文献情報
文献番号
201625001A
報告書区分
総括
研究課題名
水道における連続監視の最適化および浄水プロセスでの処理性能評価に関する研究
課題番号
H26-健危-一般-003
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
小坂 浩司(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
研究分担者(所属機関)
- 秋葉 道宏(国立保健医療科学院)
- 浅見 真理(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
- 大野 浩一(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
- 水野 忠雄(京都大学大学院 工学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
2,489,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
安全な水道水を供給する観点から、水道システム、特に水道水源での危害を同定し、浄水プロセスで水質変動・異常を検知し、迅速に対応することが重要な課題の一つである。本研究では、水道水源での監視体制の最適化、浄水プロセスでの処理状況の連続監視データを利用し、水質変動・異常への対方法や処理性能の評価手法を構築することを目的としている。
研究方法
全国の浄水場別水安全計画を用いて抽出した優先度の高い危害原因事象とその因子について、管理基準逸脱時の対応方法を解析した。全国の水道事業体に対し、病原微生物、障害生物の検査状況について調査結果を解析した。淀川水質協議会の資料や聞き取りにより、計器による油類の連続監視状況を調査した。全国の水道事業体を対象に水質計器の設置、活用状況の調査を解析した。水質計製造メーカー各社に対し、比較的最近に製品化された水質計器の仕様や適用例についてヒアリングを行った。全国20浄水場を対象に、原水、凝集沈殿水、急速ろ過水、浄水の連続データを解析した。浄水場のオゾン接触槽に溶存オゾン濃度計を設置し、連続データを取得した。オゾンCt値算出のための推定パラメータを算出した。関連の研究、水道事業体の検討事項等を中心に、摂取制限を伴う給水継続について情報収集を行った。
結果と考察
表流水で急速ろ過方式、地下水で消毒のみ方式の浄水場について、抽出した危害原因事象と因子の異常検知方法、異常の事実確認方法を解析した。対応基準と対応方法を対応マニュアルの形に落とし込み、管理基準逸脱時の標準的な対応マニュアル例を作成した。障害生物を除く水質項目について独自に設定した項目の検査を実施していたのは大規模事業体でのみで、障害生物では多くの事業体で検査を実施していた。東京都水道局の場合、水源水質事故は特に利根川中流域の主に左岸側、江戸川中~下流域で発生件数と密度が高かった。PRTR制度届出事業所は、多摩川左岸、荒川支川入間川右岸、埼玉県東南部、利根川中流域で数が多く、密度も高かった。淀川流域では、9浄水場10取水系統で一日1回以上の頻度で原水の臭気検査を実施し、4箇所で油膜検知器を設置し、3箇所で油分モニタを設置予定で、4箇所でVOC計を設置していた。VOC計を用いた油類検知のための監視対象VOCは、比較的密度が高く、疎水性が低く、かつ沸点が高い成分が望ましいと考えられた。アンケート調査の結果、急速ろ過方式では31種の水質計器が設置され、水質計器の設置率は99%であった。他の処理方式でも設置率は98%以上であった。生物センサーはそのほとんどは魚類監視装置で、高感度濁度計は粒子数計測法式が多かった。メーカーへのヒアリングの結果、一般的な水質計を除いた水質計器は56機種で、これらについて統一様式で仕様を整理した。原水の濁度、pH、電気伝導度について、そのトレンドから変動を解析する指標を採り上げた。3項目の6指標で主成分分析を行ったところ、累積寄与率は3項目で75.97%に達した。この6つの指標を用いて各事業体を対象にレーダーチャートを作成した。原水濁度と沈殿水濁度の関係を見ると、沈殿水濁度が高いのは見かけ上、原水低濁度時に偏在しており、特定の場合を除き原水高濁度時には各浄水場とも着実に対応していた。溶存オゾン濃度の連続データと推定パラメータを基にオゾンCt値を推定したところ、概ね3~10 mg/L・min.程度の範囲であった。Ct値は温度が高い時期ほど高く、温度が低い時期ほど低かった。水源汚染の防止や、原水、工程水、給配水の各段階を含む危機管理マニュアルの策定、これらを総合する水安全計画の策定は非常に重要であると考えられた。また、実際に水質事故が起こった場合、問い合わせ対応には多くの人員が必要となるため、素早くマニュアルを作成し、他部局の職員等でも回答できる体制を作ることが重要であると考えられた。
結論
水道システムでの代表的な危害原因事象とその因子の異常時の対応方法を整理した。淀川流域、利根川流域での潜在的にリスクが高い物質の抽出、地域を図示化した。VOC計の活用は油類流出事故監視体制の強化につながることを示した。全国における水質計器の設置、活用状況の実態を初めて明らかにした。濁度、pH、電気伝導度の原水の連続データの水質変動を基とした、原水の水質全体の評価指標を作成した。原水、沈澱水、ろ過水の濁度の変動を比較解析することで、留意が必要な原水の状態をデータで示した。オゾン接触槽内の溶存オゾン濃度と数値モデルから、オゾン処理での主要な性能評価指標であるオゾンCt値の実態を初めて明らかにした。摂取制限等をともなう給水継続への事業体のマニュアル作成に対し、助言等を通じて貢献した。
公開日・更新日
公開日
2017-06-23
更新日
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