内分泌かく乱物質等の生活環境中の化学物質による健康影響―日本人正常男性の生殖機能に関する総合的研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199800574A
報告書区分
総括
研究課題名
内分泌かく乱物質等の生活環境中の化学物質による健康影響―日本人正常男性の生殖機能に関する総合的研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
岩本 晃明(聖マリアンナ医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 奥山明彦(大阪大学医学部教授)
  • 伊津野孝(東邦大学医学部講師)
  • 兼子智(東京歯科大学市川総合病院講師)
  • 石島純夫(東京工業大学生命理工学部助手)
  • 末岡浩(慶應義塾大学医学部講師)
  • 小林真一(聖マリアンナ医科大学教授)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は妊孕能を有する男性を対象とした生殖機能調査に基づき、健康な日本人男性の生殖機能について詳細に解析するとともに、内分泌かく乱物質との関連において日本人男性の生殖機能の健康状態を明らかにするための標準的な調査法、検査法ならびに解析方法を確立することを目的とする。
研究方法
聖マリアンナ医科大学本院と関連病院ならびに協力病院の産婦人科において妊娠が判明した女性のパートナー(配偶者)の男性に協力を求め、精液検査、男性生殖器の診察、生活習慣についての質問票からなる男性生殖機能調査を、同大学倫理委員会の承認のもとに実施した。同様の調査を平成11年度から全国複数箇所で実施するにあたり、各分担研究者の協力の下に、調査地域の選定、調査方法の検討、各地域のデータ比較を可能にするための精液検査技術の標準化と精度管理を実施した。また疫学調査に適した精液検査技術の自動化を目指して、血球計算盤を用いた目視法との比較において、再現性のある精度の高い方法の開発を行った。さらに二重焦点ビデオ顕微鏡による精子運動性の詳細な解析、精子画像解析自動分析装置の精度評価を行った。慶応義塾大学病院に記録されている非配偶者間人工受精ドナー精液所見の1970年から1998年までのデータについて解析した。妊娠中のマウスにビスフェノールAを0.2および20μg/mlで飲水投与し、その子孫(雄)への影響(ステロイド代謝酵素、ゴナドトロピン受容体等ヘ影響、精子濃度、精子運動率など)を調べた。
結果と考察
聖マリアンナ医科大学を拠点とした川崎・横浜地区での調査が終了し、一般精液所見および理学所見のデータの一部を解析した。地域差を検討する全国調査を実施するため、札幌医大、大阪大学医学部、金沢大学医学部、原三信病院(福岡)の各泌尿器科を拠点とすることが決定し、倫理委員会への申請、調査組織の結成、調査スタッフ(検査技師、疫学調査コーディネーター)の教育研修などを実施し、調査を始める態勢が整った。全国調査の実施にあたり、調査地点の選出方法、対象者の募集方法について疫学的観点から検討し方法を統一化した。さらに、先行の川崎・横浜地区における調査の生活様式に関するアンケートの結果の一部が解析された。精液検査法の標準プロトコールを作成し、プロトコールに従った精度管理プログラムにより全国4拠点施設における技術者の教育訓練が実施された。また、精液検査の画像解析装置による自動化に向けて、精子濃度、運動率、奇形率の各項目について標準品を設定するとともに、検量線を作成し、高精度に測定できる条件設定を行った。疫学調査に適したコンピュータ画像解析による精子形態の解析法を確立した。また二重焦点ビデオ顕微鏡を用いて精子運動の詳細な解析を行った。慶應大学医学部家族計画相談所に登録されたAIDドナーの過去28年間(1970年から1998年)の記録に基づき、本邦の健常者精液の精子濃度と運動率をならびに精子濃度・運動率について一部を解析し、1970~1989年群と、1990~1998年群での比較を行った。妊娠中および授乳中のマウスに0.2および20μg/mlで飲水投与したビスフェノールAにおいて、子孫(雄)のステロイド代謝酵素、ゴナドトロピン受容体等ならびに精子濃度、精子運動率ヘの影響は認められなかった。
妊孕能を有する男性の生殖機能調査において、正常男性の生殖機能の標準値が把握され、精子濃度の分布が極めて広い範囲にわたること、特にWHO基準を大幅に下回る所見においても挙児を得ていることなどが確認された。この事は、一定の条件のもとに実施された大規模な調査の結果を解析することによって初めて明らかになったことである。また、ヒト精子の問題がなぜ混乱を招くのかを、さまざまなケースを通じて実感することが出来たことも大きな成果だった。この経験に基づいて問題点を整理し、基礎研究の結果と合わせて次年度以降の研究計画に生かすことにより、内分泌かく乱化学物質との関連において男性生殖機能を評価できる方法の確立を目指したい。
結論
妊娠女性のパートナーを対象とした正常男性生殖機能の国際調査に参加し、聖マリアンナ医科大学を拠点に川崎・横浜地区での調査を実施する一方、全国4地域における調査の実施に向けた予備的検討、生殖機能調査の疫学的検討とデータ解析、精液検査の標準化と精度管理、コンピュータ画像解析による精子形態および運動性の解析、、非配偶者間人工授精ドナー(AID)の精液所見の解析、実験動物へのビスフェノールA投与による精巣内ホルモン環境、精子形成能、受精能に関する研究の基礎的検討を行った。これにより現時点における正常男性の生殖機能の標準値を知る上で有用な情報が得られるとともに、生殖機能の評価に関する問題点がかなり整理され、疫学調査に適した方法論の確立に役立つ具体的な技術的改良がなされた。

公開日・更新日

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