文献情報
文献番号
201620010A
報告書区分
総括
研究課題名
医療事故調査制度においてアカウンタビリティと医療安全を促進するための比較法研究
課題番号
H28-医療-一般-001
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
岩田 太(上智大学 法学部国際関係法学科)
研究分担者(所属機関)
- 樋口 範雄(東京大学大学院 法学政治学研究科教授)
- 佐藤 雄一郎(東京学芸大学 教育学部 准教授)
- 木戸 浩一郎(帝京大学医学部 産婦人科学講座 准教授)
- 織田 有基子(日本大学大学院 法務研究科 教授)
- 磯部 哲(慶應義塾大学 大学院法務研究科教授)
- 児玉 安司(東京大学 医学部附属病院 登録研究員)
- 我妻 学(首都大学東京 社会科学研究科 教授)
- 小山田 朋子(法政大学 法学部 教授)
- 佐藤 智晶(青山学院大学 法学部 准教授)
- 畑中 綾子(東京大学高齢社会総合研究機構 客員研究員)
- 井上 悠輔(東京大学 医科学研究所 准教授)
- 土屋 裕子(東京大学大学院 公共政策学連携研究部 特任助教)
- 佐藤 恵子(京都大学 医学部附属病院 臨床研究総合センター EBM推進部 特定研究員)
- 安樂 真樹(東京大学 医学部附属病院 特任准教授)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
4,940,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究の目的は,医療ミスに対する刑事制裁発動の必要性を縮減することこそが,医療安全向上のために必須と捉え,その手段として(1)平成27年10月より始まった医療事故調査制度の充実方策と,(2)非刑事・非懲罰的な制裁(懲戒など),医師法21条の異状死届出を含め刑事介入の制度枠組・運用実態と相互関係などについて諸外国の現況を探ることである.本研究の特色は,公正な事故調査の充実と非懲罰的制裁の活用とを車の両輪として捉え,諸外国の制度枠組・運用実態,さらに社会背景まで探る点である.
研究方法
本研究では,諸外国における①異状死届出を含め刑事介入の在り方,②非懲罰的な制裁制度,③刑事介入回避に寄与しうる非懲罰的な制裁である被害に対する補償・賠償制度とそれを支える社会的背景,④事故調査における患者・家族の役割と配慮など,事故調査制度の充実の在り方等に関し,初年度の網羅的な文献研究と,2年度目の実地調査を織り交ぜ検討を行う.期待できる成果は,上記4点(①~④)についての基礎的なデータを比較可能な形で提供することである.そして今後の医療事故調査制度の見直し論議に資することを目指す.
結果と考察
【結果】 初(平成28)年度の検討は概ね計画通り順調に進んでいる.具体的には,上記課題①~④関して諸外国の現況を探ることにとどまらず,日本で開始された医療事故調査制度の運用面における課題などについても検討してきた.年度後半には,担当部局の医療安全推進室・医事課と綿密に連絡を取ることによって医療事故に対する刑事司法の介入のあり方(異状死届出の範囲など)について外部の専門家などを招き集中的な検討を行った.今後の見直し議論において基礎的な資料や課題などについてとりまとめる予定である.初年度に行ったのは,法制化後の見直しの課題のうち上記①から④の4点について,諸外国での制度的枠組・運用について文献研究を中心に可能な限り網羅的に検討するとともに,日本の制度の検討課題についても確認した.例えば,我が国の状況として,医療事故調査制度の運用開始後1年を経たが,報告数は当初想定されたものよりは相当低いレベルにとどまった.また事故調査の現場では調査に関わる人的物的コストの問題や,外部委員との日程調整など大きな課題であることも確認できた.
【考察】 医療者や実際事故調査に関わっている専門家からの意見聴取からは,医療事故調査制度の報告数の状況の背景には,相当程度法的責任についての懸念があることが想定できた.引き続き,刑事司法の介入を回避しうるような被害者側の納得と透明性の確保などの調査制度の充実とともに,刑事司法の介入の在り方自体についても検討していく.
詳細は分担報告に譲るが,まず医療事故に関する研究として,(Ⅰ)近年の合衆国の状況について,いわゆるオバマケア法による医療安全のインパクトについて検討,(Ⅱ)ニュージーランドにおける医療安全の最新状況に関し同国医療の質と安全委員会の「患者安全報告制度」についての検討,(Ⅲ)医療安全に関し無過失補償制度を近年導入したNHSウェールズの現状について専門家へのインタビューを通じた紹介,(Ⅳ)医療関連の学会において行ったワークショップ報告である「先端医療の現場から考える安全管理~医療の未来を描く~」の成果,である.さらに,広く医療と法の観点からの検討として,(Ⅴ)近年最高裁判決がでた認知症患者による列車事故に対する家族への損害賠償請求に関する問題点に関する論考,(Ⅵ)香港における成年後見制度等の利用と医療同意についての論考,(Ⅶ)終末期の医療についての一般向けの小冊子作成(「逝くときこそ自分らしく」)の努力についての紹介,(Ⅷ)合衆国における新生児スクリーニングの制度導入の歴史から現代の拡大新生児スクリーニングの問題点を論じる報告がある.
【考察】 医療者や実際事故調査に関わっている専門家からの意見聴取からは,医療事故調査制度の報告数の状況の背景には,相当程度法的責任についての懸念があることが想定できた.引き続き,刑事司法の介入を回避しうるような被害者側の納得と透明性の確保などの調査制度の充実とともに,刑事司法の介入の在り方自体についても検討していく.
詳細は分担報告に譲るが,まず医療事故に関する研究として,(Ⅰ)近年の合衆国の状況について,いわゆるオバマケア法による医療安全のインパクトについて検討,(Ⅱ)ニュージーランドにおける医療安全の最新状況に関し同国医療の質と安全委員会の「患者安全報告制度」についての検討,(Ⅲ)医療安全に関し無過失補償制度を近年導入したNHSウェールズの現状について専門家へのインタビューを通じた紹介,(Ⅳ)医療関連の学会において行ったワークショップ報告である「先端医療の現場から考える安全管理~医療の未来を描く~」の成果,である.さらに,広く医療と法の観点からの検討として,(Ⅴ)近年最高裁判決がでた認知症患者による列車事故に対する家族への損害賠償請求に関する問題点に関する論考,(Ⅵ)香港における成年後見制度等の利用と医療同意についての論考,(Ⅶ)終末期の医療についての一般向けの小冊子作成(「逝くときこそ自分らしく」)の努力についての紹介,(Ⅷ)合衆国における新生児スクリーニングの制度導入の歴史から現代の拡大新生児スクリーニングの問題点を論じる報告がある.
結論
以上のように医療事故調査制度自体の充実とともに,法制度側からの対応として刑事的な介入の在り方についての再検討も必須であることが一定程度明らかになった.次年度においては,初年度における疑問点,検討課題について研究を進め,近い将来に予定される異状死の届け出に関する検討の際に必要とされる基礎資料の充実を目指す.
また諸外国における刑事介入の運用実態,刑事的介入の内実およびその他の非刑事的な規制との相関関係や,医療過誤補償制度を成立させる社会的背景などについても検討していきたい.これらの検討を経て,国民・医療者からみて安全・安心できる医療を維持するために,刑事的な介入の必要性をいかに低減するかに主眼に置き,いわば法の適正な役割に対する法学界内部からの自律的転換を目指す. 成果は各年度の報告書にまとめると同時に,積極的に大学紀要,商業雑誌等への掲載を目指す.また可能であれば国際ワークショップ等も行いたい.
また諸外国における刑事介入の運用実態,刑事的介入の内実およびその他の非刑事的な規制との相関関係や,医療過誤補償制度を成立させる社会的背景などについても検討していきたい.これらの検討を経て,国民・医療者からみて安全・安心できる医療を維持するために,刑事的な介入の必要性をいかに低減するかに主眼に置き,いわば法の適正な役割に対する法学界内部からの自律的転換を目指す. 成果は各年度の報告書にまとめると同時に,積極的に大学紀要,商業雑誌等への掲載を目指す.また可能であれば国際ワークショップ等も行いたい.
公開日・更新日
公開日
2017-06-05
更新日
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