文献情報
文献番号
201624007A
報告書区分
総括
研究課題名
発生-発達期における低用量の化学物質暴露による成熟後の神経行動毒性の誘発メカニズム解明と、その毒性学的評価系構築に資する研究
課題番号
H27-化学-一般-007
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
種村 健太郎(東北大学大学院 農学研究科・動物生殖科学分野)
研究分担者(所属機関)
- 掛山 正心(早稲田大学人間科学学術院予防医科学・応用生理学研究室)
- 北嶋 聡(国立医薬品食品衛生研究所・安全性生物試験研究センター・毒性部)
- 中島 欽一(九州大学大学院医学研究院・応用幹細胞医科学部門・応用幹細胞医科学講座・基盤幹細胞学分野)
- 冨永 貴志(徳島文理大学・神経科学研究所)
- 菅野 純(国立医薬品食品衛生研究所・安全性生物試験研究センター・毒性部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
13,600,000円
研究者交替、所属機関変更
該当しない。
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究は、二つの先行研究(H20-化学-一般-009)および (H23-化学-一般-004)の成果を踏まえて、発生発達期における化学物質の低用量暴露が成熟後に誘発する情動認知行動異常について、定量的に捕捉し、毒性学的な意味づけを明確にできる評価系を作出し、もって行政施策へ反映することを目的とする。これにより情動認知行動異常の高精度なリスク評価が普遍性を持って実施可能となり、行政対応に必須のバリデーションに耐え、国際的に通用しうる体系的・総合的な評価手法としてのガイドライン作成とともに、OECDへの提案を通じての国際貢献を目指す。
研究方法
発生発達期暴露により成熟期に情動認知行動異常を誘発することを確認済みのドーモイ酸、イボテン酸、有機リン農薬等を、野生型マウスに暴露し、オープンフィールド試験、明暗往来試験、及び、条件付け学習記憶試験(行動解析バッテリー試験)を実施する。その成績を定量的な値として項目ごとに記録し、異常であると認定される最小値を、その項目の基準値として「毒性基準値」と定義する。また、神経幹細胞動態解析、大脳層構造形態解析、神経突起解析、神経回路機能解析、遺伝子発現プロファイリングを行い異常行動誘発メカニズムの解明を推し進めるとともに、それらの項目ごとに定量化手法を確定し、対応する神経科学的な異常の基準値として設定する。設定した情動認知行動「毒性基準値」および神経科学的な異常の基準値の頑強性や妥当性を検証し、体系的・総合的な評価系として完成させる。
結果と考察
平成28年度は、ネオニコチノイド系農薬であるアセタミプリドとイミダクロプリドを妊娠11.5日齢の妊娠雌マウスに低用量(0.1mg/kg/day)にて飲水投与を開始し、出産後の生後4週齢時の離乳時まで同投与を行い、生後12-13週齢時に成長した産仔雄マウスについて情動認知行動解析を行った。その結果、アセタミプリド飲水投与による顕著な不安関連行動異常の誘発と、イミダクロプリド飲水投与による顕著な不安関連行動異常並びに学習記憶異常の誘発が認められた。情動認知行動異常値を設定する検定項目として、オープンフィールド試験における総移動量と中央部滞在時間、条件付け学習記憶試験における短期記憶形成能と空間記憶能についての妥当性の検証を推し進めるために2種のエストロジェン受容体遺伝子改変マウスを用意し、同様の情動認知行動解析を行った。また行動柔軟性課題と行動抑制課題についてタッチスクリーン型オペラント実験装置を用いて、毒性評価への応用について検討を継続している。また、ニューロン分化のモデル細胞である、副腎髄質由来褐色細胞腫細胞株を用いて、特定のノン・コーディングRNAが遺伝子発現を制御できることを明らかにした。これらの表現型や遺伝子発現が、他の物質による神経系への影響を定量化する指標となりうるかどうかを検討するための研究に着手した。また膜電位感受性色素を用いたイメージングで,アセタミプリドとイミダクロプリドの幼若期投与による急性―亜急性影響を計測した。これを拡張し,海馬・皮質神経回路で回路の機能変調度を示す毒性値の設定を検討中である。前述にあるエストロジェン受容体遺伝子改変マウスの大脳、海馬、脳幹について、網羅的遺伝子発現解析を行い、パスウエイ解析を進めた結果、興奮性と抑制性双方の神経伝達が亢進していることが示唆された。複数の関連する国際的会合に出席し、本研究班の成果の一部を情報発信するとともに、こうしたリスク評価の必要性の高さが国際的に、共通に認識されていることを確認し、その方法論の検討を積み重ねようとしていることが判明した。さらに、自らデータを作成しない方針の国や組織も、分子毒性学的情報の有用性を認識し、評価へ取り込む方法の開発と標準化に力を入れていることが明らかとなった。
結論
発生-発達期における低用量の化学物質暴露による成熟後の神経行動異常と、対応する神経科学的物証について、暴露による影響を効率良く、また高精度に、かつ定量的に捕捉することに成功している。今後、情動認知行動異常の基準値設定、神経科学的な異常の基準値設定によって毒性学的な意味づけを明確にできる評価系の作出に資することが期待できる。
公開日・更新日
公開日
2017-06-07
更新日
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