メタボロミクスを用いた膀胱発がん性芳香族アミン化合物の活性代謝物の解明

文献情報

文献番号
201624024A
報告書区分
総括
研究課題名
メタボロミクスを用いた膀胱発がん性芳香族アミン化合物の活性代謝物の解明
課題番号
H28-化学-若手-006
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
三好 規之(静岡県立大学食品栄養科学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
1,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、国内の事業場から、従業員に膀胱がんが高頻度に発症している状況について報告があった。膀胱がんを発症した労働者は、染料や顔料の製造過程で使用する中間体物質を扱う作業に従事しており、長期間・高濃度に芳香族アミン類に曝露されてきた職業性被ばくが指摘されている。芳香族アミンのうち発がんとの関連が最もよく研究されているo‐トルイジンは、国際がん研究機関(IARC)が「ヒトに対して発がん性が認められるGroup 1」に分類する発がん物質である。o‐トルイジンは、様々な遺伝毒性試験で陽性を示す一方で、変異原性試験での陽性反応には代謝活性化を必要とするため、o‐トルイジンの発がんメカニズムには、生体内で生成される活性代謝物に起因するDNA損傷(DNA付加体形成)が関与していることが示唆されているが、その詳細は不明である。本申請研究では、メタボロミクスの解析・分析技術を応用させ、o‐トルイジンのような代謝活性化を必要とする芳香族アミン発がん物質への曝露に対する精度の高いリスク評価システムの開発を行うことで、職業性被ばくの原因究明と健康障害防止に貢献する。
研究方法
本年度はまず、各試験で用いる芳香族アミン化合物の濃度および処理時間の条件を検討する目的で、ヒト肝がんHepG2細胞およびヒト膀胱がんT24細胞を用い細胞毒性試を検討した。また、解毒酵素誘導活性は、定量PCR法により遺伝子発現誘導活性(cyp1A1、cyp1B1、cyp2B6、cyp2E1)を検討した。活性代謝物のLC-MS分析について、本年度はまずo‐トルイジンとS-9 mixの試験管内反応で調製した反応液中の代謝物についてLC-MS分析を行った。得られたMSイオンデータは、Reifycs社のMSデータ専用多変量解析ソフトウェアSignpostでピーク抽出を行い、Agilent社のMass Profiler ProfessionalでS-9 mixとの反応で特異的に生成したo‐トルイジン代謝物の解析を行った。DNAアダクトーム解析について、本年度はまずo‐トルイジンあるいはS-9 mixで代謝させた o‐トルイジンとcalf thymus DNAとの試験管内反応で生成するDNA付加体についてLC-MS分析を行った。測定モードはSRMモードでm/z [M+H]+ (228~727)/ [M-116+H]+をモニターした。
結果と考察
細胞毒性試験では、HepG2およびT24いずれの細胞株においても、5種類の芳香族アミン化合物(o‐トルイジン、o‐アニシジン、2,4‐キシリジン、p‐トルイジン、アニリン)に対して、1 mMまでの濃度において強い細胞毒性は認められなかった。しかし、10 mM芳香族アミン化合物曝露では、20-40%程度の細胞生存率の低下が認められた。解毒酵素の遺伝子発現誘導に関しては、特に、o‐トルイジンによるcyp1A1発現誘導活性が強く、1 mMのo‐トルイジン曝露によってHepG2細胞では5.6倍、T24細胞では3.9倍の発現上昇が認められた。LC-MSによる代謝物分析においては、①o‐トルイジンのみ、②o‐トルイジン+S-9 mix、③S-9 mixのみの計3群(各群n=3)で分析行い、②のo‐トルイジン+S-9 mixで特異的に検出される化合物(代謝物)を解析したところ、m/z 150.0875の化合物 が7.08分で検出された。精密質量より組成式および構造の推定を試みたが、化合物の同定には至っていない。DNAアダクトーム解析の結果、o‐トルイジン付加体と予想されるMSイオンピークは検出限界以下であった。
本年度は、o‐トルイジン活性代謝物を詳細に分析および解析する目的で、条件の最適化を行った。培養細胞を用いた検討より、芳香族アミン化合物は1 mMと比較的高濃度の曝露によっても顕著な細胞毒性を示さないことが確認された。このことは、実験動物を用いた発がん実験等においても、かなりの高容量を長期間曝露しないと膀胱がんが認められないという知見からも、目的の活性代謝物を確実に検出する必要性を示唆している。また、代謝物およびDNA付加体の分析より、芳香族アミン化合物の膀胱発がん性を示唆する代謝物およびDNA付加体は現段階では未同定ではあるが、今度LC-MS分析の高感度を目的とした誘導体化法の最適化を行い、詳細な分析に取り組む予定である。
結論
現在までに、試験管内反応では、DNA付加体形成に寄与する代謝物は未同定ではあるが、今後分析法の最適化と、培養細胞や生体試料を用いた予備的な検討より、芳香族アミン代謝物の分析法を確立し、実試料分析へ応用していく。さらにDNAアダクトーム解析の結果とあわせて、芳香族アミン類の有害性評価における代謝物レベル、低分子の化合物レベルの科学的エビデンスを蓄積する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2017-05-09
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201624024Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
2,210,000円
(2)補助金確定額
2,210,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 403,519円
人件費・謝金 840,801円
旅費 147,340円
その他 308,340円
間接経費 510,000円
合計 2,210,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2017-05-22
更新日
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