じん肺の診断基準及び手法に関する調査研究

文献情報

文献番号
201621002A
報告書区分
総括
研究課題名
じん肺の診断基準及び手法に関する調査研究
課題番号
H26-労働-一般-002
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
芦澤 和人(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科 展開医療科学講座 臨床腫瘍学)
研究分担者(所属機関)
  • 岸本 卓巳(岡山労災病院 呼吸器内科学)
  • 荒川 浩明(獨協医科大学 放射線診断学)
  • 大塚 義紀(北海道中央労災病院 呼吸器内科学)
  • 加藤 勝也(川崎医科大学 放射線医学(画像診断2))
  • 高橋 雅士(医療法人友仁会 友仁山崎病院)
  • 仁木 登(徳島大学大学院 ソシオテクノサイエンス研究部)
  • 野間 恵之(天理よろづ相談所病院 放射線部 診断部門)
  • 本田 純久(長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科 医学統計学)
  • 五十嵐 中(東京大学大学院 薬学系研究科医薬政策学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成22年5月のじん肺法における、じん肺健康診断等に関する検討会の報告書のなかで、胸部CT検査に関する3つの課題(1. 放射線被曝量が、単純X線写真に比べて高いこと、2. 事業者がじん肺健康診断の費用を負担すること、3. 読影技術の普及が必要であること)が示されており、これらについて検討する必要がある。
 本研究では、胸部CT検査を行うことで、じん肺の診断の確信度が有意に上昇する症例、或いは胸部CT検査を用いなければ、的確な診断ができない症例の収集・分析を行い、胸部CT検査の有用性を検証し、じん肺健康診断における適切な診断基準及び手法の確立を目的とする。
研究方法
じん肺の存在診断に関しては、珪肺のPR0/1とPR1/0の鑑別に焦点をおき、胸部CT検査を加えることで的確な診断に寄与するかどうか、また寄与するとすればどの様な症例で、どの程度の頻度で寄与しうるかを検討した。また、珪肺のみならず、最近増加傾向にある溶接工肺のCT 所見の定量評価を行い、これらを珪肺と比較検討した。
 最新のCT機種では、新たな逐次近似再構成法により、画質を保持したままで、胸部単純X線撮影と同程度の低線量での撮像が可能となってきている。逐次近似再構成法による超低線量CT画像と通常線量CT画像における診断能に差違がないかを検討するため、前向きに症例の収集し、読影実験を行った。
 また、これらの前向きに収集した症例の中で、特に珪肺のPR0/1とPR1/0の鑑別に焦点をおき、通常線量CTにおける粒状影の定量化、CAD(コンピューター支援診断)の応用を試み、読影技術の普及方策を検討した。また、CTじん肺健診によるコスト・ベネフィットの解析を行った。
結果と考察
後ろ向きに収集したじん肺症例と粉じん吸入対照群(PR0/1以下)の胸部単純X線写真およびCT画像の検討を行った。132例の胸部単純X線写真を5名の呼吸器内科医及び画像診断医で構成される研究分担者で病型の再評価を行った。5名が独立して評価した場合の一致率は高くなかったので、合議の上で再評価を行い、最終的に110例の病型が確定した。これらの症例のCT画像の病型の評価を行う上で、溶接工肺やスライス厚が5mmより厚い症例を除外し、最終的に72例を評価した。この72例において、胸部単純写真と胸部CTのスコアが同等となった症例は40例、56%であった。単純写真が過小評価されている症例は13例(18%)、一方過大評価されている症例は19例(26%)であり、肺気腫症例が有意に多かった。
 溶接工肺に関しては66名のCT画像の解析を行い、33名の珪肺の画像所見との比較を行った。溶接工肺では、小葉中心性の淡い陰影が特徴的であり、珪肺でみられる境界明瞭な粒状影や大陰影は有意に溶接工肺では少なかった。また、単純X線写真では明らかに溶接工肺における粒状影が過小評価されていることが明らかとなった。
 岡山労災病院のじん肺症例で、逐次近似再構成法による超低線量CT画像と通常線量CT画像を撮像し、前向きに収集した珪肺84例から40例を抽出し、放射線科専門医、放射線科レジデント、呼吸器内科専門医の各5名ずつ計15名で読影実験を行った。その結果超低線量CTの通常線量に対する非劣性が統計学的に証明された。
 前向きに収集された画像データの内、1mm再構成厚のデータに関しては、CAD(コンピューター支援診断)の応用を試みた。結果、CT画像から微小結節を高精度に検出することができ、粒状影の定量的評価の可能性が示された。
結論
珪肺の存在診断、特にPR0/1とPR1/0の鑑別において、単純X線写真では、過小評価、過大評価されている症例が少なからずあり、CTを用いた粒状影の評価が重要と考えられる。
 溶接工肺の画像は珪肺とは異なり、単純X線写真では過小評価されるので、職歴において溶接工肺が疑われる場合には、CTを用いた粒状影の評価を加えることが重要である。
 読影医師によるじん肺の粒状影の診断能において、超低線量CTの通常線量CTに対する非劣性が証明された。じん肺に診断において超低線量CTで評価が可能であると考えられ、今後、世代の古い装置での画像評価や撮像プロトコールに関して、さらに検討を加える必要がある。
 じん肺の粒状影に対してCAD(コンピューター支援診断)の応用を試み、粒状影の定量的評価の可能性が示された。

公開日・更新日

公開日
2017-05-24
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2017-05-10
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201621002B
報告書区分
総合
研究課題名
じん肺の診断基準及び手法に関する調査研究
課題番号
H26-労働-一般-002
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
芦澤 和人(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科 展開医療科学講座 臨床腫瘍学)
研究分担者(所属機関)
  • 岸本 卓巳(岡山労災病院 呼吸器内科学)
  • 荒川 浩明(獨協医科大学 放射線診断学)
  • 大塚 義紀(北海道中央労災病院 呼吸器内科学)
  • 加藤 勝也(川崎医科大学 放射線医学(画像診断2))
  • 高橋 雅士(医療法人友仁会 友仁山崎病院)
  • 仁木 登(徳島大学大学院 ソシオテクノサイエンス研究部)
  • 野間 恵之(天理よろづ相談所病院 放射線部 診断部門)
  • 本田 純久(長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科医学統計学)
  • 五十嵐 中(東京大学大学院 薬学系研究科医薬政策学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、胸部単純X線撮影に加えて胸部CT検査を行うことで、じん肺診断の確信度が有意に上昇する症例、或いは胸部CT検査を用いなければ、的確な診断ができない症例の収集・分析を行い、じん肺健診における胸部CT検査の有用性を検証し、適切な診断基準及び手法を確立することを目的とした。
研究方法
じん肺症例と粉じん吸入対照群(PR0/1以下)の胸部単純X線写真およびCT画像の収集を行った。じん肺の存在診断に関しては、珪肺のPR0/1とPR1/0の鑑別に焦点をおき、胸部CT検査を加えることで的確な診断に寄与するかどうかを検討した。また、最近増加傾向にある溶接工肺のCT 所見の定量評価を行い、これらを珪肺と比較検討した。
 じん肺と鑑別診断すべき疾患群の画像も収集を行った。珪肺との鑑別診断に関して、胸部単純写真とCTの診断能について読影実験を行って比較を行い、じん肺診断におけるCTの有用性を検討した。
 また、じん肺診査の過程で、地方じん肺診査医が胸部単純写真のみで診断を下している現状で、胸部単純写真だけでは不十分でCTの併用が望ましいと思われる頻度とその理由を1年間にわたり調査した。
 さらに、逐次近似再構成法による超低線量CT画像と通常線量CT画像における診断能に差違がないかを検討するため、前向きに症例の収集し読影実験を行った。また、特に珪肺のPR0/1とPR1/0の鑑別に焦点をおき、通常線量CTにおける粒状影の定量化、CAD(コンピューター支援診断)の応用を試み、読影技術の普及方策を検討した。
結果と考察
じん肺症例と粉じん吸入対照群(PR0/1以下)で、胸部単純写真と胸部CTのスコアが同等となった症例は72例中40例、56%であった。単純写真が過小評価されている症例は13例(18%)、一方過大評価されている症例は19例(26%)であり、肺気腫症例が有意に多かった。
 溶接工肺に関しては66名のCT画像の解析を行い、33名の珪肺の画像所見との比較を行った。溶接工肺では、小葉中心性の淡い陰影が特徴的であり、珪肺でみられる境界明瞭な粒状影や大陰影は有意に少なかった。また、単純X線写真では明らかに溶接工肺における粒状影が過小評価されていた。
 質的診断に関しては、じん肺と鑑別すべき疾患群として、サルコイドーシス・肺ランゲルハンス細胞組織球症等の8疾患を挙げ、じん肺(6例)を加えた計50例の単純X線写真およびCT画像に関して、胸部放射線科医、一般放射線科医、呼吸器内科医、各5名で読影実験を行った。その結果、じん肺と他疾患との鑑別には単純X線写真よりもCTが有用であり、呼吸器内科医では放射線科医に比べてCTを用いるメリットが大きかった。また今回対象とした疾患群の中では、疾患頻度が比較的高く、好発年齢や症状がじん肺患者と重なるサルコイドーシスと抗酸菌症は、CTを用いても鑑別が難しいことが明らかとなった。
 地方じん肺診査会において、地方じん肺診査医がCTがあれば良いと感じた症例は27.8%であった。そのうち、0/1か1/0かの判定および他疾患との鑑別に必要であるとされた症例が23.5%であった。
 岡山労災病院のじん肺症例で、逐次近似再構成法による超低線量CT画像と通常線量CT画像を撮像し、前向きに収集した珪肺84例から40例を抽出し、放射線科専門医、放射線科レジデント、呼吸器内科専門医の各5名ずつ計15名で読影実験を行った。その結果超低線量CTの通常線量に対する非劣性が統計学的に証明された。
 前向きに収集された画像データの内、1mm再構成厚のデータに関しては、CAD(コンピューター支援診断)の応用を試みた。結果、CT画像から微小結節を高精度に検出することができ、粒状影の定量的評価の可能性が示された。
結論
珪肺の存在診断、特にPR0/1とPR1/0の鑑別において、単純X線写真では、過小評価、過大評価されている症例が少なからずあり、CTを用いた粒状影の評価が重要である。
 溶接工肺の画像は単純X線写真では過小評価されるので、職歴において溶接工肺が疑われる場合には、CTを用いた粒状影の評価を加えることが重要である。
 じん肺と他疾患との鑑別には胸部単純X線写真よりもCTが有意に有用であり、特に、サルコイドーシスと抗酸菌症は、CTを用いても鑑別が難しいことがあり重要な疾患と考えられる。
 地方じん肺診査医は、約3割弱の症例で診査時にCTがあれば良いと感じており、その理由は、PR0/1とPR1/0の判定と、他疾患との鑑別が挙げられる。
 読影医師によるじん肺の粒状影の診断能において、超低線量CTの通常線量CTに対する非劣性が証明された。
 じん肺の粒状影に対してCADの応用を試み、粒状影の定量的評価の可能性が示された。

公開日・更新日

公開日
2017-05-24
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2017-05-24
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201621002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
珪肺の存在診断および鑑別診断において読影実験を行い、単純X線写真と比較したCTの有用性を明らかとした。特に疾患頻度が比較的高く、好発年齢や症状が珪肺患者と重なる肺サルコイドーシスと肺抗酸菌症は、特に重要な疾患であり、今後鑑別診断マニュアルの作成を検討中である。
臨床的観点からの成果
珪肺と比較して増加傾向にある溶接工肺のCT画像は、小葉中心性の淡い粒状影や分岐状影が特徴的である。CTと比較して単純X線写真では明らかに粒状影が過小評価されている。職歴において溶接工肺が示唆される場合には、CTを用いた粒状影の評価を加えることが重要である。
ガイドライン等の開発
医師による珪肺の粒状影の診断能において、超低線量CTの通常線量CTに対する非劣性を明らかにした。珪肺の診断において超低線量CTで評価を行うことが可能であり、旧世代のCT装置での画像評価や撮像プロトコールに関する検討を加え、ガイドラインを提示する必要がある。
その他行政的観点からの成果
地方じん肺診査医会において、診査医がじん肺の認定作業の中で画像診断を行う際に、約3割の症例で単純X線写真のみでは不十分で、診査時にCTがあれば良いと感じている。その主な理由は、PR0/1とPR1/0の判定および他疾患との鑑別診断に関してであった。じん肺診査の正確な認定を行う上でCTの使用を考慮する必要性がある。
その他のインパクト
1mm再構成厚のCT画像データに関して、CAD(コンピューター支援診断)の応用を試みた。結果、CT画像から粒状影を検出することができ、粒状影の定量的評価の可能性が示された。現在、多数例の粒状影を解析し、高度じん肺診断支援システムの開発を目指している。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
10件
学会発表(国際学会等)
4件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2022-06-09
更新日
-

収支報告書

文献番号
201621002Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
8,800,000円
(2)補助金確定額
8,800,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,882,764円
人件費・謝金 1,014,138円
旅費 3,809,700円
その他 1,293,398円
間接経費 800,000円
合計 8,800,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2018-07-11
更新日
-