化学物質の光毒性に係る評価方法に関する研究(H10-生活-019)

文献情報

文献番号
199800576A
報告書区分
総括
研究課題名
化学物質の光毒性に係る評価方法に関する研究(H10-生活-019)
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
小野 宏(財団法人 食品薬品安全センター 秦野研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 田中憲穂(食品薬品安全センター秦野研究所)
  • 渋谷 徹(食品薬品安全センター秦野研究所)
  • 大原直樹(食品薬品安全センター秦野研究所)
  • 原 巧(食品薬品安全センター秦野研究所)
  • 長野哲雄(東京大学大学院薬学系研究科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、光(紫外線)照射による化学物質の毒性の増強、とくに変異原性の増強の事実を確認し、その発現機序を解明するとともに、これを効率的に検出する試験法を開発することを目的とする。現在までに、培養細胞を用いた試験系を用いて、多環芳香族炭化水素類などの一般化学物質が多数含まれ、低濃度においても毒性作用を発揮することがを明らかにしてきた。そのため、このような現象がどの範囲の化学物質に及ぶのか、またどのような条件で実際の生体に影響を発現するかを、その発生機序の解明を含めて検討する必要がある。光(紫外線)による毒性増強の機序として、まず光化学反応によるフリーラジカルの発生、関与が想定されるので、化学物質と光(紫外線)照射の同時処理の条件での活性酸素の発生に関する検討も実施する。実際の生体に対してこの現象がどの程度の健康影響を有するかを評価するために、適当な動物モデル(バイオマーカーやトランスジェニック動物などの利用)を用いて光(紫外線)照射の化学物質の毒性への影響についても調査する。
本研究の成果によって、環境中の化学物質をはじめとして、新規化学物質についてもこのような毒性を検出することが可能となる試験法が開発され、有害性のある化学物質の使用に当たっての事前の対策など安全性の確保にも資することができる。
研究方法
試験系の開発に関しては、実験材料として、各種の菌株を用いた微生物、各種の培養細胞、ショウジョウバエ、トランスジェニック動物、モルモットなどを用いた。方法としては、ガイドラインに示されている標準的な方法を基本的に採用し、それを光暴露できるように考案して実験を行った。
結果と考察
近年、ヒトや生物に対する紫外線の影響が、大きな問題になりつつある。また、光暴露条件下で化学物質の毒性や遺伝毒性が増強される現象も注目されるようになり、発がんとの関わりも懸念されるようになってきた。我々のこれまでの研究によって、多環芳香族炭化水素など、工業原料などとして大量に用いられている一般化学物質や、環境中に普遍的に存在する汚染物質にも強力な光毒性、光遺伝毒性を示す物質があることが明らかにされてきた。そこで、光暴露条件下での毒性・遺伝毒性を調べる試験系を開発し、また、そのメカニズムの解明することによって、既存、新規化学物質の使用に当たっての事前の対策や、環境汚染物質の評価など、安全性の確保に資する系を確立することを目的とし、一連の研究を行った。
試験法の開発については、これまでにin vivoやin vitroで広く毒性試験に用いられてきた手法を、光暴露条件での試験に応用することを1つの目標とした。これによって、これまでに通常の条件での毒性試験で得られている試験結果や、評価法が生かされるという利点がある。この目標に沿って、微生物を用いた遺伝毒性試験、培養細胞を用いた毒性および遺伝毒性試験、哺乳類およびショウジョウバエを用いた遺伝毒性試験、実験動物を用いた皮膚刺激性試験の応用を試みた。また、もう一つの目標として、光毒性や光遺伝毒性物質の作用特性を鑑み、高感度かつ簡便な試験法の開発にも取り組み、一次スクリーニング系として有用なプラスミドDNA切断性試験を開発する一方、生体内での光遺伝毒性を精度よく簡便に検出する手法の一つとして、in vivoで皮膚細胞に生じた変異を特異的に検出できるトランスジェニック動物を用いた試験法の開発を行った。本年度は、概ね基礎的な実験条件の設定を行い、いずれの試験法でも満足すべき結果が得られた。次年度からは、これまでに確立した手法を用いて、実際に環境中及び特定物質の光毒性、光遺伝毒性物質の試験を行うと同時に、併せて試験法のさらなる評価を行う。メカニズムの解明という観点から、一重項酸素の新たな検出法の開発を行った。光毒性、光遺伝毒性の作用機序として、光触媒効果による活性酸素種の発生が、重要な役割を果たしていることが、我々のこれまでの実験によっても明らかにされている。活性酸素種のうち、スーパーオキシド、ヒドロキシラジカルなどについては、既に測定法が確立されているが、一重項酸素については、特に短寿命であることや、特異的なプローブが存在しないといった理由で、厳密な測定が困難であった。そこで、新たなプローブの合成を行い、有用であることが確認された。この新規プローブを用いることによって、これまで光毒性物質の作用機序の中でミッシングリンクとなっていた、一重項酸素の役割の解明が期待される。また、近年になって、光毒性、光遺伝毒性試験法についての国際的な評価研究や、試験法についてのハーモナイゼーションのための会議が始まった。EU/COLIPAによって実施された細胞を用いる光毒性試験の評価試験にオブザーバーとして参加して、この方法が極めて有用であることを確認した。本法については、現在、OECDガイドラインとして草案の作成が行われている。光遺伝毒性に関しては、遺伝毒性の国際ハーモナイゼーションの会議において試験法実施の問題点とその試験の進め方に関する大枠についての討議が行われているが、我々のデータを提供することにより、討議に参加した。試験法に関しては、照射装置や線量測定の機器によって線量測定値が異なり、絶対照射条件の設定が難しいという基本的な問題が存在する。また、光照射条件下での各遺伝毒性試験の実施については、実験器財や培地のUV吸収などが影響し、実験系によっては困難な問題もあることが分かってきた。今後、IWGTPの専門家会議を積み重ね、より良い試験法の開発と実施に向けて努力する予定である。
結論
光(太陽光)による化学物質の毒性増強に関しては、地球環境の悪化とも関連し、光毒性、光遺伝毒性の面から国際的にも大きく取り上げられている。本研究では、これらの新しい毒性試験の動向を調査研究すると同時に、有害物質検出のための簡易試験法の開発、メカニズムの研究、ヒトに対する危険性予測のためのin vivo試験法の開発など、当初の目的に添って成果をあげることができた。加えて、研究成果の一部は、光遺伝毒性に関する国際会議の討議資料として用いられ、ガイダンスのとりまとめに反映することができた。

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