病者用食品及び有用性評価に関する基礎的調査研究

文献情報

文献番号
199800592A
報告書区分
総括
研究課題名
病者用食品及び有用性評価に関する基礎的調査研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
上野川 修一(東京大学大学院農学生命科学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 石川博通(慶應義塾大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
7,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
病者用食品は、厚生省によって許可された特定の疾患を持つ人を治療するためにデザインされた食品群である.本研究は病者用食品について,これまで認可され実際に使用されているもの,さらに将来の開発を急がれているものについて,調査・考察するとともに,特に現在その開発が最も期待される病者用食品については,実際にその評価法,開発に関する研究を実行することを目的とした.本年度の研究においては次の3研究項目を中心に展開した。
(1)将来病者用食品として申請が予想されるアレルギー関係食品、自己免疫疾患用食品、免疫機能向上食品等を中心に国内外の文献を調査探索し、国内外における病者用食品の動向について調査研究を行なった。
(2)自己免疫疾患病者用食品開発およびこれを評価するための方法開発の研究として、自己免疫疾患における経口免疫寛容の誘導について、慢性関節リウマチの動物実験モデルとして利用されるコラーゲン誘導性関節炎(collagen-induced arthritis; CIA)を用いて解析した。
(3)免疫関連や自己免疫疾患用病者用食品の簡易評価法を開発するため、腸管由来各種リンパ球の分離方法について検討し、さらに、新しく発見した腸管リンパ組織クリプトパッチからの細胞分離方法も確立し、その性質を解析した。
研究方法
1.病者用食品の動向についての調査研究
国内外の病者用食品の制度、また疾患の食事療法と病者用食品の応用開発について医学情報雑誌、MEDLINE等により関連論文を検索した。
2.自己免疫疾患病者用食品開発およびこれを評価するための方法開発の研究
(1) II型コラーゲン(CII)の精製および CII飼料
ウシ軟骨よりウシCIIを精製し、これを用いて、CIIが10%、1%、0.1%、0.01%含む飼料(全タンパク中、CIIがそれぞれ50%、5%、0.5%、0.05%の割合で含まれている)を作製した。
(2) CII食の摂取によるCIAの抑制
CII食を自由摂取させたDBA/1マウスにCIIを感作し、誘導されるCIA症状を観察した。CIIを含まない飼料を飼育した対照群と比較し、CII食の摂取によるCIA症状が抑制されるかどうか検討した。
(3) CII食の摂取によるCIIに対する抗体産生応答、T細胞応答の低下
10%CII食をマウスに自由摂食させた場合、CIIに対する抗体産生応答、T細胞応答が低下するかどうか、酵素免疫測定法(ELISA)、リンパ節細胞の増殖試験によってそれぞれ調べた。
3.パイエル板細胞、腸管上皮内リンパ球(IEL)、粘膜固有層リンパ球の分離法の確立
パイエル板細胞の調製:パイエル板を小腸より摘出しDispaseを含むFCS入培地中で撹拌することにより分離回収した。IELの調製:マウスから小腸を摘出し、反転した。4等分した小腸をFCS入HBSS中で振盪し、得た細胞浮遊液をパーコールを用いた不連続密度勾配遠心に供し、最終的に44%及び70%パーコール界面に存在する細胞層を回収し、IELとした。粘膜固有層リンパ球の分離: 反転させた腸管からパイエル板を取り除いた後、4等分した小腸をFCS入HBSS中で繰り返し振盪し、腸管を断片に切り、 コラゲナーゼ入りFCS含HBSS中で撹拌した。さらにパーコール液を用いた密度勾配遠心法により44%及び70%パーコール液の境界面に得られる細胞を採取し、接着性細胞を除いて粘膜固有層リンパ球を得た。
4.腸管免疫組織クリプトパッチ細胞の分離と特性
実体顕微鏡下クリプトパッチが存在する腸管部を21G注射針を研磨して作製した金属筒を用いて打ち抜いた。この組織片を実体顕微鏡下、100% FCS中で超精密ピンセットを用いてクリプトパッチ部分の組織を掻き開き、クリプトパッチ細胞を回収した。クリプトパッチの評価には、免疫組織化学染色、FACS解析、RT-PCRの手法を用いた。
結果と考察
1.病者用食品の動向についての調査研究
わが国における病者用食品の近年の傾向として糖尿病組合せ食品の許可品目の顕著な増加が挙げられ、潰瘍性大腸炎やアレルギーなどの現代病ともいえる疾患に対応した新規の病者用食品も徐々に申請されつつある。一方で病者用食品の範疇には含まれずに「治療用食品・栄養補助食品」として広く用いられている食品群がある。これらは病者用食品に比べて圧倒的に多く、逆に病者用食品の制度が十分に生かされていない側面がある。国外では病者用食品の評価に関する文献は認められなかったが、アメリカにおける健康強調表示、栄養補助食品の制度の確立などからも食品摂取と健康・疾患との関連についての関心の高さがうかがえた。また国外における様々な疾患の食事療法に関する研究は数多く、慢性関節リウマチを例にとり調査したところ、各患者に合わせた食事療法の必要性や適切な臨床試験の評価系の確立などの課題が浮き彫りになった。
以上のように個別の疾患を対象とした「個別評価型」の病者用食品については、その必要性が高まっているにも関わらず取り組みが遅れている。これには評価方法の規格基準が未整備であることに加え、社会制度としてその認知と有効性が高く評価されていないという背景がある。また、特に社会問題となっているアレルギーや自己免疫疾患などでは長期間の食事療法に適応させるだけのバリエーションと簡便な評価系を視野に入れた研究開発が必要である。今後、病者用食品については行政・研究開発の両面から本制度の整備と推進を積極的に行うことが重要である。
2. 自己免疫疾患病者用食品開発およびこれを評価するための方法開発の研究
ウシ大腿骨軟骨より精製したCIIを10%含む飼料(10%CII食)をDBA/1マウスに2週間自由摂食させたマウスはCIIを含まない飼料を摂食させた対照群と比べて、CIAの症状が強く抑制された。また、飼料中のCII含量を低下させても摂食期間を長くすることによりCIAが抑制された。10%CII食を摂食することより、CIIに対する抗体産生応答が有意に低下し、T細胞増殖応答がほとんど認められなくなり、CIIの経口投与によるCIAの抑制にはCII特異的な免疫応答の低下が伴うことが示された。
以上の結果より食餌中の成分としてCIIを経口投与することによりCIAを効果的に抑制できることが示された。抗原の経口摂取による抗原特異的免疫応答の低下は経口免疫寛容と呼ばれ、本研究で示したCIAの抑制は経口免疫寛容現象を利用したものである。本研究の結果より、自己免疫疾患用食品として経口免疫寛容を利用した食品の可能性が示された。また、CIAなどのモデル動物系が自己免疫疾患用病者用食品の評価法として有用であると考えられた。
3.パイエル板細胞、腸管上皮内リンパ球(IEL)、粘膜固有層リンパ球の分離法の確立
従来の方法を参考にしてパイエル板細胞、IEL、粘膜固有層リンパ球の分離法を確立した。これら腸管由来免疫担当細胞に対する食品成分の作用を解析することにより、病者用食品の免疫系に対する機能の評価系を築くことが可能であると考えられる。
4. 腸管免疫組織クリプトパッチ細胞の分離と特性
(1) クリプトパッチ細胞の分離法の確立
実体顕微鏡下クリプトパッチが存在する腸管部を注射針を研磨して作製した金属筒を用いて打ち抜き、この組織片を100% FCS中で超精密ピンセットを用いてクリプトパッチ部分の組織を掻き開くことにより、クリプトパッチ細胞の回収に成功した。
(2) クリプトパッチ細胞の解析
FACS解析によりクリプトパッチ細胞が未熟なT細胞系列の細胞であることが確認された。また、クリプトパッチ細胞にIEL前駆細胞が含まれているかどうかを確認するために、ヌードマウスからクリプトパッチ細胞を調製し、放射線照射したSCIDマウスの静脈内へ移入したところ、成熟IELが再構成された。さらに、クリプトパッチ細胞およびIELにおけるT細胞分化初期マーカーmRNAの発現を半定量的RT-PCR解析したところ、RAG-2, pTα, TdTの各mRNAの発現がクリプトパッチ細胞およびIELにおいてみられた。これらの結果からクリプトパッチはIELが腸管局所で分化発達する場であることが示された。
結論
1.病者用食品の動向についての調査研究の結果、国内外問わず食品摂取と健康・疾患との関連に対する関心の高さがうかがえたが、食事療法及び臨床試験の難しさが明らかとなった。わが国においては今後、個別評価型病者用食品を評価する際の規格標準を明確にし、許可品目を広げる必要性が考えられ、行政・研究開発の両面から本制度を整備・推進することが重要である。
2.経口免疫寛容現象を利用することにより慢性関節リウマチの動物実験系であるコラーゲン誘導性関節炎(CIA)を抑制できることが示された。自己免疫疾患用病者用食品として経口免疫寛容を利用した食品が期待される。また、CIAなどのモデル動物系が自己免疫疾患用病者用食品の評価法として有用であると考えられた。
3.パイエル板細胞、腸管上皮内リンパ球(IEL)、粘膜固有層リンパ球の分離法を示した。さらに新たに発見された腸管リンパ組織クリプトパッチの細胞分離方法を確立し、その特性を明らかにした。クリプトパッチ細胞の解析の結果は、クリプトパッチがIELの発達分化する場であることを支持する。これら腸管由来免疫担当細胞に対する食品成分の作用を解析することにより、病者用食品の免疫系に対する機能の評価系を築くことが可能であると考えられる。

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