文献情報
文献番号
199800575A
報告書区分
総括
研究課題名
内分泌かく乱化学物質等、生活環境中化学物質による人の健康影響についての試験法に関する調査研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
今井 清((財)食品薬品安全センター秦野研究所)
研究分担者(所属機関)
- 井上 達(国立医薬品食品衛生研究所)
- 永井 賢司(三菱化学安全科学研究所)
- 武吉 正博((財)化学品検査協会・化学品安全センター日田研究所)
- 塚田 俊彦(国立がんセンター研究所)
- 大野 泰雄(国立医薬品食品衛生研究所)
- 小島 幸一((財)食品薬品安全センター秦野研究所)
- 鈴木恵真子((財)食品薬品安全センター秦野研究所)
- 長尾 哲二((財)食品薬品安全センター秦野研究所)
- 渡辺 敏明(山形大医学部)
- 川島 邦夫(国立医薬品衛生研究所・大阪支所)
- 白井 智之(名古屋市立大医学部)
- 広瀬 雅雄(国立医薬品食品衛生研究所)
- 長谷川 隆一(国立医薬品食品衛生研究所)
- 関沢 純(国立医薬品食品衛生研究所)
- 神沼 二眞(国立医薬品食品衛生研究所)
- 菅野 純(国立医薬品食品衛生研究所)
- 長村 義之(東海大医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
44,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究は、内分泌かく乱化学物質の諸課題の内、試験法の開発を中心とした研究を推進し、ごく近い将来、国際協調下、国内諸機関の協力のもとでこの課題に則した、各種実験が行われる際に、速やかに適切な体制をとってこれに応じることができるような、国内の技術的な基盤を整える立場から、国内のこの領域での専門的試験研究者が分担して、経済開発協力機構 (OECD) や、米国環境防護庁関係機関 (EPA・ED-STAC) から提案されている諸試験法の試行的実施と必要に応じたそれらの改良、ならびに新規試験法の開発等を総合的に推進することを目的とした。
研究方法
1) 試験管内試験法に関する研究:
ヒトα、βおよびラットの受容体を用いて、3Hで標識した17β-エストラジオール、DES 、ゲニスタイン、タモキシフェン、プロゲステロン、テストステロン、ディヒドロテストステロン、ビスフェノー ルAに対する結合性を比較検討した。また、血管作動性腸管遺伝子のプロモーターにより転写されるβガラクトシダーゼ遺伝子をレポーター遺伝子に結合して導入したラットの副腎髄質由来の細胞PC12-VG 細胞を用いて cAMPの上昇を介した遺伝子発現に対する Glucagon, TPA ヒト胎盤性性腺刺激ホルモンの影響を調べたほか、核受容体遺伝子に属するNOR-1 遺伝子を介した遺伝子発現に対するインスリン、TPA などを PC12細胞およびCHO 細胞により同様に検討した。
2)代謝薬理作用の試験法に関する研究:
米国人52人、日本人 143人についてヒトフェノール硫酸転移酵素分子種 SULT1A1hum の変異型を、PCR-REFP法により調べるとともに、35S-3'-Phosphoadenosine 5'-phosphosulfate (35S-PAPS) をバリウムを用いて沈澱させ、基質の硫酸抱合体と分離する方法を開発して、これらの変異型のビスフェノールAの硫酸抱合能の差異を検討した。また、カテコールエストロジェンの尿中の代謝物を、同時定量するための酵素免疫測定法およびラット血中の有機溶媒抽出によるエストロジェンの微量定量法を検討した。さらに、ヒト骨肉腫由来の MG-63、SaOS-2、HOS 細胞および正常骨芽細胞を用いて、アルカリホスファターゼ活性を指標にエストロジェンおよびフタル酸誘導体の骨代謝に及ぼす影響を検討した。
3)動物を用いた試験法に関する研究:
雄ラットに DES を1、10、100 mg/kg/dayの用量で14日間反復経口投与して、血清α2U-globulin (AUG) 濃度を酵素標識免疫抗体法により測定し、精巣の病理組織学的検査を行って、28日間投与による毒性試験の検査項目としての有用性を検討した。また、化学物質に暴露された胎児、新生児への影響を調べるため、ラットの新生児に17β-エストラジオール、エストラジオールベンゾエイト、ビスフェノールA,ブチルベンチルフタレート、ノニルフェノールあるいはタモキシフェンを5日間皮下投与して、視床下部への主に性的二型核(SDN-POA)と全腹側脳室周囲核(AVPVN-POA )の発達への影響をニューロン数の増減を指標に検討し、マウス胎児の全胚培養法により、グルホシネート(除草剤)を5、10および20μg/mlの濃度で作用させて、中枢神経系の形態変化およびアポトーシスの発現の様子を観察した。さらに、フタル酸エステルの一つである dibuthyl phthalate(DBP) を 2% 含有する飼料を妊娠動物に与え、胚の死亡率、奇形の有無、母体の卵巣重量、子宮重量および血中のプロジェステロン濃度を測定した。発がん性試験研究として、6週齢の F344 ラットにdiethylnitrosamineを100 mg/kg 皮下投与し、肝の2/3 を部分切除した後、14種の内分泌かく乱化学物質を投与して肝の胎盤型 Glutathione S transferase 陽性細胞巣を画像処理装置を用いて定量的に解析した。併行して methyl-N-nitrosourea 2000 mg/kgを1回皮下投与した卵巣摘出 F-344ラットに、1000 ppm のサルファジメトキシン (SDM)を混餌投与し、メトキシクロール、アトラジン、ビスフェノールA、17β-エストラジオール、SDMを投与して甲状腺の腫瘍性病変について形態学的に検討した。
4)健康影響への情報収集:
内分泌かく乱化学物質の可能性が疑われている約150物質をリストアップしてデータベース化し、3D-QSAR によるダイオキシン類の3次元構造の予測とエストロジェン受容体との結合様式の推測、いわゆる植物由来ホルモンおよび有機すずについてのデータ収集と、人に対するリスク・ベネフィットの検討を行い、エンサイクロペディアの集大成を目的として、内分泌かく乱作用関連のキーワードの選択作業を開始した。
ヒトα、βおよびラットの受容体を用いて、3Hで標識した17β-エストラジオール、DES 、ゲニスタイン、タモキシフェン、プロゲステロン、テストステロン、ディヒドロテストステロン、ビスフェノー ルAに対する結合性を比較検討した。また、血管作動性腸管遺伝子のプロモーターにより転写されるβガラクトシダーゼ遺伝子をレポーター遺伝子に結合して導入したラットの副腎髄質由来の細胞PC12-VG 細胞を用いて cAMPの上昇を介した遺伝子発現に対する Glucagon, TPA ヒト胎盤性性腺刺激ホルモンの影響を調べたほか、核受容体遺伝子に属するNOR-1 遺伝子を介した遺伝子発現に対するインスリン、TPA などを PC12細胞およびCHO 細胞により同様に検討した。
2)代謝薬理作用の試験法に関する研究:
米国人52人、日本人 143人についてヒトフェノール硫酸転移酵素分子種 SULT1A1hum の変異型を、PCR-REFP法により調べるとともに、35S-3'-Phosphoadenosine 5'-phosphosulfate (35S-PAPS) をバリウムを用いて沈澱させ、基質の硫酸抱合体と分離する方法を開発して、これらの変異型のビスフェノールAの硫酸抱合能の差異を検討した。また、カテコールエストロジェンの尿中の代謝物を、同時定量するための酵素免疫測定法およびラット血中の有機溶媒抽出によるエストロジェンの微量定量法を検討した。さらに、ヒト骨肉腫由来の MG-63、SaOS-2、HOS 細胞および正常骨芽細胞を用いて、アルカリホスファターゼ活性を指標にエストロジェンおよびフタル酸誘導体の骨代謝に及ぼす影響を検討した。
3)動物を用いた試験法に関する研究:
雄ラットに DES を1、10、100 mg/kg/dayの用量で14日間反復経口投与して、血清α2U-globulin (AUG) 濃度を酵素標識免疫抗体法により測定し、精巣の病理組織学的検査を行って、28日間投与による毒性試験の検査項目としての有用性を検討した。また、化学物質に暴露された胎児、新生児への影響を調べるため、ラットの新生児に17β-エストラジオール、エストラジオールベンゾエイト、ビスフェノールA,ブチルベンチルフタレート、ノニルフェノールあるいはタモキシフェンを5日間皮下投与して、視床下部への主に性的二型核(SDN-POA)と全腹側脳室周囲核(AVPVN-POA )の発達への影響をニューロン数の増減を指標に検討し、マウス胎児の全胚培養法により、グルホシネート(除草剤)を5、10および20μg/mlの濃度で作用させて、中枢神経系の形態変化およびアポトーシスの発現の様子を観察した。さらに、フタル酸エステルの一つである dibuthyl phthalate(DBP) を 2% 含有する飼料を妊娠動物に与え、胚の死亡率、奇形の有無、母体の卵巣重量、子宮重量および血中のプロジェステロン濃度を測定した。発がん性試験研究として、6週齢の F344 ラットにdiethylnitrosamineを100 mg/kg 皮下投与し、肝の2/3 を部分切除した後、14種の内分泌かく乱化学物質を投与して肝の胎盤型 Glutathione S transferase 陽性細胞巣を画像処理装置を用いて定量的に解析した。併行して methyl-N-nitrosourea 2000 mg/kgを1回皮下投与した卵巣摘出 F-344ラットに、1000 ppm のサルファジメトキシン (SDM)を混餌投与し、メトキシクロール、アトラジン、ビスフェノールA、17β-エストラジオール、SDMを投与して甲状腺の腫瘍性病変について形態学的に検討した。
4)健康影響への情報収集:
内分泌かく乱化学物質の可能性が疑われている約150物質をリストアップしてデータベース化し、3D-QSAR によるダイオキシン類の3次元構造の予測とエストロジェン受容体との結合様式の推測、いわゆる植物由来ホルモンおよび有機すずについてのデータ収集と、人に対するリスク・ベネフィットの検討を行い、エンサイクロペディアの集大成を目的として、内分泌かく乱作用関連のキーワードの選択作業を開始した。
結果と考察
研究結果
1) 試験管内試験法に関する研究:
研究に用いた化学物質のヒトαエストロジェン受容体に対する親和性は、ラットのエストロジェン受容体に対する親和性とほぼ同程度であったが、ヒトβエストロジェン受容体はゲニスチンに対し約10倍強い親和性を示すこと、ステロイドホルモン受容体遺伝子に属するNOR-1 遺伝子の転写が C および Aキナ-ゼの活性化により促進され、膜受容体を介した cAMP の上昇による転写活性の変化を、ラット副腎髄質由来の PC12 細胞にβガラクトシダーゼ遺伝子をレポーター遺伝子と結合して導入することにより検出できることを明らかにした。
2) 代謝薬理作用の試験法に関する研究:
ヒトフェノール硫酸転移酵素分子種 SULT1A1が、ビスフェノールAの硫酸抱合反応を触媒し、本酵素の変異型 213His、223Val では触媒活性が非常に低いことが明らかになり、尿試料を用いたカテコールエストロジェンおよびその代謝物の同時分析法が開発された。一方、フタル酸エステル誘導体は、ヒト骨肉腫由来の MG-63、SaOS-2、HOS 細胞および正常骨芽細胞の細胞増殖および培養液中のアルカリホスファターゼ活性に影響を与えなかった.
3) 動物を用いた試験法に関する研究:
Dibuthyl phthalate (DBP)を 2% 含有する飼料を妊娠動物に与えると多くの胚が死亡し、母体の卵巣重量、子宮重量、血中プロジェステロン濃度が低下していること、雄ラット新生児にエストラジオールべンゾエイト、ビスフェノールAを投与すると性的二型核あるいは第3脳室周囲層にある前腹側脳室周囲核の容積が減少し(雄の雌化)、成熟すると交尾行動の異常など生殖機能障害が起こること、同様の所見は、17β-エストラジオール、ノニルフェノールを雄ラット新生児に投与しても観察されること、マウス培養胚に環境汚染物質の1つであるグルホシネート(除草剤)を作用させると中枢神経にアポトーシスが起こり、前脳、鰓弓の低形成、神経管の開存が起きることを見出した。さらに雄ラットに合成エストロジェン DES を投与すると血清中の AUG が用量依存的に減少することが明らかにした。ラット中期肝発癌性試験法により、14の内分泌かく乱化学物質について肝発癌への影響を調べた結果、10物質 (アラコール、アルドリン、クロルダン、DDT 、ディエルドリン、パーメトリン、トリフルラリン、ビンクロゾリン、DES 、PCBsなど) が陽性であったが、サルファジメトキシン以外に甲状腺化学発癌促進作用は認められなかった。
1) 試験管内試験法に関する研究:
研究に用いた化学物質のヒトαエストロジェン受容体に対する親和性は、ラットのエストロジェン受容体に対する親和性とほぼ同程度であったが、ヒトβエストロジェン受容体はゲニスチンに対し約10倍強い親和性を示すこと、ステロイドホルモン受容体遺伝子に属するNOR-1 遺伝子の転写が C および Aキナ-ゼの活性化により促進され、膜受容体を介した cAMP の上昇による転写活性の変化を、ラット副腎髄質由来の PC12 細胞にβガラクトシダーゼ遺伝子をレポーター遺伝子と結合して導入することにより検出できることを明らかにした。
2) 代謝薬理作用の試験法に関する研究:
ヒトフェノール硫酸転移酵素分子種 SULT1A1が、ビスフェノールAの硫酸抱合反応を触媒し、本酵素の変異型 213His、223Val では触媒活性が非常に低いことが明らかになり、尿試料を用いたカテコールエストロジェンおよびその代謝物の同時分析法が開発された。一方、フタル酸エステル誘導体は、ヒト骨肉腫由来の MG-63、SaOS-2、HOS 細胞および正常骨芽細胞の細胞増殖および培養液中のアルカリホスファターゼ活性に影響を与えなかった.
3) 動物を用いた試験法に関する研究:
Dibuthyl phthalate (DBP)を 2% 含有する飼料を妊娠動物に与えると多くの胚が死亡し、母体の卵巣重量、子宮重量、血中プロジェステロン濃度が低下していること、雄ラット新生児にエストラジオールべンゾエイト、ビスフェノールAを投与すると性的二型核あるいは第3脳室周囲層にある前腹側脳室周囲核の容積が減少し(雄の雌化)、成熟すると交尾行動の異常など生殖機能障害が起こること、同様の所見は、17β-エストラジオール、ノニルフェノールを雄ラット新生児に投与しても観察されること、マウス培養胚に環境汚染物質の1つであるグルホシネート(除草剤)を作用させると中枢神経にアポトーシスが起こり、前脳、鰓弓の低形成、神経管の開存が起きることを見出した。さらに雄ラットに合成エストロジェン DES を投与すると血清中の AUG が用量依存的に減少することが明らかにした。ラット中期肝発癌性試験法により、14の内分泌かく乱化学物質について肝発癌への影響を調べた結果、10物質 (アラコール、アルドリン、クロルダン、DDT 、ディエルドリン、パーメトリン、トリフルラリン、ビンクロゾリン、DES 、PCBsなど) が陽性であったが、サルファジメトキシン以外に甲状腺化学発癌促進作用は認められなかった。
結論
本年度に実施した本研究により、OECD などで提案されている内分泌かく乱化学物質検索のための試験法に加えて、生体で起こる現象をより正確に反映した試験管内での簡便なスクリーニング法 (High-throughput 法) 、あるいは神経毒性、免疫毒性、発癌性を検討する新たな試験法の開発が必要であることが確認され、そのための基礎的な成績をえることが出来た。
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公開日・更新日
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