文献情報
文献番号
201624010A
報告書区分
総括
研究課題名
化審法で規定された変異原性検出試験(チミジンキナーゼ試験)を改善する手法の開発
課題番号
H28-化学-一般-001
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
武田 俊一(京都大学 医学研究科)
研究分担者(所属機関)
- 本間 正充(国立医薬品食品衛生研究所 変異遺伝部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
6,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
化学物質の毒性の中で最も重要なものは発がん性であり、発がんは主に変異原性による。化審法で規定された変異原性検出試験は、感度と特異性があまり高くない(Mutat. Res. 588: 47-57, 2005)。化審法で利用が定められた検出試験の1つ、チミジンキナーゼ(tk)試験とは、細胞を化学物質に曝露し、tk酵素をコードする遺伝子(TK遺伝子)を不活性化する変異が入る頻度を定量する、変異原性検出試験である。感度が高くない、転座・組換えを起こす変異原を事実上検出できないという弱点がある一方、特異性が高く、実験手法が簡単という長所がある。感度が高くない原因は、化審法で規定された変異原性検出試験が野生型細胞(DNA損傷を正確かつ迅速に修復できる)を使うからである。DNA修復ミュータントのtk試験を併用するという最小限の変更によって、既存のtk試験の感度を向上する行政的必要性は高い。
変異原性化学物質は、DNA損傷を作り、その損傷が不正確にDNA修復・複製される時に損傷が変異に変換される。本研究の目的は、tk試験にDNA修復・複製TK6ミュータントを併用することにより、tk試験の感度を上昇することにある。どのミュータントを併用すれば、tk試験の感度が最も改善するかを決定する。
変異原性化学物質は、DNA損傷を作り、その損傷が不正確にDNA修復・複製される時に損傷が変異に変換される。本研究の目的は、tk試験にDNA修復・複製TK6ミュータントを併用することにより、tk試験の感度を上昇することにある。どのミュータントを併用すれば、tk試験の感度が最も改善するかを決定する。
研究方法
武田グループ:tk試験が検出する変異の種類は、点変異や数塩基までの欠失などである。このような種類の変異は、損傷した鋳型鎖をDNA合成酵素が複製するときに発生する。よって損傷塩基を正確に修復する経路の欠損細胞(XRCC1/XPA二重欠損細胞)を併用すれば、tk試験の感度を上げることができる。ユビキチン化酵素、Rad18とDNA polymeraseη(Polη)およびDNA polymeraseε(Polε)校正機能は、いずれも損傷した鋳型鎖をDNA合成酵素が正確に複製するのに貢献する。故に、これらの酵素や校正機能を欠損させたミュータント細胞を野生型細胞に併用してtk試験が実施することによっても、tk試験の感度を上昇できる。遺伝子破壊は、遺伝子破壊のための相同組換えプラスミド(+薬剤選択マーカー)とCRISPR/Cas9、ガイドRNAを同時にTK6細胞に導入した後、薬剤選択して出現したコロニーの中で両対立遺伝子ともに破壊されたクローンを選ぶ。予想された遺伝子破壊が起こっていることは、RT-PCRおよびその産物の塩基配列決定により最終確認する。
本間グループ:野生型TK6細胞とXRCC1/XPA二重欠損TK6細胞(武田グループが作製)を使い、オーラミンに対する遺伝毒性を比較する。工業用グレードのオーラミンは、齧歯類で肝臓等に腫瘍を誘発させることから、IARCにおいてヒトに対して発がん性の可能性があるグループ2Bと分類されている。まず、オーラミンに対する感受性を、野生型TK6細胞とXRCC1/XPA二重欠損TK6細胞とで比較する。
本間グループ:野生型TK6細胞とXRCC1/XPA二重欠損TK6細胞(武田グループが作製)を使い、オーラミンに対する遺伝毒性を比較する。工業用グレードのオーラミンは、齧歯類で肝臓等に腫瘍を誘発させることから、IARCにおいてヒトに対して発がん性の可能性があるグループ2Bと分類されている。まず、オーラミンに対する感受性を、野生型TK6細胞とXRCC1/XPA二重欠損TK6細胞とで比較する。
結果と考察
武田グループ:予定していた遺伝子破壊株が全部単離できた。遺伝子破壊は、DNA損傷剤に対する感受性増加でも確認できた。具体的には、XRCC1/XPA二重欠損細胞は、一重欠損の各ミュータントに比べてシスプラチン(アルキル化剤)に対する感受性が増加していた。Rad18欠損細胞は、野生型細胞に比べてシスプラチンに対する感受性が増加していた。Polη欠損細胞は紫外線への感受性が増加し、Polε校正機能欠損細胞はシタラビン(Ara-C、ヌクレオシドアナログの抗がん剤)への感受性が増加していた。
本間グループ:オーラミンの代謝活性化条件下において,XRCC1/XPA二重欠損細胞の相対生存率は、その野生型TK6細胞のそれよりも著しく低下した。
本間グループ:オーラミンの代謝活性化条件下において,XRCC1/XPA二重欠損細胞の相対生存率は、その野生型TK6細胞のそれよりも著しく低下した。
結論
XRCC1/XPA二重欠損細胞をtk遺伝子変異試験に用いれば、XRCC1あるいはXPA修復遺伝子が関与する遺伝毒性物質(例、アルキル化剤)を感度良く検出できると考えられる。同様に、Polε校正機能欠損細胞をtk遺伝子変異試験に用いれば、ヌクレオシドアナログの遺伝毒性を感度良く検出できると考えられる。
公開日・更新日
公開日
2017-05-22
更新日
-