文献情報
文献番号
201625011A
報告書区分
総括
研究課題名
地方衛生研究所における病原微生物検査に対する外部精度管理の導入と継続的実施に必要な事業体制の構築に関する研究
課題番号
H28-健危-一般-002
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
皆川 洋子(愛知県衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
- 調 恒明(山口県環境保健センター)
- 四宮 博人(愛媛県立衛生環境研究所)
- 佐野 一雄(名古屋市衛生研究所)
- 山本 容正(大阪府立公衆衛生研究所)
- 岸本 壽男(岡山県環境保健センター)
- 滝澤 剛則(富山県衛生研究所)
- 脇田 隆字(国立感染症研究所)
- 大石 和徳(国立感染症研究所)
- 宮崎 義継(国立感染症研究所)
- 吉田 弘(国立感染症研究所)
- 木村 博一(国立感染症研究所)
- 村上 光一(国立感染症研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
2,720,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
地方衛生研究所(以下地衛研)は、自治体の感染症健康危機対応における重要な科学的根拠となる病原体検査を従前より担当しており、平成28年4月の改正感染症法施行により法的根拠が付与された病原体情報の収集について中心的役割を果たすことが期待される。地衛研が実施する病原体検査の質を確保するためには内部精度管理実施とともに、新たに病原体外部精度管理システムを構築する必要がある。本事業においては、1.ウイルス及び細菌検査について、各々システム構築を視野においた精度管理の試行(必要な文書ひな形案の作成等を含む)を通じて、全国の地衛研・国立感染症研究所(感染研)の連携による外部精度管理システムの基盤形成をめざし、病原体検査機能の維持向上を通じて感染症や微生物を原因とする食中毒による健康危機管理を支える自治体の人材育成を図る。2.一部地衛研が自治体内(都道府県における保健所設置市を含む)の民間衛生検査所や保健所試験検査課等に対して精度管理用検体提供等による連携協力を行っている実態を研究するとともに、予備調査を行う。3.法改正初年度にあたり、全国地衛研を対象にアンケート調査を実施し、「病原体検査の質確保」への取り組み状況及び地衛研が抱える課題等の把握を図る。
研究方法
1.精度保証の手法を取り入れたウイルス遺伝子検査法の研修:地衛研職員を対象にノロウイルス(NoV)リアルタイムPCR法、PCR産物のシークエンス・分子系統樹解析研修を実施した。2.感染症発生動向調査におけるエンテロウイルス病原体検査に関わる外部精度調査(EQA)導入の研究:病原体検索対象となっている手足口病検査を対象とした外部精度調査用試料調製の条件検討を行った。3.赤痢菌検査の外部精度管理調査に関する事前準備調査:検体配付試行に向けて手順や問題点を検証した。4.東京都における衛生検査機関を対象とした精度管理調査事業:長年にわたり実績のある東京都健康安全研究センターが担当した精度管理調査について検討した。5.地衛研における病原微生物検査体制と「検査の質の確保」に関する研究:全国地衛研を対象にアンケート調査を実施した。
結果と考察
1.地衛研職員へのウイルス遺伝子検査法研修を通じて、検査精度の確保・改善に資する詳細な検討と研修を行う必要性が判明した。2.ウイルス病原体検査外部精度調査(EQA)用試料調製の条件検討結果から、CODEHOP-snPCR法で同定する場合、ウイルス感染価とPCR検出下限値、遺伝子配列解析による同定可能なウイルスゲノム下限値を把握した上で目的とする検出感度、正確性を設定し、試料調製を行う必要性が認められた。3.赤痢菌検査外部精度管理調査候補菌株選定にあたり、保存により性状変化を来しやすい赤痢菌に対して継代培養法を検討し、適切な培養方法を確立した。候補菌株をWG地研に輸送し、到着後の抗原性変異や生化学性状の妥当性検査の結果をもとに配布菌株を選択した。5.全国地衛研のほとんどから協力を得られたアンケート調査結果に基づき、信頼性確保部門管理者、検査部門管理者、検査区分責任者及び信頼性確保部門の配置状況、検査員の人数が判明した。さらに二種感染症(ウイルス遺伝子検出主体)及び三類感染症(細菌)検査人員体制や、法改正初年度の検査機器設備・点検等への予算確保状況、主な二類~五類感染症標準作業書作成状況、標準品及び外部精度調査に対するニーズが判明した。
結論
1.地衛研職員を対象とする病原体検査の精度保証には、検体配付に加えてフィードバック研修等人材育成につながるシステムが望ましい。2.FTA Eluteカードと高力価ウイルスを用いればCODEHOP法によるエンテロウイルス病原体検査EQA検体を準備できる見通しが立ち、外部精度管理調査を目的とした試料輸送に適用可能と考えられたので今後試行を実施する予定である。3.試行に用いる赤痢菌株性状の調査研究を通じて、外部精度管理の実施には送付菌株の適切な継代等、綿密な準備の必要性が判明した。4・5.病原体検査体制における弱点(経験者の減少)・問題点(研修機会の不足)が明らかになった。標準品の配付や外部精度調査は多様な病原体に対して恒常的なニーズがあると考えられ、国際保健規則(IHR)対応の観点からも、感染研-地衛研を軸とするシステムの確立が望まれる。地域における他機関との連携は地研により様々であることから、個々の地衛研が果たすべき役割も人口規模の違い等が反映されるべきと考えられた。
公開日・更新日
公開日
2017-06-23
更新日
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