国内野生ジカにおける病原性寄生虫の疫学的研究

文献情報

文献番号
201622037A
報告書区分
総括
研究課題名
国内野生ジカにおける病原性寄生虫の疫学的研究
課題番号
H27-食品-若手-022
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
山崎 朗子(岩手大学 農学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
3,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、多くの地域で野生鳥獣が個体数調整されており、これらの肉を有効活用する地域振興事業が行われている。野生鳥獣はと畜場法の対象外であることから、個々に作成したガイドラインに従って検査されてきたが、衛生環境管理下にある家畜に比べ、野生鳥獣は衛生面で大きく異なるため、家畜では見られない病原微生物や危害物質に暴露される可能性が大きい。国内ではこれまでにも野生獣肉の喫食による食中毒例が既に報告されており、その病原体も、細菌、ウイルス、寄生虫と広範囲にわたっている。これらの事例を基とした野生鳥獣の病原体保有状況の報告から、家畜とは異なる病原微生物保有が認められた。また、馬肉で事例を出した住肉胞子虫も、ニホンジカでの保有が報告されている。このように、家畜では特異性のある寄生虫が野生動物では多重感染している可能性があり、喫食時の危害に加え、家畜への感染源となる可能性も考えられる。しかしこれまでに行われた疫学研究は、調査地域のばらつき、検体数などの点からも十分でない。そこで本研究では、更に広い範囲での野生ジカにおける病原寄生虫の保有率を明らかにすることを目的とした。
研究方法
全国からのサンプリングを行い、検体を採取した。ジアルジア調査の検体としては直腸内容物を、住肉胞子虫の調査には骨格筋を採取した。直腸内糞便から水系原虫を濃縮し、リアルタイムPCR法にてスクリーニングを行った。陽性検体については18SrRNA遺伝子の特異領域を解析し、種同定を行った。野生ニホンジカに寄生する住肉胞子虫の定性的検査法、定量法を確立した。その検出法を用いて、採集したニホンジカ骨格筋に寄生した住肉胞子虫を調査した。スクリーニングの後、定量を行い、1gあたりの遺伝子コピー数を求めた。定量値について、由来地域、性別、年齢を因子としてMann–WhitneyのU検定、Kruskal-Wallis検定を行った。陽性検体からシストを分離し、マウスを用いた腸管ループテストを行った。
結果と考察
ジアルジアについては、京都府3.5%(1/29)、長崎県1.7%(1/58)の陽性率であり、本研究で調査した他地域では検出されなかった。遺伝子解析の結果、全てGiardia intestinalisであった。
住肉胞子虫の検出法について、現在NCBIに登録されている住肉胞子虫属21種の18S rRNA全長(約1800bp)を標的にした新規の定性的PCR法を確立した。同様に定量的リアルタイムPCR法も確立し、北海道、千葉県、三重県、長崎県のシカ肉中の住肉胞子虫の検出および定量を行った。その結果、陽性率は99%~100%であり、寄生密度は遺伝子コピー数105~1010/gであった。住肉胞子虫の寄生密度に関する分散分析を行った結果、地域について、長崎県のシカでは住肉胞子虫の寄生が有意に低いことが示された。しかし、年齢、性別では寄生密度に有意差は認められなかった。シカ肉から住肉胞子虫シストを採取し破砕してブラディゾイト浮遊液を調整した。ICRマウスを使用し、ループあたり1.0x104、1.0x106ブラディゾイトを投与したところ、1.0x106投与マウスに腸管の非炎症性非出血性腫脹が認められた。
結論
本研究結果から、ジアルジアについては野生ニホンジカの感染率は低いものの、感染種は人への病原性を持つ種であるため、シカの生息密度が上がれば個体間での感染伝播により全体の感染率の上昇が推測されることから、ある程度の危害性を考慮する必要性はある。住肉胞子虫については、ジビエとして利用を考える地域のほとんどすべてのニホンジカに感染していると考えられる。これまでに転用されていたS.fayeri検出法ではニホンジカ寄生の住肉胞子虫を特異的検出が出来ないため、改善が必要である。本研究で提示した定性的試験法、定量的試験法でエゾシカ、ホンシュウジカ、キュウシュウジカに寄生する住肉胞子虫については特異的に検出することができるが、他の原虫の検出と重複しないか、更に検証する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2017-11-28
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201622037B
報告書区分
総合
研究課題名
国内野生ジカにおける病原性寄生虫の疫学的研究
課題番号
H27-食品-若手-022
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
山崎 朗子(岩手大学 農学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、多くの地域で野生鳥獣が個体数調整されており、これらの肉を有効活用する地域振興事業が行われている。野生鳥獣はと畜場法の対象外であることから、個々に作成したガイドラインに従って検査されてきたが、衛生環境管理下にある家畜に比べ、野生鳥獣は衛生面で大きく異なるため、家畜では見られない病原微生物や危害物質に暴露される可能性が大きい。国内ではこれまでにも野生獣肉の喫食による食中毒例が既に報告されており、その病原体も、細菌、ウイルス、寄生虫と広範囲にわたっている。なかでも、馬肉で事例を出した住肉胞子虫も、ニホンジカでの有症事例が報告されており、このようなヒトに対しても家畜に対しても危害性を持つ微生物が感染している可能性が高いが、これまでに行われた疫学研究は、食中毒危害性を優先した細菌、ウイルスを標的にしたものが多い。そこで本研究では、近年食中毒原因としても頻発している寄生虫を標的として、広い範囲での野生ジカにおける病原寄生虫の保有率を明らかにすることを目的とした。
研究方法
全国からのサンプリングを行い、検体を採取した。水系原虫調査の検体としては直腸内容物を、住肉胞子虫の調査には骨格筋を採取した。直腸内糞便から水系原虫を濃縮し、リアルタイムPCR法にてスクリーニングを行った。陽性検体については18SrRNA遺伝子の特異領域を解析し、種同定を行った。野生ニホンジカに寄生する住肉胞子虫の定性的検査法、定量法を確立した。その検出法を用いて、採集したニホンジカ骨格筋に寄生した住肉胞子虫を調査した。スクリーニングの後、定量を行い、1gあたりの遺伝子コピー数を求めた。定量値について、由来地域、性別、年齢を因子としてMann–WhitneyのU検定、Kruskal-Wallis検定を行った。陽性検体からシストを分離し、マウスを用いた腸管ループテストを行った。
結果と考察
野生ニホンジカに関する水系原虫についてはまだ報告も少なく、調査範囲も限られていたため、本研究成果により、クリプトスポリジウムについては直接的に人への病原性を持つ種の感染は認められなかったため、ジビエ利用という観点からは、食肉生産従事者の作業中の危害性は低いと考えられる。一方ジアルジアについては、感染率は低いものの、人への病原性を持つものであるため、シカの生息密度が上がれば個体間での感染伝播により全体の感染率の上昇が推測されることから、ある程度の危害性を考慮する必要性はある。住肉胞子虫については、これまでに転用されていたS.fayeri検出法ではニホンジカ寄生の住肉胞子虫を特異的検出が出来ないため、改善が必要である。本研究で提示した定性的試験法、定量的試験法でエゾシカ、ホンシュウジカ、キュウシュウジカに寄生する住肉胞子虫については特異的に検出することができるが、これら以外のツシマジカ等、他種のシカへの反応性についてはまだ精査できていないこと、さらに、他の原虫の18SrRNA遺伝子の配列と類似した部分を除去しきれていないため、他の標的遺伝子も候補として考える必要がある。
結論
野生ニホンジカからクリプトスポリジウム、ジアルジアが検出された。クリプトスポリジウムについては人への病原性が報告されていない種であったが、ジアルジアは人への病原性が報告されている種であった。住肉胞子虫は国内の野生ニホンジカのほとんどすべてに感染しており、下痢毒性を有していることが示唆された。

公開日・更新日

公開日
2017-11-28
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201622037C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ほとんどすべての野生ニホンジカに感染していた住肉胞子虫の腸管毒性について、ウマ寄生性のS.fayeriの下痢毒性因子と報告された15kDaタンパク質を同様にゲルろ過法にて分画し腸管ループテストに用いたが、腸管毒性は認められなかった。同時に組換えタンパク質として作製した15kDaタンパク質についても同様に腸管毒性は認められなかった。
臨床的観点からの成果
馬肉食中毒の原因となったS. fayeriの下痢毒性因子と報告された15kDaタンパク質については、ニホンジカ寄生性住肉胞子虫に関してはマウスに下痢毒性を示さなかった。しかし、住肉胞子虫のシストを投与した腸管ループ試験では毒性を示した事、また、シカ肉での食中毒リスクが存在している現況から、15kDaタンパク質以外の下痢毒性因子の存在が考えられるため、早急な解明が必要である。
ガイドライン等の開発
本研究成果については、ガイドラインの開発に主な関与はしていない。
その他行政的観点からの成果
本研究成果は、行政政策に関与していない。
その他のインパクト
岩手県公衆衛生獣医師会研修会にて講演した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
1件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2017-11-28
更新日
2018-07-04

収支報告書

文献番号
201622037Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,500,000円
(2)補助金確定額
3,500,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,181,361円
人件費・謝金 330,000円
旅費 800,122円
その他 188,517円
間接経費 0円
合計 3,500,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2017-11-28
更新日
-