危険ドラッグを含む薬物乱用・依存状況の実態把握と薬物依存症者の社会復帰に向けた支援に関する研究

文献情報

文献番号
201623007A
報告書区分
総括
研究課題名
危険ドラッグを含む薬物乱用・依存状況の実態把握と薬物依存症者の社会復帰に向けた支援に関する研究
課題番号
H27-医薬A-一般-001
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
嶋根 卓也(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 庄司 正実(目白大学人間学部)
  • 松本 俊彦(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部 )
  • 和田 清(埼玉県立精神医療センター依存症治療研究部)
  • 近藤 あゆみ(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
14,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
危険ドラッグを含む薬物乱用・依存状況の実態把握および、薬物依存症者の社会復帰に向けた支援に関する研究を実施することでわが国の薬物乱用・依存対策に資する科学的知見を得ることを目的とする。
研究方法
研究2~7を実施した。
研究2:飲酒・喫煙・薬物乱用についての全国中学生意識・実態調査(2016年)
研究3:全国の児童自立支援施設における薬物乱用・依存の意識・実態に関する研究
研究4:全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査
研究5:「危険ドラッグ」を含む薬物乱用・依存に関する国際比較研究
研究6:精神保健福祉センターにおける家族心理教育プログラムの普及と評価に関する研究
研究7:刑の一部執行猶予制度の施行に向けた民間薬物依存症回復支援施設の実態把握と課題の解明に関する研究
結果と考察
【研究2】全国の中学校126校(実施率52.3%)から合計52,780名の有効回答を得た。飲酒・喫煙・有機溶剤の乱用はいずれも低下しており、予防意識や害知識の高まりが確認できた。危険ドラッグに関して、中学生における乱用の拡大は確認できなかったが、害周知率が低下していた。危険ドラッグの流行が終息しつつある中で、危険ドラッグに対する警戒心が低下した可能性がある。薬物乱用防止教育等を通じて、危険ドラッグに関する予防教育を維持・継続していくことが必要と考えられる。
【研究3】児童自立支援施設47施設、980名(男性707人、女性273人)から回答を得た(回収率82.5%)。有機溶剤・ブタンが乱用薬物として多く用いられており、また医薬品乱用が多いことが示された。しかし以前著しく多かった有機溶剤乱用はこの20年間漸減してきていた。一時社会的に取り上げられることが多かった危険ドラッグ乱用は減少した。
【研究4】精神科医療施設1241施設(78.7%)の協力を得て、229施設(14.5%)から総計2340例の薬物関連精神疾患症例が報告された。今年度調査では、前回の調査に比べて、危険ドラッグ関連障害症例の減少が顕著であったが、他方で、少数ながら覚せい剤や大麻の乱用へと移行した症例も認められた。現在、わが国の精神科医療現場は、再び覚せい剤を中心とした薬物関連精神疾患が中心的課題となっていることがうかがわれた。昨年「刑の一部執行猶予制度」が施行されたことを考え合わせると、覚せい剤関連精神疾患に対する医療体制の拡充は喫緊の課題と考えられる。
【研究5】EMCDDAは、確実な根拠のある情報は薬物に関する効果的な戦略の鍵であるという理念のもとで、Reitox networkを通して、EU加盟国から送られてくる薬物乱用状況に関する各国のデータを集約し、分析、標準化、手技・手法を各国に還元している。EMCDDA自体は政策提言を行わないが、その客観的データは各国にとって政策決定時の明らかなインパクトとなっている。
【研究6】全国59機関(85.5%)の精神保健福祉センターから回答が得られた。その結果、依存症に関する相談指導に力を入れて充実をはかろうとする機関が増えていること、その傾向は薬物において顕著であることなどが明らかになった。また、平成27年度に家族を対象としたグループを実施した44機関のうち17機関(38.6%)で家族心理教育プログラムが活用されたことが確認でき、普及を開始した平成23年度から5年間で一定の成果が得られたといえる。
【研究7】全国のダルク52施設(91.2%)から協力を得た。9割以上の施設が自立準備ホームや障害者総合支援法下の事業を使って薬物依存症者の支援を行っていることが明らかになった。より効果的な薬物依存症者の回復支援につながる事業の運用の仕方について、ダルクからの意見や要望も合わせながら十分議論し、その結果に基づいた柔軟な運用を目指していく必要がある。刑務所や保護観察所との連携は着実に進んでいるものの、ダルク職員が自らの役割や関与の仕方について十分な協議や合意が得られないまま刑務所や保護観察所の事業に参加している実態が示唆された。
結論
1) 社会問題化した危険ドラッグ乱用が終息に向かっていることが、多角的な疫学研究により実証された。今後、大麻、覚せい剤、医薬品等の乱用・依存について、EMCDDAの取り組みを参照しつつ、モニタリングを継続していくことが必要である。
2) 精神保健福祉センターにおいて家族心理教育プログラムの普及が進んだことが示された。また、民間支援団体であるダルクの活動実態や、刑務所や保護観察所との連携状況や課題が明らかとなった。
3) 「刑の一部執行猶予制度」の施行に伴い、覚せい剤関連精神疾患に対する医療体制の拡充や、関係機関の地域連携の実効性を高めていくことは喫緊の課題と考えられる。

公開日・更新日

公開日
2017-04-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2017-04-27
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201623007B
報告書区分
総合
研究課題名
危険ドラッグを含む薬物乱用・依存状況の実態把握と薬物依存症者の社会復帰に向けた支援に関する研究
課題番号
H27-医薬A-一般-001
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
嶋根 卓也(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 庄司 正実(目白大学人間学部)
  • 松本 俊彦( 国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部 )
  • 和田 清(埼玉県立精神医療センター依存症治療研究部)
  • 近藤 あゆみ(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
危険ドラッグを含む薬物乱用・依存状況の実態把握および、薬物依存症者の社会復帰に向けた支援に関する研究を実施することでわが国の薬物乱用・依存対策に資する科学的知見を得ることを目的とする。
研究方法
研究1~7を実施した。
研究1. 薬物使用に関する全国住民調査(2015年)
研究2:飲酒・喫煙・薬物乱用についての全国中学生意識・実態調査(2016年)
研究3:全国の児童自立支援施設における薬物乱用・依存の意識・実態に関する研究
研究4:全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査
研究5:「危険ドラッグ」を含む薬物乱用・依存に関する国際比較研究
研究6:精神保健福祉センターにおける家族心理教育プログラムの普及と評価に関する研究
研究7:刑の一部執行猶予制度の施行に向けた民間薬物依存症回復支援施設の実態把握と課題の解明に関する研究
結果と考察
【研究1】計3085名から調査票を回収し(回収率61.7%)、計3076名(女性52.3%、平均年齢43.3歳)の有効回答を得た。危険ドラッグの生涯経験者は減少し(2013年:約40万人、2015年:約31万人)、過去1年経験者がいなくなった(2013年0.1%、2015年0.0%)。使用者減少の背景には、指定薬物の対象物質の拡大、指定薬物制度の強化(検査命令、販売・広告停止命令など)により、危険ドラッグの入手機会が減ったことが影響していると考えられる。
【研究2】全国の中学校126校(実施率52.3%)から合計52,780名の有効回答を得た。飲酒・喫煙・有機溶剤の乱用はいずれも低下しており、予防意識や害知識の高まりが確認できた。危険ドラッグに関して、中学生における乱用の拡大は確認できなかったが、害周知率が低下していた。危険ドラッグの流行が終息しつつある中で、危険ドラッグに対する警戒心が低下した可能性がある。
【研究3】児童自立支援施設47施設、980名(男性707人、女性273人)から回答を得た(回収率82.5%)。危険ドラッグ乱用者は減少した。有機溶剤乱用が漸減する一方で、医薬品乱用などが散見された。
【研究4】精神科医療施設1241施設(78.7%)の協力を得て、229施設(14.5%)から総計2340例の薬物関連精神疾患症例が報告された。今年度調査では、前回の調査に比べて、危険ドラッグ関連障害症例の減少が顕著であったが、他方で、少数ながら覚せい剤や大麻の乱用へと移行した症例も認められた。現在、わが国の精神科医療現場は、再び覚せい剤を中心とした薬物関連精神疾患が中心的課題となっていることがうかがわれた。
【研究5】EMCDDAは、確実な根拠のある情報は薬物に関する効果的な戦略の鍵であるという理念のもとで、Reitox networkを通して、EU加盟国から送られてくる薬物乱用状況に関する各国のデータを集約し、分析、標準化、手技・手法を各国に還元している。
【研究6】全国59機関(85.5%)の精神保健福祉センターから回答が得られた。その結果、依存症に関する相談指導に力を入れて充実をはかろうとする機関が増えていること、その傾向は薬物において顕著であることなどが明らかになった。また、平成27年度に家族を対象としたグループを実施した44機関のうち17機関(38.6%)で家族心理教育プログラムが活用されたことが確認できた。
【研究7】全国のダルク52施設(91.2%)から協力を得た。9割以上の施設が自立準備ホームや障害者総合支援法下の事業を使って薬物依存症者の支援を行っていることが明らかになった。より効果的な薬物依存症者の回復支援につながる事業の運用の仕方について、ダルクからの意見や要望も合わせながら十分議論し、その結果に基づいた柔軟な運用を目指していく必要がある。
結論
1) 社会問題化した危険ドラッグ乱用が終息に向かっていることが、多角的な疫学研究により実証された。今後、大麻、覚せい剤、医薬品等の乱用・依存について、モニタリングを継続していくことが必要である。
2) 危険ドラッグは、他の薬物に比べると入手可能性が高く、指定薬物制度による危険ドラッグ対策や、教育現場における危険ドラッグの予防教育といった取り組みは今後も継続していくことが求められる。
3) 精神保健福祉センターにおいて家族心理教育プログラムの普及が進んだことが示された。また、民間支援団体であるダルクの活動実態や、刑務所や保護観察所との連携状況や課題が明らかとなった。
4) 「刑の一部執行猶予制度」の施行に伴い、覚せい剤関連精神疾患に対する医療体制の拡充や、関係機関の地域連携の実効性を高めていくことは喫緊の課題と考えられる。

公開日・更新日

公開日
2017-04-27
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201623007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
わが国の一般住民および青少年(全国の中学生、児童自立支援施設入所者)における危険ドラッグを含む薬物使用の現状および年次推移を把握することができた。
臨床的観点からの成果
わが国の精神科医療施設における薬物関連障害患者に関する経年的な実態をモニタリングするとともに、各薬物乱用者の臨床的ならびに心理社会的特徴を把握することができた。
ガイドライン等の開発
厚生労働省「大麻等の薬物対策のあり方検討会」の委員として、計4回の検討会(令和3年1月20日、2月25日、3月16日、3月31日)に出席するともに、研究成果に関する発表を行った。
文部科学省補助金(健康教育振興事業補助金)の「飲酒、喫煙、薬物乱用防止教育に関する指導参考資料」改訂委員会の委員として計7回(令和2年7月1日、7月22日、8月31日、10月5日、11月11日、12月15日、令和3年1月14日)の検討会に出席するともに、研究成果を資料として提出した。
その他行政的観点からの成果
薬物使用に関する全国住民調査の成果である、一般住民における危険ドラッグ(NPSs)使用の実態に関して、医薬・生活衛生局 監視指導・麻薬対策課を通じてUNODC(国連薬物犯罪事務所)へ報告した。
その他のインパクト
「飲酒・喫煙・薬物乱用についての全国中学生意識・実態調査」のうち大麻使用に関する成果が、テレビ(TBSニュース等)で報道された。
ASPAD-J(青少年の飲酒・喫煙・薬物乱用に関する全国学校調査)のホームページを新たに立ち上げ、飲酒・喫煙・薬物乱用についての全国中学生意識・実態調査のデータブックを公開した。https://www.ncnp.go.jp/nimh/yakubutsu/aspad-j/index.html

発表件数

原著論文(和文)
15件
原著論文(英文等)
6件
その他論文(和文)
168件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
111件
学会発表(国際学会等)
17件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
487件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Matsumoto T, Tachimori H, Takano A,et al.
Recent changes in the clinical features of patients with new psychoactive-substances-related disorders in Japan: Comparison of the Nationwide Mental Hospital Surveys on Drug-related Psychiatric Disorders undertaken in 2012 and 2014
Psychiatry and Clinical Neurosciences , 70 (12) , 560-566  (2016)
原著論文2
近藤あゆみ,栗坪千明,白川雄一郎,他
民間依存症回復支援DARC利用者を対象とした認知行動療法SMARPPの有効性評価
日本アルコール・薬物医学会雑誌 , 51 (6) , 414-424  (2016)
原著論文3
近藤あゆみ,高橋郁絵,森田展彰
薬物依存症者をもつ家族を対象とした心理教育プログラムの理解度と有用性-医療保健機関家族教室と家族会の参加者を対象としたアンケート調査結果から-
日本アルコール関連問題学会雑誌 , 18 (2) , 25-32  (2017)
原著論文4
近藤あゆみ,高橋郁絵,森田展彰
薬物依存症者をもつ家族を対象とした心理教育プログラム-補助教材の理解度と有用性-
日本アルコール関連問題学会雑誌 , 19 (2) , 93-99  (2018)
原著論文5
Tanibuchi Y, Matsumoto T, Funada D, Shimane T
The influence of tightening regulations on patients with new psychoactive substance-related disorders in Japan.
Neuropsychopharmacol Rep.  (2018)
doi: 10.1002/npr2.12035.
原著論文6
嶋根卓也、邱冬梅,和田清
日本における大麻使用の現状:薬物使用に関する全国住民調査2017より
YAKUGAKU ZASSHI , 140 (2) , 173-178  (2020)
原著論文7
Daisuke Funada,Toshihiko Matsumoto,Yuko Tanibuchi,et al.
Changes of clinical symptoms in patients with new psychoactive substance (NPS)-related disorders from fiscal year 2012 to 2014: A study in hospitals specializing in the treatment of addiction
Neuropsychopharmacology Reports  (2019)
doi: 10.1002/npr2.12053.
原著論文8
嶋根卓也,邱 冬梅,和田 清
日本における大麻使用の現状:薬物使用に関する全国住民調査2017より
YAKUGAKU ZASSHI , 140 (2) , 173-178  (2020)

公開日・更新日

公開日
2018-06-07
更新日
2022-06-09

収支報告書

文献番号
201623007Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
14,000,000円
(2)補助金確定額
14,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,842,196円
人件費・謝金 1,595,200円
旅費 2,542,999円
その他 8,019,605円
間接経費 0円
合計 14,000,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2018-06-21
更新日
-