在宅医療患者等における多剤耐性菌の分離率及び分子疫学解析

文献情報

文献番号
201620009A
報告書区分
総括
研究課題名
在宅医療患者等における多剤耐性菌の分離率及び分子疫学解析
課題番号
H27-医療-一般-012
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
荒川 宜親(名古屋大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 飯沼由嗣(金沢医科大学)
  • 川村久美子(名古屋大学 大学院医学系研究科)
  • 村上啓雄(岐阜大学医学部)
  • 藤本修平(東海大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
3,234,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
在宅医療を受けている患者や療養型、介護型施設等の入所者(以下、在宅医療患者等)における、薬剤耐性菌の保菌実態については不明な点が多いため、今回、国内の在宅医療患者等における多剤耐性菌の実態を明らかとすることを目的として研究を実施した。
研究方法
 平成27年度に名古屋大学大学院医学系研究科の「疫学研究専門調査委員会」に研究計画書等を提出し、審査と許可を得て研究を開始した。
 調査対象者は、訪問診療等により在宅医療を受けている者および療養型施設、介護施設の入所者とした。
対象とする多剤耐性菌としては、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、ペニシリン耐性肺炎球菌(PR(I)SP)、多剤耐性緑膿菌(MDRP)、多剤耐性アシネトバクター(MDRA)、基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生菌及びカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)とした。
 調査対象の検体は、咽頭拭い液、糞便、尿、褥瘡拭い液とした。
 各々の選択培地で得られたコロニーについては、通常の細菌同定試験法に加え、質量分析装置などを活用して菌種を同定するとともに、PCRおよびPCR産物の塩基配列のシークエンス解析により耐性遺伝子の検出と確認を実施した。
結果と考察
愛知県内の療養施設の協力により、2017年3月末までに尿 63検体、糞便52検体、咽頭拭い液82検体の合計197検体を入手し、咽頭拭い液および尿検体の培養の結果、MRSAが11検体で陽性と判定された。また、咽頭拭い液、便、および尿検体の培養の結果、第3世代セファロスポリン耐性腸内細菌科細菌が25株分離された。しかし、VRE、MDRP、MDRAおよびCREは全ての検体で陰性であった。
ESBL産生大腸菌の解析の結果、CTX-M group-1産生株が8株、group-9産生株が42株確認された。ESBL産生肺炎桿菌の解析ではCTX-M group-1が3株、group-9が2株確認され、ESBL産生Proteus属では、group-2産生株が1株確認された。 
 ESBL産生大腸菌50株の解析の結果、O25-B2-ST131が31株確認され、CTX-M-3が3株、CTX-M-15が4株、CTX-M-55が1株、CTX-M-24が3株、CTX-M-27が20株であった。
 石川県内の介護療養型老人保健施設と特別養護老人ホームにおいて調査研究を行った結果、前者の施設では、74名の入所者におけるMRSAとESBL産生菌の分離率は、それぞれ、12.2%と21.6%であった。後者の施設では、34名の入所者におけるMRSAの分離率は2.9%、ESBL産生菌の分離率は11.8%であった。しかし、両施設とも、VRE、MDRP、MDRAは分離されなかった。分離されたESBL産生菌21株はすべて大腸菌であり、CTX-M遺伝子別では、CTX-M-1 Group:10株、CTX-M-2 Group:1株、CTX-M-9 Group:10株となった。またST131と推定された株が17株(81%)と大多数を占めた。
 岐阜県内の在宅医療患者診療を行う2施設で21名と11名の合計32名から検体採取を行った結果、それぞれの施設においてMRSAは4.7%、9.0%、ESBL産生菌(糞便)は、52.3%、36.3%であった。しかし、両施設とも、PRSP、VRE、MDRP、MDRA、CREは検出されなかった。一方、特別養護老人ホーム1施設で入所者65名からの分離株は解析中である。
 群馬県内の3施設の在宅患者等からはPR(I)SP、VRE、MDRP、MDRAは分離されなかったものの、総合的に見た場合、MRSAの分離率は4.8-9.5 %、ESBLの分離率が29-57.1 %であることが確認された。
結論
在宅医療患者や療養施設等の入所者からは、全体を通じて、PR(I)SP、VRE、MDRP、MDRAは分離されなかったものの、MRSAやESBL産生株が分離された施設では、MRSAは2.9% - 9.5%、ESBL産生株は11.8% - 57.1%の割合で分離された。

公開日・更新日

公開日
2017-12-22
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201620009Z