文献情報
文献番号
199800578A
報告書区分
総括
研究課題名
内分泌撹乱化学物質等、生活環境中の化学物質による健康リスクの評価におけ
る不確実性の解析に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
関澤 純(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
- 三森 国敏(国立医薬品食品衛生研究所)
- 西川 秋佳(国立医薬品食品衛生研究所)
- 吉田 喜久雄(三菱化学安全科学研究所)
- 今井 清(食品薬品安全センター秦野研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
ダイオキシンや、内分泌撹乱化学物質のリスク評価における不確実性要因を毒性評価および曝露評価のそれぞれについて解析、明示することにより、評価の信頼性の向上に寄与する。内分泌撹乱化学物質のリスク評価のために、必要に応じ新たな解析手法およびリスク評価における不確実性の提示手法の開発を目指す。
研究方法
(1) リスク評価における不確実性分析手法および、ダイオキシンを含む内分泌撹乱化学物質のリスク評価に関する情報を収集し、検討した。(2) 毒性評価における不確実性の要因を、いくつかの内分泌撹乱化学物質を例として、データギャップ、種間・個体間の感受性・代謝の違い、試験における証拠の十分さ、評価に用いられたモデルや外挿法の選択の違いなどについて検討した。(3) 曝露評価については、環境中の動態・分布などの寄与、感受性集団への曝露の有無などについて検討した。(4) 内分泌撹乱化学物質のうち活性の強さと曝露レベルの情報から考えて、ヒトとりわけ日本人に影響を及ぼしている可能性がもっとも高い物質を優先し、問題とされているいくつかの物質も加えてリスク評価関連の情報を収集し、解析した。すなわち、大豆中に含まれるホルモン活性物質、有機すず、ジエチルスチルベストロール(DES)、ビスフェノールA(BisA)、メトキシクロール(MTC)について検討した。(5)本研究に関わる外国人研究者招聘事業により海外招待研究者を招待し共同研究を行った。今年度の研究成果の公表および海外招待研究者による講演を兼ねて、公開のワークショップを開催した。
結果と考察
(1) リスク評価における不確実性分析の理論的な根拠と応用可能性について主要な文献を収集し、内容を検討した。不確実性分析の解析ソフトとして、Crystal Ball、Benchmark dose software、SAS統計ソフトの特徴を検討し、実際の解析に適用した。(2) ダイオキシン類のリスク評価に関し、世界保健機関(WHO)、欧州連合、米国有害物質疾病登録庁(ATSDR)、オランダ国立公衆衛生・環境研究所(RIVM)から評価情報を入手し、
評価根拠と、一部については根拠の不確実性についても検討した。(3) ダイオキシン類の急性毒性において大きな種差を生ずる要因について、体内動態、作用機序、生理的状態の寄与について解析した。(4) 内分泌撹乱化学物質について、米国環境保護庁(US EPA)、ドイツ政府、オランダ政府の報告書を入手し、このうちオランダ政府の報告書(オランダ語)を和訳した。(5) 植物ホルモン物質の文献データをデータベース化した。これら物質について食品中含量の幅、摂取量の概略値と、代謝能力の個体差などの詳細な検討の結果、不確実性の要因とその幅、および今後必要な研究の一部を同定した。すなわち日本人が食品から多量に摂取する大豆中のエストロゲン物質(genistein, daidzein)について、日本人の血
中濃度あるいは尿中排泄量と、これらを指標とした乳がんリスクの疫学データ、これら化合物摂取と女性の生理周期との関係の臨床データなどを検討し、日本人女性の尿中排泄レベルから乳がんが少ないことへのこれら物質の寄与の可能性を定量的に示した。日本人の摂取量をできるかぎり綿密に評価し曝露における不確実性の幅と要因を調べた。daidzeinをエストロゲン活性がより強いequol に代謝する活性が、日本人の間で千倍近く異なる可能性があり、摂取量のほかに代謝能力の個体差が、影響の不確実性に寄与する可能性が推測された。ヨード欠乏と大豆過剰摂取を組み合わせた動物実験から未知の機作による甲状腺刺激作用が見つかり、ヒトでの影響の可能性について検討する必要が示された。(6) 日本人が多量に摂取する魚介類を汚染しており、巻き貝に内分泌撹乱的影響を示す有機すずの摂取量と一日許容摂取量(ADI)との比率(HQ)を検討した結果、東京湾,大阪湾及び瀬戸内海で取れる魚介類を常食する集団の場合、トリブチルすず(TBT)についてはHQが1を超える確率はそれぞれ,33%,64%及び26%であると推定された。魚介類常食者に対するHQの50パーセンタイル値は,大阪湾のTBTの場合を除き、1より低くマーケットバスケット方式で実施されている曝露調査結果に基づくHQ値(TBT:0.28,トリフェニルすず=TPT:0.11)と大きく異ならなかった。しかしその変動範囲は広く、HQの95パーセンタイル値はTBTで3以上、TPTで2以上であり、常食者集団内に高いリスクを被る個人が存在するが示唆された。(7) DES、BisA、MTCについては低用量曝露における毒性発現の不確実性を解析した。その結果、DESの経胎盤投与による次世代マウスへの影響については、100μg/kg投与で次世代に悪影響を及ぼすが、それより下の用量では発現しないことから、DESのような強いエストロゲン作用を有する物質においても閾値の存在が示唆された。BisA の経胎盤投与による次世代マウスへの影響については、次世代への影響が非常に低い投与量においても発現すると報告されたが、再現性されていない。MTCの経胎盤投与による次世代ラットへの影響については、投与群すべての次世代動物に生殖器に毒性が発現しており、最低用量の25㎎/㎏より下のどの用量まで次世代への影響が発現するかについてはデータがなく、この毒性についてのNOAELは明らかにされていない。(8) リスク評価の不確実性分析に関する欧州での第一人者の研究者を招待し、内分泌撹乱化学物質のリスク評価に基づく研究と対策の優先順位付けのスキーム案を作成した。(9) リスク評価とその不確実性分析について世界をリードする研究を行っているオランダ国立公衆衛生環境研究所のTheo Vermeire博士と共同で、内分泌撹乱化学物質のリスク評価の優先順位付けと、不確実性を含んだ複雑なリスク評価の内容を提示する手法について、共同研究を行った。Vermeire博士による講演と、本研究班の成果の一部の発表を兼ね研究者、企業、行政、市民を含む公開のワークショップを催し、内分泌撹乱化学物質のリスク評価と不確実性分析に関する理解の推進を図った。
評価根拠と、一部については根拠の不確実性についても検討した。(3) ダイオキシン類の急性毒性において大きな種差を生ずる要因について、体内動態、作用機序、生理的状態の寄与について解析した。(4) 内分泌撹乱化学物質について、米国環境保護庁(US EPA)、ドイツ政府、オランダ政府の報告書を入手し、このうちオランダ政府の報告書(オランダ語)を和訳した。(5) 植物ホルモン物質の文献データをデータベース化した。これら物質について食品中含量の幅、摂取量の概略値と、代謝能力の個体差などの詳細な検討の結果、不確実性の要因とその幅、および今後必要な研究の一部を同定した。すなわち日本人が食品から多量に摂取する大豆中のエストロゲン物質(genistein, daidzein)について、日本人の血
中濃度あるいは尿中排泄量と、これらを指標とした乳がんリスクの疫学データ、これら化合物摂取と女性の生理周期との関係の臨床データなどを検討し、日本人女性の尿中排泄レベルから乳がんが少ないことへのこれら物質の寄与の可能性を定量的に示した。日本人の摂取量をできるかぎり綿密に評価し曝露における不確実性の幅と要因を調べた。daidzeinをエストロゲン活性がより強いequol に代謝する活性が、日本人の間で千倍近く異なる可能性があり、摂取量のほかに代謝能力の個体差が、影響の不確実性に寄与する可能性が推測された。ヨード欠乏と大豆過剰摂取を組み合わせた動物実験から未知の機作による甲状腺刺激作用が見つかり、ヒトでの影響の可能性について検討する必要が示された。(6) 日本人が多量に摂取する魚介類を汚染しており、巻き貝に内分泌撹乱的影響を示す有機すずの摂取量と一日許容摂取量(ADI)との比率(HQ)を検討した結果、東京湾,大阪湾及び瀬戸内海で取れる魚介類を常食する集団の場合、トリブチルすず(TBT)についてはHQが1を超える確率はそれぞれ,33%,64%及び26%であると推定された。魚介類常食者に対するHQの50パーセンタイル値は,大阪湾のTBTの場合を除き、1より低くマーケットバスケット方式で実施されている曝露調査結果に基づくHQ値(TBT:0.28,トリフェニルすず=TPT:0.11)と大きく異ならなかった。しかしその変動範囲は広く、HQの95パーセンタイル値はTBTで3以上、TPTで2以上であり、常食者集団内に高いリスクを被る個人が存在するが示唆された。(7) DES、BisA、MTCについては低用量曝露における毒性発現の不確実性を解析した。その結果、DESの経胎盤投与による次世代マウスへの影響については、100μg/kg投与で次世代に悪影響を及ぼすが、それより下の用量では発現しないことから、DESのような強いエストロゲン作用を有する物質においても閾値の存在が示唆された。BisA の経胎盤投与による次世代マウスへの影響については、次世代への影響が非常に低い投与量においても発現すると報告されたが、再現性されていない。MTCの経胎盤投与による次世代ラットへの影響については、投与群すべての次世代動物に生殖器に毒性が発現しており、最低用量の25㎎/㎏より下のどの用量まで次世代への影響が発現するかについてはデータがなく、この毒性についてのNOAELは明らかにされていない。(8) リスク評価の不確実性分析に関する欧州での第一人者の研究者を招待し、内分泌撹乱化学物質のリスク評価に基づく研究と対策の優先順位付けのスキーム案を作成した。(9) リスク評価とその不確実性分析について世界をリードする研究を行っているオランダ国立公衆衛生環境研究所のTheo Vermeire博士と共同で、内分泌撹乱化学物質のリスク評価の優先順位付けと、不確実性を含んだ複雑なリスク評価の内容を提示する手法について、共同研究を行った。Vermeire博士による講演と、本研究班の成果の一部の発表を兼ね研究者、企業、行政、市民を含む公開のワークショップを催し、内分泌撹乱化学物質のリスク評価と不確実性分析に関する理解の推進を図った。
結論
(1) 化学物質のリスク評価に内在する不確実性に着目した研究は、わが国ではこれまで例を見ない。内分泌撹乱化学物質についてはデータギャップ、作用機構について未知の部分が大きいなど、リスク評価において不確実性の寄与が大きく、毒性評価と曝露評価、総合の各段階において、どのような要因が、どういう不確実性の幅を持って寄与しているかについて、データに基づき解析し、かつその成果をリスク評価の優先順位付けに活用し、また公衆のリスク理解を支援できる提示手法の開発までを行った。(2) 今年度は、基本的な資料を集め分析するとともに、解析ソフトの特徴を調べた。具体的な検討対象の選択にあたっても、どのような物質につき内分泌撹乱作用を優先的に検討すべきか考察し、いくつかの内分泌撹乱化学物質について不確実性分析を行った。(3) 日本人における内分泌撹乱化学物質の可能性について不確実性を含めた定量的な解析を行った結果、植物エストロゲン物質、有機すずほかについて、そのリスクあるいはベネフィットの可能性を不確実性の幅をふくめて定量的に示唆することができた。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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