文献情報
文献番号
201624004A
報告書区分
総括
研究課題名
抗原性物質への免疫応答に対するナノマテリアル経皮曝露の影響に関する評価手法の開発研究
課題番号
H26-化学-一般-004
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
安達 玲子(国立医薬品食品衛生研究所 生化学部)
研究分担者(所属機関)
- 酒井 信夫(国立医薬品食品衛生研究所 生活衛生化学部)
- 最上 知子(国立医薬品食品衛生研究所 安全性予測評価部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
7,120,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
近年幅広く利用されているナノマテリアルについては物理化学的特性による健康影響の可能性が指摘されている。OECDでは、わが国も参加して、フラーレン、カーボンナノチューブ、酸化チタン、酸化亜鉛等、13品目の安全性評価が重点的に進められてきた。酸化チタンや酸化亜鉛は多くの日焼け止め製品に配合されており、ヒト皮膚と接触する頻度が非常に高い。一方で、最近、加水分解コムギタンパク質を含有する洗顔石鹸の事例のように、タンパク質が皮膚を透過して取り込まれ抗原となる経皮感作経路がアレルギー発症の重要な要因として注目されている。しかし、酸化チタン等のナノマテリアルがタンパク質経皮感作に及ぼす影響については未だ検討されていない。本研究班では、酸化チタン、酸化亜鉛等のナノマテリアルが抗原タンパク質の経皮感作に及ぼす影響に関する[1] in vivo評価系及び[2] in vitro評価系、及び、[3] ナノマテリアルのアジュバント活性に関する貪食細胞を用いたin vitro評価系を開発し検討することを目的とする。
研究方法
ナノマテリアルとしては、酸化チタンA(ルチル型、粒子径15 nm)、酸化チタンB(ルチル型、粒子径35 nm)、酸化チタンC(アナターゼ型、粒子径6 nm)、酸化チタンD(アナターゼ型、粒子径:15 nm)、及び酸化亜鉛A(粒子径:25 nm)を用いた。[1]に関しては、モデル抗原として卵白アルブミン(OVA)を使用し、マウスを用いたin vivo評価系(26年度に構築、27年度に最適化したもの)を利用して抗原の経皮感作に対するナノマテリアルの影響について検討した。[2]に関しては、抗原提示細胞の抗原取込みに関する蛍光顕微鏡を用いた新たな定量的分析法を開発し、ナノマテリアルの影響について検討した。[3]に関しては、貪食細胞のNLRP3インフラマソームの活性化・IL-1β産生を指標とするアジュバント作用評価系(26年度に構築したもの)を利用して、酸化チタンナノマテリアルによるTNFα産生促進機構、酸化チタンナノマテリアルの物理化学的形状の影響に関する検討を行った。
結果と考察
[1] 卵白アルブミン(OVA)をマウス皮膚に繰り返し貼付することにより経皮感作を成立させるモデル実験系を使用して、ナノマテリアルの共存効果について検討したところ、酸化チタン/酸化亜鉛ナノマテリアルにより感作が増強されること、またその際に、至適用量(OVAとの最適な量比)が存在すること、この至適用量はナノマテリアルのサイズや種類により異なること、酸化チタンの結晶型による差はほとんど見られないことが示された。[2] 酸化チタンナノマテリアル共存下での蛍光標識抗原タンパク質の抗原提示細胞への取込みを画像解析し、酸化チタンナノマテリアルによって抗原取込みが抑制されることを明らかにした。[3] THP-1マクロファージにおいて、酸化チタンナノマテリアルにより産生が誘導されるIL-1βのautocrine作用によりTNFα産生が促進される機序を明らかにした。また、酸化チタンの結晶型による顕著な違いは認められず、酸化亜鉛ナノマテリアルは全く効果を示さないことが判明した。
今後は、タンパク質経皮感作の際に生体内で起きている現象に対するナノマテリアルの効果について更なる検討を進めることが必要である。
今後は、タンパク質経皮感作の際に生体内で起きている現象に対するナノマテリアルの効果について更なる検討を進めることが必要である。
結論
酸化チタンナノマテリアルが抗原タンパク質の経皮感作に及ぼす影響に関する[1] in vivo評価系及び[2] in vitro評価系、及び、[3] ナノマテリアルのアジュバント活性に関する貪食細胞を用いたin vitro評価系の開発・検討を行った。[1]に関しては、OVA経皮感作において酸化チタン/酸化亜鉛ナノマテリアルにより感作が増強されること、酸化チタンのサイズにより異なる至適用量(OVAとの最適な量比)が存在すること、酸化チタンの結晶型による差はほとんど見られないことが示された。[2]に関しては、蛍光標識抗原タンパク質を用いた定量的画像解析手法を確立し、酸化チタンナノマテリアルによって抗原提示細胞の抗原取込みが抑制されることを明らかにした。[3]に関しては、貪食細胞における酸化チタンナノマテリアルのTNFα分泌促進機構を明らかにし、また、酸化チタンの結晶型による顕著な違いはないこと、酸化亜鉛ナノマテリアルは全く効果を示さないことを示した。
本研究課題で開発した上記の評価法をナノマテリアル経皮曝露の安全性評価に複合的に適用することにより、また、タンパク質経皮感作時の生体内現象に対するナノマテリアルの影響についてさらに解析を進めることにより、ナノマテリアルの安全性に関する科学的知見の集積につながるものと考える。
本研究課題で開発した上記の評価法をナノマテリアル経皮曝露の安全性評価に複合的に適用することにより、また、タンパク質経皮感作時の生体内現象に対するナノマテリアルの影響についてさらに解析を進めることにより、ナノマテリアルの安全性に関する科学的知見の集積につながるものと考える。
公開日・更新日
公開日
2018-05-29
更新日
-