文献情報
文献番号
201622026A
報告書区分
総括
研究課題名
震災に起因する食品中の放射性物質ならびに有害化学物質の実態に関する研究
課題番号
H24-食品-指定-001
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
蜂須賀 暁子(国立医薬品食品衛生研究所 生化学部)
研究分担者(所属機関)
- 松田りえ子( 国立医薬品食品衛生研究所 食品部)
- 鍋師裕美( 国立医薬品食品衛生研究所 食品部)
- 曽我慶介( 国立医薬品食品衛生研究所 食品部)
- 堤 智昭( 国立医薬品食品衛生研究所 生化学部)
- 畝山智香子( 国立医薬品食品衛生研究所 安全情報部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
大震災と津波により、放射性物質を含む多量の規制化学物質が環境に放出された。これら物質の食品中への移行は食品衛生上大きな問題である。食品中の放射性物質は、平成24年度から新たに食品衛生法第11条による基準値が設定され、検査の信頼性が一層重要となった。本研究では、効率的・効果的な検査手法の確立、検査結果の信頼性の向上、きめ細やかな規制のあり方等について検討する。また、震災により放出された放射性物質以外の化学物質の食品への影響はほとんど検討されていないことから、これらの影響を評価するための研究を行う。
研究方法
放射能測定結果の信頼性に資するため、本年度は測定値に影響する因子として、妨害核種の判定、校正条件、試料の汚染防止、測定環境の維持管理等について検討した。調理加工による放射性物質総量や濃度の変化に関する情報の収集を目的に、各種食品(コシアブラ、乾燥マイタケ、乾シイタケ、ヒメマス、イワタケ)を用いて調理加工前後の食品中の放射性セシウム濃度の分析を行った。震災・津波により環境に流出した可能性が高く、健康影響へのリスク管理の観点から実態を把握すべき化学物質として、ポリ塩化ビフェニル類(PCBs)を取り上げ、本年度は津波被災地域と非津波被災地域より魚介類を用いた食事計50試料を購入し、これらの食事試料からのPCBs摂取量について比較した。また、震災前後にリスクが変化している化学物質を探索し、今後のリスクコントロールについて評価した。効率的な検査計画の立案に資するため、厚生労働省に報告されたモニタリング検査データを詳細に解析し、食品中の放射性セシウムの分布、変動、減衰の状況を調べた。
結果と考察
食品中放射性物質検査においては測定前の核種分離操作が行われていないことから、確定法では放射性セシウムのピークエネルギー範囲の検出が放射性セシウムによるものかどうかの判定が必要である。
調理加工影響では、水や塩水中での浸漬工程がある場合は、放射性セシウムが食品から効率的に浸漬液に移行することが明らかとなった。放射性ストロンチウム濃度の検討では、乾燥大豆から加工したおからに、調理前の大豆の約65%の放射性ストロンチウムが分配されていることが明らかとなったが、これは放射性セシウムの分配割合とは大きく異なった。
津波被災地域および非津波被災地域で購入した一食分試料からのPCBs摂取量の25、50、75パーセンタイル値を比較したところ、非津波被災地域と比較してPCBs摂取量が高い傾向は見られなかった。また、各一食分試料からの総PCBs摂取量におけるPCBs同族体の割合を解析したところ、津波被災地域の試料において新たなPCBs汚染源を示唆するようなPCBs同族体の組成は認められず、非津波被災地域の試料と同様に4~7塩素化PCBsの占める割合が大きかった。以上の結果から、津波被災地域の一食分試料において、注視すべき高いPCBs摂取量は認められず、津波による影響は確認できなかった。
震災前後に健康リスクが変化している化学物質は、環境や食品中の濃度変動よりも個人の行動変化のほうが寄与率が高そうであることが初年度の研究成果として示唆されたため、消費者が適切なリスク管理を行うために必要な情報について調査した。震災から時間が経過し流通食品から放射性物質が検出されることがほぼ無くなり話題になることも減り、風評被害対策としての情報提供は見かけ上有効ではない状況も見られる。放射能汚染だけに特化した情報提供は役割を終え、食品安全全体についての理解の促進に目標を進化させるべきであろう。
効率的検査計画の検討では、公表されている平成28年度の食品中の放射性セシウム濃度データ63,121件につき、産地、食品カテゴリ別に検出率、濃度等を求めた。流通する食品の基準値超過率は0.05%で非常に低かったが、非流通食品では1.0%であり、また非常に高濃度の試料も見られたことから、流通前の検査により、高濃度の放射性セシウムを含む食品が、効果的に流通から排除されていると考えられた。今後は、山菜、きのこ、淡水魚、野生鳥獣肉などの食品中の放射性セシウムの検査を維持していくことが重要と考えられる。
調理加工影響では、水や塩水中での浸漬工程がある場合は、放射性セシウムが食品から効率的に浸漬液に移行することが明らかとなった。放射性ストロンチウム濃度の検討では、乾燥大豆から加工したおからに、調理前の大豆の約65%の放射性ストロンチウムが分配されていることが明らかとなったが、これは放射性セシウムの分配割合とは大きく異なった。
津波被災地域および非津波被災地域で購入した一食分試料からのPCBs摂取量の25、50、75パーセンタイル値を比較したところ、非津波被災地域と比較してPCBs摂取量が高い傾向は見られなかった。また、各一食分試料からの総PCBs摂取量におけるPCBs同族体の割合を解析したところ、津波被災地域の試料において新たなPCBs汚染源を示唆するようなPCBs同族体の組成は認められず、非津波被災地域の試料と同様に4~7塩素化PCBsの占める割合が大きかった。以上の結果から、津波被災地域の一食分試料において、注視すべき高いPCBs摂取量は認められず、津波による影響は確認できなかった。
震災前後に健康リスクが変化している化学物質は、環境や食品中の濃度変動よりも個人の行動変化のほうが寄与率が高そうであることが初年度の研究成果として示唆されたため、消費者が適切なリスク管理を行うために必要な情報について調査した。震災から時間が経過し流通食品から放射性物質が検出されることがほぼ無くなり話題になることも減り、風評被害対策としての情報提供は見かけ上有効ではない状況も見られる。放射能汚染だけに特化した情報提供は役割を終え、食品安全全体についての理解の促進に目標を進化させるべきであろう。
効率的検査計画の検討では、公表されている平成28年度の食品中の放射性セシウム濃度データ63,121件につき、産地、食品カテゴリ別に検出率、濃度等を求めた。流通する食品の基準値超過率は0.05%で非常に低かったが、非流通食品では1.0%であり、また非常に高濃度の試料も見られたことから、流通前の検査により、高濃度の放射性セシウムを含む食品が、効果的に流通から排除されていると考えられた。今後は、山菜、きのこ、淡水魚、野生鳥獣肉などの食品中の放射性セシウムの検査を維持していくことが重要と考えられる。
結論
放射性物質の非流通食品も含めた検査結果解析から、規格不適合食品の排除は適切になされていると考えられた。今後、監視を強化継続すべき食品群は、山菜、きのこ、淡水魚、野生鳥獣肉のような山林にその起源をもつ食品と考えられた。検査体制の充実により安全な食品の流通を保証すること、並びに消費者が適切なリスク管理を行うために必要な情報を提供していくことは、食品の安全・安心に繋がるとともに、風評被害を防止し、被災地域の復興に繋がると考えられる。
公開日・更新日
公開日
2017-11-28
更新日
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