文献情報
文献番号
201701001A
報告書区分
総括
研究課題名
社会的養護等の子どもに対する社会サービスの発展に関する国際比較研究-循環型発展プロセスの課題と文脈の分析-
課題番号
H27-政策-一般-001
研究年度
平成29(2017)年度
研究代表者(所属機関)
木村 容子(日本社会事業大学 社会福祉学部)
研究分担者(所属機関)
- 藤岡 孝志(日本社会事業大学 社会福祉学部)
- 有村 大士(日本社会事業大学 社会福祉学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(政策科学推進研究)
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究は、世界各国の子ども保護サービス(日本でいう児童相談所機能)および社会的養護制度の発展に関する国際比較を通じ、各国が社会的要請や課題にどのように対応してきたのか、その教訓と課題解決のストラテジー等を収集・分析する。これから予測されうる社会的要請・ニーズや課題に加え、有効な選択肢について検討した。
研究方法
本研究では、1)社会的発見期、2)前駆期、3)達成期、4)振り返り期という循環的発展過程をたどる分析枠組みを用いた。各研究対象国の文献調査および現地訪問調査により、1.現行子ども保護システム、2.代表的なマルトリートメント支援機関の現行サービスシステム、3.子どもの権利・当事者参画の現在の取り組み、4.マルトリートメントに関する既存のデータベースについて、分析枠組みを用いその発展過程を分析し、教訓と課題解決のストラテジーを検討した。
結果と考察
子どもの保護や社会的サポートについてのアプローチとして、大まかに4つのアプローチが確認できた。第1は子どもの最低限の生活や権利を守るためのアプローチ(最低保障アプローチ)で、発展途上国の人身売買、存在の社会的認知、児童労働による搾取の防止、貧困や子どもの養育や生活についての無知への対応が挙げられる。第2に、子ども虐待等からの子どもの保護に関する観点で、子どもの権利を積極的に守るという観点から、公的に家庭への介入を行うアプローチ(社会的介入アプローチ)である。特に、英米モデルで発展していた。第3は、脆弱性に対するアプローチ(脆弱性アプローチ)で、予防に重きを置き、一時的にではなく、より継続的な視点で子どもと家庭をサポートする。その場合、より子ども自身の積極的な権利についての啓発が進んでおり、特に北欧型のモデルで発展していた。最後に第4のアプローチはそれぞれの国が各国の文脈、実態と限界、および政策的背景に基づき、独自に展開している部分である。細かく分けると2通りが考えられ、その第1はその国の独自性を意識しているものである(独自アプローチ)。第2は、政策的に先行していると考えた国々の政策を、自国に合うように取り入れる方向性である(ローカライゼーションアプローチ)。
これらのアプローチは、各国、地域で様々なバランスで展開されており、その強弱で各国・地域の特色と捉えられた。さらにこのアプローチは、各国・地域のコンテキストを反映しており、ただ単にシステムとして捉えるというだけでなく、ある意味「文化」と捉えることもでき、アプローチの特性に反映されているといえるだろう。
子どもの虐待やネグレクト等、子どもへのマルトリートメントへの社会的対応には大きな差が見られた。「介入アプローチ」の場合には裁判所の関与が強い。家庭に介入するインベスティゲーションやデータ管理等に先行し、管理の色合いが強い。一方、「脆弱性アプローチ」の場合、先述のように地方自治体の役割と責任が大きく、また予防的なアプローチに重きが置かれるため、サービスの対象となる子どもや家庭が多くなる。しかしながら、家庭に対する介入は薄く、データベースの導入は遅い。ただ、「介入アプローチ」をとっている国々も、その限界を認識し、ニーズがあり自発的な意思を持つ家庭に寄り添える地域資源を投入している。また「脆弱性アプローチ」が先行する国々でも、どうしてもこのアプローチだけでは対応できない家庭への社会的なシステム構築を進めており、両方の要素が必要不可欠といえるだろう。
これらのアプローチは、各国、地域で様々なバランスで展開されており、その強弱で各国・地域の特色と捉えられた。さらにこのアプローチは、各国・地域のコンテキストを反映しており、ただ単にシステムとして捉えるというだけでなく、ある意味「文化」と捉えることもでき、アプローチの特性に反映されているといえるだろう。
子どもの虐待やネグレクト等、子どもへのマルトリートメントへの社会的対応には大きな差が見られた。「介入アプローチ」の場合には裁判所の関与が強い。家庭に介入するインベスティゲーションやデータ管理等に先行し、管理の色合いが強い。一方、「脆弱性アプローチ」の場合、先述のように地方自治体の役割と責任が大きく、また予防的なアプローチに重きが置かれるため、サービスの対象となる子どもや家庭が多くなる。しかしながら、家庭に対する介入は薄く、データベースの導入は遅い。ただ、「介入アプローチ」をとっている国々も、その限界を認識し、ニーズがあり自発的な意思を持つ家庭に寄り添える地域資源を投入している。また「脆弱性アプローチ」が先行する国々でも、どうしてもこのアプローチだけでは対応できない家庭への社会的なシステム構築を進めており、両方の要素が必要不可欠といえるだろう。
結論
各国の発展プロセスについて、まず様々な社会的な課題がある中で、子どもを守ろうとする「最低保障アプローチ」が大きな役割を果たす。これには税制も含めた社会システムや国民の教育、所得なども影響することが示唆される。その上で、政策的背景や社会サービスに関する考え方などの影響を受け、「介入アプローチ」あるいは「脆弱性アプローチ」のどちらか一方を強く志向するモデルとなる。これらを試行するプロセスで「独自アプローチ」や「ローカライゼーションアプローチ」の検討が進められていた。しかし一方では、結果的に各国は「介入アプローチ」と「脆弱性アプローチ」のそれぞれの欠点について認識し、両方を志向している。本報告書においては、それぞれのアプローチの指向性を検討するための着目点と、子ども保護及び社会養護システム構築における示唆を提示している。
公開日・更新日
公開日
2019-06-10
更新日
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