危険ドラッグおよび関連代謝産物の有害性予測法の確立と乱用実態把握に関する研究

文献情報

文献番号
201623008A
報告書区分
総括
研究課題名
危険ドラッグおよび関連代謝産物の有害性予測法の確立と乱用実態把握に関する研究
課題番号
H27-医薬A-一般-002
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
舩田 正彦(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 栗原 正明(国立医薬品食品衛生研究所 有機化学部)
  • 浅沼 幹人(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科脳神経制御学講座脳神経機構学分野)
  • 北市 清幸(岐阜薬科大学薬物動態学研究室)
  • 嶋根 卓也(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
4,666,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
危険ドラッグとして、合成カンナビノイドやカチノン系化合物に類似した新規物質が流通している。本研究では、新規流通化合物であるチオフェン誘導体並びにカチノン系化合物の有害作用について、動物実験および細胞による評価を実施した。合成カンナビノイドについては、カンナビノイドCB1受容体に着目したコンピュータシミュレーションによる有害性予測法に関する研究、および生体からの検出を目論み、代謝産物の検出およびその代謝経路解析を行った。また、危険ドラッグの乱用状況および周知に関する調査を実施し、より適切な危険ドラッグ対策手法の立案に関する考察を行った。
研究方法
新規精神活性物質であるチオフェン誘導体の行動薬理学的解析を行い、有害作用予測法の妥当性を検討した。チオフェン誘導体methiopropamine (MPA)、α-pyrrolidinobutiothiophenone (α-PBT)、α-pyrrolidinopentiothiophenone (α-PVT)による中枢興奮作用および細胞毒性について解析した。また、チオフェン誘導体の作用点としてドパミントランスポーター(DAT)に着目して、DATに関するドパミン取り込み阻害作用の解析を行った。同様に、合成カンナビノイドの作用解析に利用する目的で、カンナビノイドCB1受容体のX線構造を利用して、CB1受容体と合成カンナビノイドJWH-018のドッキングスタディを行った。検出系の研究としては、in vitro発光検出系を利用してカチノン系化合物のモノアミン酸化酵素(MAO)の阻害活性について検討した。また、ヒト肝ミクロソームを利用して、合成カンナビノイドの代謝物産生をLCMS-IT-TOFにより測定した。疫学調査:音楽系の野外フェスティバルをフィールドとして、危険ドラッグ乱用実態に関する携帯端末を活用したオンライン調査を実施した。
結果と考察
本研究ではチオフェン誘導体MPA、α-PBTおよびα-PVTについて、行動薬理学的解析を行った。チオフェン誘導体3種類により運動促進作用が発現し、この効果はドパミン受容体拮抗薬の前処置により抑制された。また、チオフェン誘導体はドパミンの取り込みを阻害した。次に、マウス線条体の初代培養神経細胞を使用して、チオフェン誘導体添加による細胞毒性の評価を行った。薬物添加24時間後に細胞の生存率を測定し、細胞毒性の指標とした。初代培養神経細胞にチオフェン誘導体を添加したところ、細胞生存率が低下し細胞毒性が発現した。合成カンナビノイドの作用解析に利用する目的でカンナビノイドCB1受容体とJWH-018との結合モデルの検証を実施し、ドッキングスタディによる活性予測法の開発を行うための基礎結合モデルのプロトタイプを作製した。また、発光性MAO基質による評価から、カチノン系化合物はMAO活性阻害作用を有することが示された。更に、LCMS-IT-TOFによる合成カンナビノイド測定系の検索を行い、ヒト肝ミクロソームにおけるin vitro代謝経路の解明が可能となった。疫学調査:音楽系の野外フェスティバルをフィールドとして、危険ドラッグ乱用に関する実態調査を行った。613名より有効回答を得た。2015年と本年度を比較すると危険ドラッグの生涯経験率は、有意に減少した。また、危険ドラッグの入手に関する調査では、「インターネットでの購入」が増加していることが判明した。
結論
本研究より、チオフェン誘導体であるMPA、α-PBTおよびα-PVTは中枢興奮作用を有することが明らかになった。これら3薬物の中枢興奮作用の発現には、ドパミン神経系特にDATを介するドパミン取り込み阻害作用が関与している可能性が示唆された。さらに、細胞毒性を惹起することから、乱用することにより重篤な健康被害の発生が危惧される。チオフェン誘導体は、覚せい剤などと同様に乱用される危険性が高いと考えられる。また、今回の研究により、合成カンナビノイドのカンナビノイド受容体結合モデルと代謝プロファイルをさらに蓄積することが出来た。更に、本検討で用いたMAO活性検出システムは、高感度で簡便な検出手法であり、危険ドラッグの有害作用の蓋然性をスクリーニングする手法として応用可能であると考えられる。本研究の危険ドラッグに関する機能評価から、その作用強度を解析する評価システムは、危険ドラッグの中枢作用および有害作用発現の迅速な評価法として有用であり、得られる科学データは規制根拠として活用できると考えられる。危険ドラッグの入手は店舗販売から変遷しており、乱用防止のために規制の在り方を再考し一層の対策と乱用防止の啓発が必要であろう。同時に、様々なイベントを通じて、危険ドラッグ等の薬物依存症からの回復へ向かうための対策が望まれる。

公開日・更新日

公開日
2019-07-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201623008Z