発生動向を理解するためのHIV感染者数の推定手法の開発

文献情報

文献番号
201618017A
報告書区分
総括
研究課題名
発生動向を理解するためのHIV感染者数の推定手法の開発
課題番号
H26-エイズ-若手-004
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
西浦 博(国立大学法人北海道大学 大学院医学研究科 社会医学講座衛生学分野)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
770,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、日本におけるHIV感染者数の推定手法を開発し、複数の推定手法の妥当性や推定値の不確実性を比較・評価し、推定値をエイズ発生動向の理解に役立てることである。最終産物として、推定研究の論文報告に加え、原著論文と共に推定のオープンソースコードを共有することも視野に入れて研究に取り組んだ。
研究方法
数理的研究手法:研究は年度ごとで段階的に課題を分けて、研究の遂行に当ってきた。
初年度(平成26年度)は、基本となる数理モデルを1つ構築し、その妥当性を検討する段階と位置づけた。推定には多状態モデルを利用し、HIV感染の進行を数理的に記述したコンパートメント型モデルを用いた。これは、より単純な数理的メカニズムで記述される逆計算法というAIDSの潜伏期間を利用した畳み込み式によるHIV感染者数の推定に加え、さらにHIV診断者数のデータも追加で加味することによって、新規感染率と診断率を同時推定することが可能なモデルである。同モデルの使用により、全感染者数および感染経路別の感染者数、更に、それぞれの感染経路別の診断率について同時推定を行った。推定には最尤推定法を使用した。また、短期予測を行ったが、統計学的推定に最尤推定法を利用しているため、分散-共分散行列を用いて正規近似の仮定の下でパラメータ不確実性を加味した予測区間の計算を実施した。本件に関する原著論文は現在査読下にある。
2年度目(平成27年度)と最終年度(平成28年度)は、競合リスクモデルを用いて推定モデルを一般化し、より一般的な状況での推定結果を提供するとともに、新規感染者数や時点総感染者数の潜伏期間や診断率の想定に対する感度分析を容易にするモデル化を実施した。今後、潜伏期間や診断率の時刻依存性、年齢依存性、地理依存性などを検討する予定である。
結果と考察
多状態モデルを利用することにより、病変報告制度の改訂に対応した尤度方程式が導出された。また、連続時間モデルを積分することによって報告期間の改定に対応した。これらのことは競合リスクモデルでも実証可能であることを説明した。
 2016年末時点での日本国内の日本国籍の者におけるHIVの累積感染者数は28288人(95%信頼区間:24230-32345人)と推定された。全感染者における診断率は1986-1989年は時間当たり0.033(95%信頼区間:0.022、0.045)だったが、2014-2016年には0.156(95%信頼区間:0.144、0.168)まで改善した。感染は最近2回の区間(6年間)で新規感染が減少傾向を続けた。
結論
HIV感染症の発生動向を理解するための数理モデルを利用した推定研究のモデル化と推定およびモデルの一般化と感度分析研究を実施した。日本全国で約2万8千人超の日本人感染者が存在すると考えられた。その結果、新規感染者数は既に減少に転じているものと推測された。

公開日・更新日

公開日
2017-05-11
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201618017B
報告書区分
総合
研究課題名
発生動向を理解するためのHIV感染者数の推定手法の開発
課題番号
H26-エイズ-若手-004
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
西浦 博(国立大学法人北海道大学 大学院医学研究科 社会医学講座衛生学分野)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、日本におけるHIV感染者数の推定手法を開発し、複数の推定手法の妥当性や推定値の不確実性を比較・評価し、推定値をエイズ発生動向の理解に役立てることである。最終産物として、推定研究の論文報告に加え、原著論文と共に推定のオープンソースコードを共有することも視野に入れて研究に取り組んだ。
研究方法
数理的研究手法:研究は年度ごとで段階的に課題を分けて、研究の遂行に当ってきた。
初年度(平成26年度)は、基本となる数理モデルを1つ構築し、その妥当性を検討する段階と位置づけた。推定には多状態モデルを利用し、HIV感染の進行を数理的に記述したコンパートメント型モデルを用いた。これは、より単純な数理的メカニズムで記述される逆計算法というAIDSの潜伏期間を利用した畳み込み式によるHIV感染者数の推定に加え、さらにHIV診断者数のデータも追加で加味することによって、新規感染率と診断率を同時推定することが可能なモデルである。同モデルの使用により、全感染者数および感染経路別の感染者数、更に、それぞれの感染経路別の診断率について同時推定を行った。推定には最尤推定法を使用した。また、短期予測を行ったが、統計学的推定に最尤推定法を利用しているため、分散-共分散行列を用いて正規近似の仮定の下でパラメータ不確実性を加味した予測区間の計算を実施した。本件に関する原著論文は現在査読下にある。
2年度目(平成27年度)と最終年度(平成28年度)は、競合リスクモデルを用いて推定モデルを一般化し、より一般的な状況での推定結果を提供するとともに、新規感染者数や時点総感染者数の潜伏期間や診断率の想定に対する感度分析を容易にするモデル化を実施した。今後、潜伏期間や診断率の時刻依存性、年齢依存性、地理依存性などを検討する予定である。
結果と考察
多状態モデルを利用することにより、病変報告制度の改訂に対応した尤度方程式が導出された。また、連続時間モデルを積分することによって報告期間の改定に対応した。これらのことは競合リスクモデルでも実証可能であることを説明した。
 2016年末時点での日本国内の日本国籍の者におけるHIVの累積感染者数は28288人(95%信頼区間:24230-32345人)と推定された。全感染者における診断率は1986-1989年は時間当たり0.033(95%信頼区間:0.022、0.045)だったが、2014-2016年には0.156(95%信頼区間:0.144、0.168)まで改善した。感染は最近2回の区間(6年間)で新規感染が減少傾向を続けた。
結論
HIV感染症の発生動向を理解するための数理モデルを利用した推定研究のモデル化と推定およびモデルの一般化と感度分析研究を実施した。日本全国で約2万8千人超の日本人感染者が存在すると考えられた。その結果、新規感染者数は既に減少に転じているものと推測された。

公開日・更新日

公開日
2017-05-11
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201618017C

成果

専門的・学術的観点からの成果
HIV感染症の発生動向を理解するための数理モデルを利用した推定研究のモデル化と推定およびモデルの一般化と感度分析研究を実施した。日本全国で約2万8千人超の日本人感染者が存在すると考えられた。その結果、新規感染者数は既に減少に転じているものと推測された。これらは数理モデルの使用によってはじめて明らかにできる内容であり、その点において国内の発生動向の理解に十分に貢献できたと考えている。
臨床的観点からの成果
数理モデルを利用することによって全感染者数を推定するだけにとどまらず、診断者の割合を推定するという観点から、全感染者の4割に満たない程度の感染者が診断されていないということを明らかにできた。今後、さらに診断者の予後の改善などを加味して臨床的観点からも診断の価値を明確にする所存である。
ガイドライン等の開発
厚生科学審議会(エイズ・性感染症に関する小委員会)での参照に向けて研究を進めた。今回の「後天性免疫不全症候群および性感染症に関する特定感染症予防指針」で参照するには至らなかったが、今後日本におけるカスケード研究を進めて十分に参照される成果を出していく所存である。
その他行政的観点からの成果
下記に挙げるように、カスケードの一部である診断割合の推定成果を伝達する機会を設けることができた。
その他のインパクト
担当課とも連絡をとりつつ、2017年03月30日 (木)にNHKで「HIV感染に気付いてない人 推計5800人」という題で本研究の成果の一部をご紹介いただいた。カスケードの一部である診断割合の推定成果を世に知らせ、そのことが議論される契機に貢献できた。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
英文原著論文2編が投稿・査読下にある
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2017-10-26
更新日
2018-06-19

収支報告書

文献番号
201618017Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
1,000,000円
(2)補助金確定額
1,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 145,608円
人件費・謝金 514,912円
旅費 109,480円
その他 0円
間接経費 230,000円
合計 1,000,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2017-10-26
更新日
-