影響を与える地域要因を検証した。
結果と考察
1.「地域包括ケア・コンパクトシティ」等による人口集約政策により、老人福祉費等の合計は、約2490億円/年間のコスト節減が可能であることが示唆された、介護施設配置の将来の需要予測として、これから2030年までと、2030年から2050年までの間に状況の差、エリア毎の差もあること等から適正な整備を行っていくには十分な検討が必要である。また施設の老朽化の状況も考慮する必要がある。
2.非正規雇用者の厚生年金適用の拡大を行った時の将来の高齢者の貧困率に及ぼす影響の推計の結果、中長期的な効果(2040年頃まで)はほとんどないことが明らかとなった。 また未婚・離別の高齢女性の貧困率は、死別・有配偶の女性の貧困率よりも著しく高くなることが示された。
3.時間当たり賃金率では、子供を持つことによる賃金低下は観察されなかった一方で、月給で賃金を受け取っている者に限れば、それが観察された。また高所得層ほど認可保育所利用率が低い傾向が見られた。都市部に限定すれば、認可保育所利用率は所得階層により有意な差はなかった。
4.介護報酬改定が介護従事者の賃金に与えた影響では「実賃金」にそれが認められた。実労働時間数への影響は有意ではなかったが、離職率については訪問介護員非正社員短時間労働者については離職率が4.5%ポイント低下、介護職員正社員については4.8%ポイントの低下が見られた。
5.世帯員からの介護が難しい高齢者は約4割(単独世帯と一世代世帯の半分)に達する。世帯構造の変化にともない、もっとも重要な家族介護者は配偶者(44%)である。介護の負担感指標の結果では「受け止め」が負担感を軽減する。効用の(仮想)改善量を介護負担感と日本語版のCRAの4因子で回帰したところ、もっとも大きな影響力を持つのは「受け止め」で「経済」は有意な影響力を持たなかった。
6.地域の「所得水準」や「高齢化率」が後発医薬品利用率に対し、負で有意な結果となった。また独自事業として実施されている子ども医療費助成制度の適用(年齢)範囲に影響を及ぼす負の有意な要因として、地域の「平均所得」、「一人あたり医療費」、「年少人口数」が見出された。一方で「自己負担の設定」や「自治体の財政力指数」は有意ではなかった。
結論
以上で述べたように各分担研究課題で多くの有益な知見を得た。このようなEvidence(知見)をベースに今後のあるべき社会保障制度に関する政策論議が進むことが望まれる。

公開日・更新日

公開日
2018-11-27
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201701003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 「現行年金制度が十分想定していない未婚や離別の高齢女性の貧困率が著しく高くなること」、「月給賃金受取者では、(労働時間を統制しても)子供を持つことに伴う賃金低下が観察されること」、2009年介護報酬改定後、所定内賃金増加は見れなかったが手当や一時金等を含む実賃金の有意な増加が見られたこと」など各分担研究課題で多くの有益な結果を得た。
臨床的観点からの成果
特記事項なし
ガイドライン等の開発
特記事項なし
その他行政的観点からの成果
特記事項なし
その他のインパクト
特記事項なし

発表件数

原著論文(和文)
9件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
4件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Takuma Sugahara
“Analysis of Regional Variation in the Scope of Eligibility Defined by Ages in Children’s Medical Expense Subsidy Program in Japan”
Frontiers in Pharmacology  (2017)
10.3389/fphar.2017.00525
原著論文2
Seiichi Inagaki
“Dynamic Microsimulation Model of Impoverishment Among Elderly Women in Japan”
Frontiers in Physics , 6 (22)  (2018)
10.3389/fphy.2018.00022
原著論文3
酒井正・山田篤裕
「要介護の親と中高齢者の労働供給制約・収入減少」
『経済分析』 ,  (第191号) , 183-212  (2016)
原著論文4
稲垣誠一
「高齢女性の貧困化に関するシミュレーション分析」
『年金と経済』 , 35 (3) , 3-10  (2016)
原著論文5
稲垣誠一
「厚生年金の適用拡大がもたらす貧困率改善効果」
『日本年金学会誌』 , 36 , 3-9  (2017)
原著論文6
上野綾子・濱秋純哉
「2009 年度介護報酬改定が介護従事者の賃金,労働時間,離職率に与えた影響」
『医療経済研究』 , 29 (1) , 33-57  (2017)
原著論文7
濱秋純哉
「世代間資産移転と家族介護」
『季刊個人金融』 , 13 (1)  (2018)
原著論文8
小黒一正・平方啓介
「人口減少・超高齢化下での介護施設の配置のあり方及びGIS(地理情報システム)の活用に関する一考察―新潟市を事例に―」
『フィナンシャル・レビュー』 , 131  (2017)
原著論文9
小黒一正
「人口減少・超高齢化を乗り切るための地域包括ケア・コンパクトシティ構想-財政の視点から-」
『超高齢社会の介護制度―持続可能な制度構築と地域づくり』中央経済社  (2015)
原著論文10
菅原琢磨
「後発医薬品にかかる政策課題-普及促進策と後発医薬品利用率の決定要因」
『薬価の経済学』日本経済新聞出版社  (2018)
原著論文11
小黒一正(編)
『2025年、高齢者が難民になる日―ケア・コンパクトシティという選択』
『2025年、高齢者が難民になる日―ケア・コンパクトシティという選択』日本経済新聞出版社  (2016)
原著論文12
菅原琢磨
「外来受診決定時における「定額自己負担」の相対的重要性の検証-コンジョイント分析による部分効用値推定に基づく分析-」
「医療と社会」 , 31巻 (1号) , 31-44  (2021)
https://doi.org/10.4091/iken.31-31

公開日・更新日

公開日
2019-05-15
更新日
2022-06-23

収支報告書

文献番号
201701003Z