文献情報
文献番号
201625006A
報告書区分
総括
研究課題名
広域大規模災害時における地域保健支援・受援体制構築に関する研究
課題番号
H27-健危-一般-002
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
古屋 好美(山梨県中北保健福祉事務所(中北保健所))
研究分担者(所属機関)
- 中瀬 克己(岡山大学医療教育統合開発センターGIMセンター部門)
- 坂元 昇(川崎市健康福祉局)
- 尾島 俊之(浜松医科大学健康社会医学)
- 前田 秀雄(渋谷区保健所)
- 石井 正(東北大学病院総合地域医療教育支援部)
- 金谷 泰宏(国立保健医療科学院健康危機管理研究部)
- 近藤 久禎(国立病院機構災害医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
8,462,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
東日本大震災においては庁舎が損壊し、職員も被災した中でのマネジメント業務はその複雑性と膨大性のため、保健衛生行政対応において多くの課題が残った。そこで災害時健康危機管理支援チーム(DHEAT: Disaster Health Emergency Assistance Team)構想を具現化するために広域大規模災害時における地域保健支援・受援体制構築の基盤作成を目的とした。2年計画の2年目として、特に熊本地震を検証して制度・実務における課題に取り組むこととした。
研究方法
平成27年度の検討結果、すなわち「1)行政内管理体制、2)具体的業務内容、3)情報・共有・評価体制、4)人材育成体制の4つの視点から、DHEATを『指揮調整体制を確立し、安全を確保しつつ情報共有・評価を行うことで、多様な官民資源の連携・協力のハブ機能を果たし、医療提供体制構築、保健予防活動と生活環境衛生確保により、防ぎ得る死と二次健康被害を最小化するという保健医療行政が担うべき健康危機管理を補佐・支援するチーム体制(CSCAHHHH)』と定義した」素地を基に、28年度にはさらに5)熊本地震の検証を加えて、制度的課題及び実務的運用方法の課題を明確にして、その課題への対応を総括研究及び各分担研究において検討後、一つのシステムとして統合した。
結果と考察
1)制度関係では、全国保健所被害想定調査によるDHEAT養成数試算、保健所被害想定のHCRISISへの掲載、都道府県・地域災害医療コーディネーターと保健所との関係性調査、派遣判断の手引作成、災害派遣費用負担に関する被災都道府県実態調査を実施した。2)業務として(1) DHEAT概念整理、(2) 受援体制に係る検討のたたき台、(3) 発災直後迅速評価とプッシュ型支援の仕組み、(4) DHEAT業務の類型化を行った。具体的には、(1) 受援者が支援者に期待する基本的留意事項と役割、(2) 組織立ち上げ・受援体制構築のための訓練ツール作成及び訓練実施、(3) DHEAT業務内容理解促進用資料作成を行った。さらに、被害推定等として、(1) 傷病種類別患者数の推計、(2) 公衆衛生責任者等が扱うべき情報の検討、(3) 平常時からの推計のまとめ、(4) 被害推定方法の研究を行った。3)情報・共有・評価体制に関しては、避難所ラピッドアセスメントシート評価基準、シート様式(27年度策定の評価項目を掲載する2種類のラピッドアセスメントシート:石巻圏合同救護チーム使用シートに準拠した様式と「大規模災害における保健師の活動マニュアル」に準拠した様式)を作成し、さらに、避難所アセスメントの実施体制モデル案を策定した。情報に関する熊本地震の検証では、確実な情報の迅速な収集・分析、優先度の判定、必要十分な収集項目の精査、情報の還元を含む情報収集体制の構築等効率的な実施体制が求められることがわかった。4)人材育成体制に関しては、大規模災害発生後、二次的な健康被害の最小化に向けて被災都道府県等が担う急性期から慢性期までの「医療提供体制の再構築及び避難所等における保健予防活動と生活環境の確保」にかかる情報収集、分析評価、連絡調整等のマネジメント業務を支援できる能力を備えた人材を育成するため、平成27年度作成のDHEAT研修(基礎・高度)プログラムと到達目標を基に、DHEAT研修(基礎・高度)を開始した。熊本地震における課題を含み、基礎編におけるアンケート評価に基づく平成29年度用のDHEAT研修基礎編及び高度編における研修プログラム案を作成した。5)熊本地震の検証に関しては、インタビュー調査と質問紙調査を実施した結果、DHEAT制度開始前の災害ではあったが、多くの支援派遣自治体が「(1)指揮調整機能等の補佐および(2)情報収集・(3)分析や全体調整」を行なったと認識していた。派遣者からは、活動内容と必要性との差(手を付けられなかった・不足していた)が大きい分野として、在宅被災者、組織調整整備、職員のメンタルヘルス対策が挙げられていた。また、自らの健康管理、安全確保についての指示や情報を得たと受け止めた派遣者は半数を下回っており、自治体担当部門の認識と差があった。総括研究では以上の分担研究結果を繋ぎ、学術的に多分野と交流して、DHEATの理解を促進し、ハブ機能の素地を作った。
結論
制度的・実務的に細部を分担研究において検討し、総括研究において学術的に多分野と交流してDHEATのハブ機能の素地も検討した結果、制度的にも運用を開始できる研究結果が得られた。今後は、多分野間の協働のリーダーシップをとることができ、災害の多様性と複雑性に対応できる標準性と柔軟性を併せ持つ人材育成が必要であり、また災害毎に自律的ブラッシュアップの図れる事務局機能を内在する制度化が期待される。
公開日・更新日
公開日
2017-06-23
更新日
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