文献情報
文献番号
201624003A
報告書区分
総括
研究課題名
ナノマテリアルのヒト健康影響の評価手法に関する総合研究 - 全身暴露吸入による毒性評価研究 -
課題番号
H26-化学-一般-003
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
今井田 克己(国立大学法人 香川大学 医学部 医学科 病理病態・生体防御医学講座 腫瘍病理学)
研究分担者(所属機関)
- 相磯 成敏(中央労働災害防止協会・日本バイオアッセイ研究センター・病理検査部・病理検査室 毒性病理学 )
- 石丸 直澄(徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部 医療創生科学部門 分子口腔医学講座 口腔分子病態学、病理学・免疫学)
- 高橋 祐次(国立医薬品食品衛生研究所・安全性生物試験研究センター・毒性部 分子毒性学 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
10,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究の目的は、ナノマテリアルの毒性評価を人の現実的な暴露経路である全身暴露吸入試験法を用いて実施すること、及び、吸入により惹起される病変の詳細分析により評価基準を策定することにある。ナノマテリアルは多くの産業に貢献する革新的な基盤技術としてその応用が急速進展する中、製造者及び製品利用者の健康被害防止のために並行して進められるべき有害性評価は十分ではない。ナノカーボン技術で先駆的役割を果たしている日本において、国際競争力を保持しつつナノマテリアルの継続的な進展のためにも、基礎的定量的な毒性評価の確立が急がれる。
研究方法
本研究班では、吸入試験として二つの方法を用いた。一つは、先行研究[H23-化学一般-005]において独自に開発を行った凝集体/凝固体を除去し高度に分散した乾燥検体を得る方法(Taquann法)及び、それをエアロゾル化するカートリッジ直噴式ダスト発生装置(Taquann直噴全身吸入装置)を用いたマウス吸入試験である。本システムを開発する際に事例対象とした検体は、先行研究[H20-化学-一般-006] において中皮腫発癌性の検討に用いた多層カーボンナノチューブ(MWCNT)であるが、本システムは原理的に他のナノマテリアルに適応可能な汎用性も備え、かつ、少ない検体量で吸入試験の実施が可能である。もう一つの方法は、日本バイオアッセイ研究センターにおいて開発された吸入暴露装置を用いたラット吸入試験である。本装置はMWCNT(MWNT-7)の2年間ラット発がん性試験をGLP試験として実施した実績を有する。本研究では、ナノマテリアルの中で産業応用が進んでいる各種MWCNT、酸化チタンについて吸入試験を行い、組織負荷量、病理組織学的評価(光顕、電顕、免疫染色)、免疫系機能評価にわたり、計画的経時解析により、腫瘍性及び非腫瘍性の組織病変の同定、それらの形成に関連する病態の急性から慢性への経時変化、及びそれらに先行する機能的変化の検出を試みた。
結果と考察
マウスの知見からは、分散性の高いナノマテリアルを吸入させた結果、生体内に長期間留まり持続性の炎症反応を引き起こす可能性を示した。マクロファージが重要な役割を担っており、慢性炎症によって誘発される増殖性の腫瘍性病変の評価をより長期に亘って実施する必要がある。また、マウスの免疫系への影響を調べた結果、MWCNT暴露後1年を経過した肺組織では散在性の肉芽腫病変に加え肺胞壁の肥厚、間質の線維化の亢進が観察された。肺胞マクロファージのM1/M2比はMWCNT暴露で有意に上昇していた。M1マクロファージに関連する遺伝子発現はMWCNT暴露後、長期間の経過によって変化が見られなかった。MWCNT暴露によってMMP-12産生肺胞マクロファージが増加することが判明し、マクロファージを介した肺組織の線維化機構が示唆された。ラットの知見から、MWCNTの長期吸入暴露ではラットの生涯に渡り肺胞上皮の細胞回転が亢進状態にある中で、加齢とともにDNAの修復エラーが累積してII型肺胞上皮由来の腫瘍化を促進したものと推察された。
結論
本研究において使用したTaquan法とTaquann直噴式システムは、ナノマテリアルの吸入試験における課題を克服した吸入試験方法である。分散性の高いナノマテリアルを用意し、人体にとって重要であると想定される暴露様式に即した全身暴露吸入を実施することで、事前に毒性情報の存在しない新規のナノマテリアルについての、遺漏のない吸入毒性評価が可能になると期待される。
公開日・更新日
公開日
2018-05-29
更新日
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