内分泌攪乱物質の免疫機能に及ぼす影響に関する研究

文献情報

文献番号
199800580A
報告書区分
総括
研究課題名
内分泌攪乱物質の免疫機能に及ぼす影響に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
山崎 聖美(国立公衆衛生院)
研究分担者(所属機関)
  • 久松由東(国立公衆衛生院)
  • 香山不二雄(自治医科大学)
  • 岡田由美子(国立公衆衛生院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在、内分泌攪乱物質として疑われている物質は、我々が日常生活で使用しているものにも多く含まれ、70種にのぼる。これらの物質は、野生生物に影響を及ぼすのみならず、人においても生殖器ガンや精子数の減少につながることが指摘されている。しかし、内分泌攪乱物質の人の健康に対する影響についてはまだ研究が進んでおらず、早急にこの問題に対処する必要がある。内分泌系は免疫系と密接に関係しており、内分泌攪乱物質は免疫機能を低下させていると考えられ、特に、最近増加したアレルギーや化学物質過敏症との関連も危惧されている。そこで、内分泌攪乱物質が免疫機能を低下させるか、アレルギー発症に関わっているか調べ、内分泌攪乱物質が免疫機能に及ぼす影響に関してそのメカニズムを解明することを本研究の目的とする。
研究方法
ヒト末梢血よりリンパ球を調製し、リンパ球のマイトジェンに対する反応性に内分泌攪乱物質が及ぼす影響について調べた。対象とした内分泌攪乱物質は、ノニルフェノール、ビスフェノールA、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、フタル酸ジ-n-ブチル、フタル酸ブチルベンジル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジシクロヘキシルである。Tリンパ球に対してはコンカナバリンAを、Bリンパ球に対してはスタフィロコッカスオーレウスコーエン・をマイトージェンとして用いた。これらマイトージェンをリンパ球を内分泌攪乱物質存在下で4時間培養したのち添加し、2日間、37度、5%二酸化炭素中で培養し、トリチウム標識チミジンを加えてさらに一晩培養し、ハーベストし、細胞核内とりこまれたトリチウム標識チミジンを液体シンチレーションカウンターを用いて測定し、細胞内におけるDNA合成能を比較した。また、Tリンパ球系培養細胞及びBリンパ球系培養細胞を用い、内分泌攪乱物質による機能の変化について調べた。Tリンパ球系培養細胞としてはJurkat細胞を用い、A23187とホルボルミリステートアセテートで刺激した。Bリンパ球系培養細胞としてはRaji細胞を用い、スタフィロコッカスオーレウスコーエン・で刺激した。これらの刺激は、細胞を0時間から24時間までの様々な時間内分泌攪乱物質存在下で培養した後に加えた。さらに、これらの結果をもとに、マウスに内分泌攪乱物質を投与した。
結果と考察
まず、ヒトTリンパ球の反応性に対する内分泌攪乱物質の影響について調べた。ヒト末梢血から調製したリンパ球を4時間ノニルフェノール存在下で培養した後、コンカナバリンAを加えて刺激した場合を、ノニルフェノール非存在下で培養して刺激し活性化したものと比較すると、10(-8)MではコンカナバリンAによる活性化に変化は見られず、ノニルフェノール非存在下で培養した場合と同程度活性化されたが、10(-7)MでコンカナバリンAによる活性化が一部抑制され、10(-6)Mではほとんど活性化がみられなかった。ビスフェノールAでは、10(-8)M及び10(-7)Mでは活性化に変化はみられなかったが、10(-6)Mではほとんど活性化がみられなかった。フタル酸ジ-2-エチルヘキシルでは、10(-7)M及び10(-6)Mでは活性化に変化はみられなかったが、10(-5)Mではほとんど活性化がみられなかった。フタル酸ジ-n-ブチルでは、10(-7)M及び10(-6)Mでは活性化に変化はみられなかったが、10(-5)Mでは活性化が一部抑制され、10(-4)Mでは活性化がみられなかった。フタル酸ブチルベンジルでは、10(-7)Mでは活性化に変化はみられなかったが、10(-6)M及び10(-5)Mでは活性化が一部抑制され、10(-4)Mでは活性化がみられなかった。フタル酸ジエチルでは、10(-4)Mでも活性化に変化はみられなかった。フタル酸ジシクロヘキシルでは、10(-7
)M及び10(-6)Mでは活性化に変化はみられなかったが、10(-5)Mでは活性化が一部抑制され、10(-4)Mでは活性化がみられなかった。次に、ヒトBリンパ球の反応性に対する内分泌攪乱物質の影響について調べた。ヒト末梢血から調製したリンパ球を4時間ノニルフェノール存在下で培養した後、スタフィロコッカスオーレウスコーエン・を加えて刺激した場合を、ノニルフェノール非存在下で培養して刺激し活性化したものと比較すると、10(-6)Mではスタフィロコッカスオーレウスコーエン・による活性化に変化は見られず、ノニルフェノール非存在下で培養した場合と同程度活性化されたが、10(-5)Mではスタフィロコッカスオーレウスコーエン・による活性化はほとんどみられなかった。ビスフェノールA、フタル酸ジ-n-ブチルでは、10(-6)M及び10(-5)Mでは活性化に変化はみられなかったが、10(-4)Mではほとんど活性化がみられなかった。フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、フタル酸ジシクロヘキシルでは、10(-7)M及び10(-6)Mでは活性化に変化はみられなかったが、10(-5)Mでは活性化が一部抑制され、10(-4)Mでは活性化がみられなかった。フタル酸ブチルベンジルでは、10(-7)M、10(-6)M及び10(-5)Mでは活性化に変化はみられなかったが、10(-4)Mでは活性化が一部抑制された。フタル酸ジエチルでは、10(-4)Mでも活性化に変化はみられなかった。次に、Jurkat細胞を用い、A23187とホルボルミリステートアセテートで刺激した場合の反応性に対する内分泌攪乱物質の影響について調べた。4時間内分泌攪乱物質存在下で培養した後刺激した場合の反応性は、ノニルフェノール、ビスフェノールA、フタル酸ジ-n-ブチル、フタル酸ブチルベンジルでは、10(-7)M及び10(-6)M、10(-5)Mでは活性化に変化はみられなかったが、10(-4)Mでは活性化がみられなかった。フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、フタル酸ジシクロヘキシルでは、10(-7)M及び10(-6)Mでは活性化に変化はみられなかったが、10(-5)Mでは活性化が一部抑制され、10(-4)Mでは活性化がみられなかった。フタル酸ジエチルでは、10(-4)Mでも活性化に変化はみられなかった。これらの濃度では、内分泌攪乱物質と同時に刺激を加えても同様の結果が得られた。また、内分泌攪乱物質存在下で24時間培養した後、刺激した場合では、さらに低い濃度で活性化が抑制された。次に、Raji細胞を用い、スタフィロコッカスオーレウスコーエン・で刺激した場合の反応性に対する内分泌攪乱物質の影響について調べた。4時間内分泌攪乱物質存在下で培養した後刺激した場合の反応性は、ノニルフェノールでは10(-7)M及び10(-6)Mでは活性化に変化はみられなかったが、10(-5)Mでは活性化がみられなかった。ビスフェノールA、フタル酸ジシクロヘキシルでは10(-7)M及び10(-6)Mでは活性化に変化はみられなかったが、10(-5)Mでは活性化が一部抑制され、10(-4)Mでは活性化がみられなかった。フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、フタル酸ジ-n-ブチルでは10(-7)M及び10(-6)M、10(-5)Mでは活性化に変化はみられなかったが、10(-4)Mでは活性化がみられなかった。フタル酸ブチルベンジルでは10(-4)Mで一部活性化が抑制された。フタル酸ジエチルでは、10(-4)Mでも活性化に変化はみられなかった。培養細胞を用いた系では、リンパ球の反応性と同様の傾向を示し、内分泌攪乱物質のリンパ球の反応性に対するアッセイ系として用いることが十分可能と考えられる。
結論
ノニルフェノール、ビスフェノールA、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、フタル酸ジ-n-ブチル、フタル酸ブチルベンジル、フタル酸ジシクロヘキシルは、ヒトT・Bリンパ球及びT・Bリンパ球系培養細胞の反応性を低下させることが明らかになった。フタル酸ジエチルにはこの作用はみられなかった。

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