野菜などの農水産物からの汚染微生物などの検出方法に関する調査研究

文献情報

文献番号
199800589A
報告書区分
総括
研究課題名
野菜などの農水産物からの汚染微生物などの検出方法に関する調査研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
渡辺 治雄(国感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 遠藤卓郎(国立感染症研究所)
  • 島田俊雄(国立感染症研究所)
  • 武田直和(国立感染症研究所)
  • 外海泰秀(国立医薬品食品衛生研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
17,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
最近、野菜、果実、カキ等の農水産物の微生物あるいは農薬汚染等に起因する食中毒の発生が増加し、社会的に問題になってきている。細菌ではサルモネラ,腸管出血性大腸菌等,原虫関連ではクリプトスポリジウム,サイクロスポラ等,ウイルスではヒトカリシウィルス等および輸入小麦中における残留農薬による汚染がその対象となっている。当該食中毒の予防への対策および発生時における的確なる対処を行う為には,これらの農水産物の汚染状況を把握することが必要であるが,現在のところそれらの食材から正確に該当する微生物及び農薬を検出する方法論が確立されていない。本研究を行うことにより,野菜や果実等からの病原体の標準的な検出方法を確立するとともに,必要な対策を検討するための基礎資料を作成する。
研究方法
1。細菌の検出:野菜,果実等の検体をストマッカーやミキサー処理をした場合,pHの酸性化や,乳化された検体成分中の抗菌作用物質の存在等のため,細菌の検出率の低下が考えられる。又,自然界には損傷菌として存在している可能性もあり,より検出率の低下が予想される。これらを解決するため,検体の処理の仕方,検体の前培養に用いる培地の種類等の基礎的検討をさらに続け最適条件の確立を目指す。又,菌の存在をスクリーニングする方法として、免疫磁器ビーズ法を用いての菌の濃縮法、PCR等の分子遺伝学的技術も検討をさらに続ける。
2。原虫の検出:食材から原虫のオーシスト等を分離・濃縮する方法として,高速連続ローター遠心機による濃縮,及び比重差を利用しての浮遊分離や磁気ビーズの利用法の検討を続け、更なる検出感度の向上を図る。標本中の微量のオーシストを検出ために,in situ hybridization等の分子レベルの染色方法を検討する。また、ポリトレオニン遺伝子を用いての分子疫学的解析について、例数を増やし、実際に分子疫学的マーカーとして利用可能かをさらに検討する。
3。冬期に多いウィルス性胃腸炎の大部分がヒトカリシウィルス(human calicivirus,HuCV)によるものであるが,ウィルスを増殖させるための適当な細胞培養系がない。そのため原因食品を特定するのが困難な場合が多い。食品から病因ウィルスを迅速かつ感度よく検出する新しい方法を確立する必要性が高い。又,患者便材料から増幅されるHuCVには多数の血清学的に異なる株が存在することがわかってきている。我が国のHuCV感染源の多くはカキであるので,カキからHuCVの遺伝子を効率よく増幅方法を確立する
結果と考察
成果・考察=1。汚染細菌の検出方法;
生野菜や果物に汚染した菌の分離に適する方法について検討を行った。サルモネラ,腸管出血性大腸菌O157の検出には,BPW(バッファード・ペプトン水)等の非選択培地での前培養後,サルモネラではTT(ハーナー・テトラチオネート・ブイヨン)あるいはRV(ラパポート・ヴァアジリアデス・ブイヨン)へ,O157ではNmECへの選択培地で培養するのが効率的であった。これは,「飢餓状態」の菌を用いたときに更に顕著であった。又,サルモネラの検出に免疫磁気ビーズで濃縮することにより,試料中10個以上の菌が存在すれば検出可能であり,その菌についてサルモネラ特異的遺伝子invAでPCRを行えば,吊り上げた菌がサルモネラであることを迅速に確定できた。更に,腸管出血性大腸菌O157の新しい分離培地の検討を行い,汚染の少ない検体である時及びO157が損傷を受けているようなときにはSDSソルビット寒天培地が有用であることを示した。 
2。ヒトカリシウィルスの解析; HuCVは主としてポリメラーゼ領域の塩基配列の比較からGenogroup I(Norwork-like), Genogroup II(Snow mountain-like), Genogroup III=Classical human calicivirus(Sapporo-like)の3種に分かれ, それぞれ5, 7 及び3種類の血清型が存在する。我が国の冬季に発生した食中毒患者由来HuCVは, Genogroup I, Genogroup IIに属するものがほとんどであり,かつそれぞれ5, 7種類の血清型に属するものが全て検出されたことは,流行を起こすHuCV の多様性を表すものである。また,カキにおけるHuCVの保有状況を検討した結果,40%近くが陽性であり,それらは患者から分離される血清型のどれかに分類された。さらに各血清型のウィルス構造蛋白を組み換えバキュロウィルスを用いて発現させ,患者回復期血清と反応することをウエスターンブロティング法で確認した。今後これらの遺伝学的及び免疫学的方法を用い流行状況を更に詳細に解析すると同時に,新型ウィルスの出現の監視を行っていく予定である。
3。クリプトスポリジウム原虫類嚢子の検出;
イチゴにオーシストを塗布した実験系において,オーシストの精製条件を検討した。撹拌洗浄あるいは超音波洗浄後,洗浄液を連続ローターも用いた遠心沈殿後のメンブランフィルター法あるいはフローサイトメーターによりオーシストの濃縮・精製を行った。超音波洗浄法はFDAのマニュアルに採用されているが,今回の実験では,撹拌法の方が高い検出率を示した。又,フローサイトメーターによる検出は,フィルター法の60-70%程度であった。感度の低い原因として,オーシストに対する抗体の特異性の問題が考えられた。
4。輸入農作物の試験方法
穀物。豆類中の残留農薬分析における既存の脱脂方法の検討を行った。ピレスロイドケイ系農薬分析時における脂質除去率はExtrelutR/Sep-PakRC18法が最もよく,n-ヘキサン・アセトニトリル分配法がこれに次ぎ,GPCは本条件下ではあまり良くなかった。 
結論
野菜,果物等を汚染している微生物あるいは農薬の迅速なる検出法の開発,改良等の検討を行った。いくつかの効率よい方法の開発を手がけてきて新しい知見が得られてきている。今後更に発展させていく予定である。

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