文献情報
文献番号
201624012A
報告書区分
総括
研究課題名
発達期における統合的な遅発性神経毒性試験法の開発
課題番号
H28-化学-一般-003
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
諫田 泰成(国立医薬品食品衛生研究所 薬理部)
研究分担者(所属機関)
- 宇佐見 誠(国立医薬品食品衛生研究所 薬理部)
- 山崎 大樹(国立医薬品食品衛生研究所 薬理部)
- 吉田 祥子(豊橋技術科学大学)
- 上野 晋(産業医科大学 産業生態科学研究所)
- 秦 健一郎(国立研究開発法人国立成育医療研究センター研究所 周産期病態研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
14,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
近年、自閉症など発達障害が急速に増加し、社会問題となっている。その原因の一つは発達期における化学物質の曝露とされる。発達期の神経系は成体と比較して化学物質に対する感受性が高く、健康被害が長期間あるいは遅発性に生じることが考えられ、子どもの健康影響評価法の確立が強く望まれる。現在、OECDやEPAによって、妊娠ラットを用いる発達神経毒性試験ガイドラインが制定されているが、試験方法が複雑で、試験期間は1年以上、動物数は720にも及び経費も膨大である。さらに、日本ではこのようなガイドラインは未整備である。
そこ本研究では、発達期における細胞機能異常と神経回路異常の毒性作用メカニズムに基づいて、新たにスループット性の高い発達神経毒性評価スキームを作製し、評価指標の選定やプロトコルの最適化を行うことにより統合的な発達神経毒性試験法の開発を目指す。
そこ本研究では、発達期における細胞機能異常と神経回路異常の毒性作用メカニズムに基づいて、新たにスループット性の高い発達神経毒性評価スキームを作製し、評価指標の選定やプロトコルの最適化を行うことにより統合的な発達神経毒性試験法の開発を目指す。
研究方法
ヒトiPS細胞(神経発生モデル細胞の評価系)やラット小脳皮質およびラット海馬(生後初期における遅発性毒性評価系)を用いて、化学物質の影響評価に関する評価指標の最適化を行った。また、ラット海馬ニューロンを用いたスループット性の高いスクリーニング系の構築に着手し、新たにHESI NeuToxと国際バリデーションの議論を開始した。また、バルプロ酸などのメカニズムを理解する上で、妊娠中の母親への摂取栄養の程度や栄養成分の偏りによって胎児のエピゲノムに影響し生後の発育や疾患の発症に寄与する、というDoHaDについて調査研究を行った。
結果と考察
【①ヒト幹細胞の分化による評価法】
ヒトiPS細胞を用いて、化学物質の影響評価に関する評価指標の最適化を行った。その結果、遅発性神経毒性が懸念される農薬であるクロルピリホス曝露により、ヒトiPS細胞における神経分化の抑制が認められた。分化抑制メカニズムとして、Mfn1分解を介したミトコンドリアの形態異常によるATP産生の低下を見いだした。この結果はすでに論文として報告済である。以上より、ヒトiPS細胞におけるミトコンドリア機能を指標にして、成長期における化学物質の発達神経毒性を評価できる可能性が示唆された。
【②神経ネットワークによる評価法】
スループット性および再現性の高い海馬ニューロンを用いた神経スパイクによる神経活動評価系の開発を行うため、米国EPAのTimothy J Shafer教授との共同研究体制を構築し各種条件の検討を行った。また、HESI NeuToxの多点電極システム(MEA)サブチームに参加し、プレバリデーションの議論を開始した。これまでに再現性の高い結果が得られていることから、今後は陽性・陰性対照物質を評価し、他の評価系で得られている結果と比較することで評価系の妥当性を検証する。
【③生後小脳の神経回路】
遅発性神経毒性が考えられる化学物質であるバルプロ酸、クロルピリホスを胎生期の動物に投与し、生後の神経回路発達の変化を小脳神経細胞の突起伸展と小脳構造の変化、動物の行動変化から定量化して示した。バルプロ酸に関する結果は、販売元の製薬企業に情報提供した。小脳の形態形成は生後早期の遅発性毒性を予測可能な指標となりうることが示唆された。
【④幼若期海馬の神経回路機能】
遅発性神経毒性試験手法の妥当性を調べる目的で、発達神経毒性の詳細が不明であった産業化学物質である1BPについて検討した結果、神経回路興奮性の亢進をもたらすことから、1BPが発達神経毒性を有する可能性が示唆された。以上より、発達神経毒性を示す化学物質に加えて産業化学物質についても生後早期の海馬神経回路機能評価が発達神経毒性の評価指標として有用となる可能性が確認された。
【⑤既存毒性データ、ヒトデータとの検証】
陽性対照物質バルプロ酸などの作用メカニズムを明らかにするため、動物実験を中心にDoHaDのメカニズムについて文献調査を行った。また、ヒトのエピゲノムデータに関しても調査を開始した。調査研究により、胎児期あるいは新生児期に受けた影響により、ゲノムのメチル化が生じ生後長期に渡って継続し、疾患リスクとなる可能性が示唆された。
ヒトiPS細胞を用いて、化学物質の影響評価に関する評価指標の最適化を行った。その結果、遅発性神経毒性が懸念される農薬であるクロルピリホス曝露により、ヒトiPS細胞における神経分化の抑制が認められた。分化抑制メカニズムとして、Mfn1分解を介したミトコンドリアの形態異常によるATP産生の低下を見いだした。この結果はすでに論文として報告済である。以上より、ヒトiPS細胞におけるミトコンドリア機能を指標にして、成長期における化学物質の発達神経毒性を評価できる可能性が示唆された。
【②神経ネットワークによる評価法】
スループット性および再現性の高い海馬ニューロンを用いた神経スパイクによる神経活動評価系の開発を行うため、米国EPAのTimothy J Shafer教授との共同研究体制を構築し各種条件の検討を行った。また、HESI NeuToxの多点電極システム(MEA)サブチームに参加し、プレバリデーションの議論を開始した。これまでに再現性の高い結果が得られていることから、今後は陽性・陰性対照物質を評価し、他の評価系で得られている結果と比較することで評価系の妥当性を検証する。
【③生後小脳の神経回路】
遅発性神経毒性が考えられる化学物質であるバルプロ酸、クロルピリホスを胎生期の動物に投与し、生後の神経回路発達の変化を小脳神経細胞の突起伸展と小脳構造の変化、動物の行動変化から定量化して示した。バルプロ酸に関する結果は、販売元の製薬企業に情報提供した。小脳の形態形成は生後早期の遅発性毒性を予測可能な指標となりうることが示唆された。
【④幼若期海馬の神経回路機能】
遅発性神経毒性試験手法の妥当性を調べる目的で、発達神経毒性の詳細が不明であった産業化学物質である1BPについて検討した結果、神経回路興奮性の亢進をもたらすことから、1BPが発達神経毒性を有する可能性が示唆された。以上より、発達神経毒性を示す化学物質に加えて産業化学物質についても生後早期の海馬神経回路機能評価が発達神経毒性の評価指標として有用となる可能性が確認された。
【⑤既存毒性データ、ヒトデータとの検証】
陽性対照物質バルプロ酸などの作用メカニズムを明らかにするため、動物実験を中心にDoHaDのメカニズムについて文献調査を行った。また、ヒトのエピゲノムデータに関しても調査を開始した。調査研究により、胎児期あるいは新生児期に受けた影響により、ゲノムのメチル化が生じ生後長期に渡って継続し、疾患リスクとなる可能性が示唆された。
結論
胎児期、成熟期において陽性対照となる化学物質を用いて、試験法の確立に向けて安定な評価指標を選定した。ラット海馬ニューロンを用いて、スループット性の高いスクリーニング系を新たに構築した。また、バルプロ酸のデータをもとにDoHaDの調査研究を行った。
公開日・更新日
公開日
2017-07-12
更新日
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