化学物質の有害性評価手法の迅速化、高度化に関する研究-新型反復暴露実験と単回暴露実験の網羅的定量的遺伝子発現情報の対比による毒性予測の精緻化と実用版毒性予測評価システムの構築-

文献情報

文献番号
201624016A
報告書区分
総括
研究課題名
化学物質の有害性評価手法の迅速化、高度化に関する研究-新型反復暴露実験と単回暴露実験の網羅的定量的遺伝子発現情報の対比による毒性予測の精緻化と実用版毒性予測評価システムの構築-
課題番号
H27-化学-指定-001
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
菅野 純(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 安全性予測評価部)
研究分担者(所属機関)
  • 北野 宏明(特定非営利活動法人システム・バイオロジー研究機構)
  • 北嶋 聡(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
  • 相崎 健一(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
27,930,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、化学物質が生体に及ぼす毒性影響の評価手法を、生体反応の分子メカニズムに基づいて迅速化、高精度化、省動物化し、インフォマティクス技術と統合して実用化する事を目的とする。
先行研究にて構築済みの延べ6.5億遺伝子情報からなる高精度トキシコゲノミクスデータベースと単回暴露時の毒性ネットワーク解析技術を基盤に、これらを維持・拡充しつつ、反復暴露のネットワーク解析、及び、その予測評価技術を開発する。ここにインフォマティクス専門家によるシステムトキシコロジーの概念を導入し、反復暴露にも対応する網羅的毒性予測評価システムの構築を進める。
研究方法
我々が開発したPercellome絶対量化法(BMC Genomics.7,64,2006/特許441507/細胞1個当たりのmRNAコピー数として発現値を得る方法)を用いて化学物質の反復暴露に対する生体の遺伝子発現の反応を解析した結果、毎回の投与の度に、①その都度の変化を示す「過渡反応」と、②回を重ねるに連れて発現値の基線(ベースライン)が徐々に移動する「基線反応」の二つの成分から構成され、単回暴露影響を単純に積算した変化とは異なることが明らかとなった。具体的には、過渡反応と基線反応の関連性が観測可能な新型反復暴露実験(4日間の反復暴露を行い、次の日に従来通りの単回暴露を実施し2、4、8、24時間後に肝の網羅的遺伝子解析を行う)を、飼育環境を厳密に管理して実施した。
また、先行研究で新型反復暴露実験を実施した化学物質を中心に、DNAメチル化解析及びノンコーディングRNA解析を、次世代シーケンサーを用いて行った。
なお本研究解析に用いるアルゴリズムは、Percellome技術やシステムバイオロジーに基づいて開発し、独自開発の解析プログラムに実装の上、利用した。
結果と考察
『短期間「新型」反復暴露実験と既存の単回暴露実験データベースからの反復暴露毒性予測技術の開発』については、サリドマイド及び5-フルオロウラシルに対し「新型」反復暴露実験セットを実施した。四塩化炭素等の毒性物質では過渡反応が急速に消失する遺伝子が多いのに対し、平成27年度のアセトアミノフェン及びフェノバルビタールに引き続き、むしろ発現が増加する遺伝子が多いという結果がえられた。『化学物質の反復暴露による基線反応成立のエピジェネティクス機構解析』においては、クロフィブレート又はバルプロ酸ナトリウム塩の14日間反復暴露の解析を行ったが、顕著に変化している領域は見いだしていないものの、微細にDNAメチル化状態が変化する領域は複数検出している。また『化学物質の反復暴露におけるノンコーディングRNAの発現解析』については、バルプロ酸ナトリウム塩、クロフィブレート、アセトアミノフェンについてtotal RNA-Seq解析を実施し、反復曝露の影響を受けた転写産物を抽出した。反復暴露毒性の成立機序の詳細解明はこれからだが、必要な基礎情報は計画通り集まりつつあり、引き続き反復暴露による生体影響の予測評価精度の向上を目指す。『システムトキシコロジー解析技術の基盤整備及び応用開発』においては、複雑な毒性機序の解析に対応するensemble learning systemの開発を継続し、実際のデータに於いても所定の性能を有することを確認した。また既存の解析ソフトウェアの機能強化とGaruda準拠による他ソフトウェアとの連携強化を実施し、毒性解析パイプラインの構築に向け順調に進捗している。『Percellome専用解析ソフトウェアのオンライン化促進』については、データベース公開サイトのセキュリティー強化を進めており、可用性の向上が期待される。
結論
先行研究以来、新型反復暴露解析では過渡反応と基線反応の基本的な関連性を見いだしつつある(この知見は新規性が高く、エピジェネティクス機序の関与が示唆される)と同時に、化学物質ごとの独特の発現変動情報も蓄積しつつある。これらの分子機序の解明が反復毒性の分子毒性学的理解の促進、及び、単回暴露データからの反復毒性の予測法の開発に繋がると期待される。
反復暴露による基線反応成立のエピジェネティクス機構解析及びノンコーディングRNAの発現解析については、四塩化炭素、バルプロ酸ナトリウム塩、クロフィブレートなどを反復投与した際の肝サンプルを解析した。これらにより反復暴露による基線反応成立を解明するためのデータは計画通り蓄積されつつある。
システムトキシコロジー解析技術の基盤整備及び応用開発についてもensemble learning systemを基盤にプロジェクトの最終目標の達成、即ち毒性解析パイプラインの構築を進める。
Percellome専用解析ソフトウェアのオンライン化促進においても、引き続き研究成果の速やかな社会還元を推進する。

公開日・更新日

公開日
2023-04-28
更新日
-

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研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2017-05-31
更新日
-

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収支報告書

文献番号
201624016Z