文献情報
文献番号
201618016A
報告書区分
総括
研究課題名
非AIDS関連悪性腫瘍増加時代における消化管腫瘍の研究-内視鏡を用いた早期発見プログラム確立-
課題番号
H26-エイズ-若手-003
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
永田 尚義(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 消化器内科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
2,999,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
1) 日本人HIV感染者におけるNADCの現状を示し、HIV感染がNADC(とくに消化器癌)のリスクになるかを明らかにする。
2) HIV感染者におけるNADCのリスク因子を同定する。
3) HIV感染者における死亡のリスク因子を同定する。
2) HIV感染者におけるNADCのリスク因子を同定する。
3) HIV感染者における死亡のリスク因子を同定する。
研究方法
定期followしているHIV感染者の癌の累積発生率をKaplan-Meier methodを用いて算出する。さらに、一般人口と比較したHIV感染者のNADC発生リスクを算出するため、全国の人口動態統計データベースを使用し、年齢、性別を調整し各癌の標準化罹患比(Standardized Incidence Ratio:SIR)を算出する。NADC発生リスクにおける発癌物質(喫煙、アルコール)、肝炎ウイルス、sexual behavior、免疫状態(nadir CD4)、抗ウイルス薬使用、並存疾患(15個の疾患を評価)などとの関与をhazard ratio(HR)で算出する。さらに、NADC発見時の癌のstagingや発症年齢の特徴を明らかにする。さらに、死亡をアウトカムとした長期コホート研究も行い、死亡の累積発生率、死亡リスク因子、標準化死亡比(Standardized Mortality Rate: SMR)も算出する。
結果と考察
1,001例のHIV感染者のうち、観察期間中央値9年の間に、NADCは61例(6.1%)。累積NADC発生率は5年で3.7%、10年で6.4%、15年で8.8%と見積もられた。
一般人口と比較すると、HIV感染者の標準化NADC罹患比は、胃癌(SIR 8.4)、大腸癌(SIR 9.3)、肝臓癌(SIR 24.3)、肺癌(SIR 4.9)において有意に増加していた。NADCのリスク因子は、多変量解析で、年齢上昇 (HR, 1.1)、喫煙者 (HR, 5.4)、血液製剤感染 (HR, 2.7)、薬物使用 (HR, 6.6)、HBV 感染(HR, 2.0) がNADCの独立したリスク因子であった。一方、CD4、HIVウイルス量、並存疾患は有意なリスク因子とはならなかった。発見時の癌のstageは、半数(49.2%)の患者でstage III or IVの進行癌であった。癌診断時の年齢中央値は57歳と若年であり、51%が40歳台であった。癌診断時にすべての患者(100%)で抗HIV薬がすでに投与されていた。
一方、観察期間中央値9.1年のうち、死亡は76例(7.6%)に認めた。累積死亡率は5年で5.1%、10年で7.6%、15年で11.3%と見積もられた。NADCの存在は、その後の死亡リスクを有意に上昇させた(age and sex adjusted HR 3.4 [95%CI, 2.0-6.0], p<0.001)。一般人口と比較すると、HIV感染者の標準化死亡比SMRは10.1(95%CI, 7.8-12.3)と有意に増加していた。多変量解析にて、年齢上昇 (HR, 1.1)、薬物使用者 (HR, 5.3)、CD4値 (HR, 0.99)、HBV 感染(HR, 2.2)、COPD (HR, 4.6)が死亡と独立したリスク因子であった。
HIV感染者は胃癌、大腸癌、肝臓癌などの消化器癌や肺癌の発生率が一般人口と比べて高いことが分かった。欧米やアジアのデータでも大腸癌、肝臓癌、肺癌は、リスクであることが報告されているが、胃癌のデータはこれまでになく、日本の特徴であるといえる。上記4つの癌は、日本の癌罹患率、死亡率の上位データと一致していることから、HIV感染者においても非感染者同様な癌スクリーニング検査を行う必要性があると考えられる。日本では、CT、内視鏡、超音波、腫瘍マーカーなどの癌早期発見のための検査が比較的安価で容易にどこの病院でも受けることができるため、これら検査を組み合わせた定期的なスクリーニングプログラムが必要である。生存曲線解析からfollow-up期間が長くなるにつれて癌発生が増加することから、HIVの罹病期間は重要な因子である。また、多変量解析の結果から、喫煙者、血液製剤感染者、薬物使用者、HBV感染者は重点的な癌スクリーニングのよい適応かもしれない。何歳から癌スクリーニングを行うべきか?については、発症年齢が非感染者と比べて若年である可能性があり、40歳台での発症が半数を占めることから40歳が一つの目安になると考えられた。
一般人口と比較すると、HIV感染者の標準化NADC罹患比は、胃癌(SIR 8.4)、大腸癌(SIR 9.3)、肝臓癌(SIR 24.3)、肺癌(SIR 4.9)において有意に増加していた。NADCのリスク因子は、多変量解析で、年齢上昇 (HR, 1.1)、喫煙者 (HR, 5.4)、血液製剤感染 (HR, 2.7)、薬物使用 (HR, 6.6)、HBV 感染(HR, 2.0) がNADCの独立したリスク因子であった。一方、CD4、HIVウイルス量、並存疾患は有意なリスク因子とはならなかった。発見時の癌のstageは、半数(49.2%)の患者でstage III or IVの進行癌であった。癌診断時の年齢中央値は57歳と若年であり、51%が40歳台であった。癌診断時にすべての患者(100%)で抗HIV薬がすでに投与されていた。
一方、観察期間中央値9.1年のうち、死亡は76例(7.6%)に認めた。累積死亡率は5年で5.1%、10年で7.6%、15年で11.3%と見積もられた。NADCの存在は、その後の死亡リスクを有意に上昇させた(age and sex adjusted HR 3.4 [95%CI, 2.0-6.0], p<0.001)。一般人口と比較すると、HIV感染者の標準化死亡比SMRは10.1(95%CI, 7.8-12.3)と有意に増加していた。多変量解析にて、年齢上昇 (HR, 1.1)、薬物使用者 (HR, 5.3)、CD4値 (HR, 0.99)、HBV 感染(HR, 2.2)、COPD (HR, 4.6)が死亡と独立したリスク因子であった。
HIV感染者は胃癌、大腸癌、肝臓癌などの消化器癌や肺癌の発生率が一般人口と比べて高いことが分かった。欧米やアジアのデータでも大腸癌、肝臓癌、肺癌は、リスクであることが報告されているが、胃癌のデータはこれまでになく、日本の特徴であるといえる。上記4つの癌は、日本の癌罹患率、死亡率の上位データと一致していることから、HIV感染者においても非感染者同様な癌スクリーニング検査を行う必要性があると考えられる。日本では、CT、内視鏡、超音波、腫瘍マーカーなどの癌早期発見のための検査が比較的安価で容易にどこの病院でも受けることができるため、これら検査を組み合わせた定期的なスクリーニングプログラムが必要である。生存曲線解析からfollow-up期間が長くなるにつれて癌発生が増加することから、HIVの罹病期間は重要な因子である。また、多変量解析の結果から、喫煙者、血液製剤感染者、薬物使用者、HBV感染者は重点的な癌スクリーニングのよい適応かもしれない。何歳から癌スクリーニングを行うべきか?については、発症年齢が非感染者と比べて若年である可能性があり、40歳台での発症が半数を占めることから40歳が一つの目安になると考えられた。
結論
HIV感染者は、胃癌、大腸癌、肝臓癌、肺癌のリスクが高い。これらの癌発生および死亡を予防するためには、40歳台から内視鏡検査やCT検査を中心とした癌スクリーニンが必要である。とくに、HIV感染の罹病期間が長い患者、高齢、血液製剤感染者、肝炎ウイルス感染者は重点的な癌スクリーニング検査が重要かもしれない。
公開日・更新日
公開日
2017-06-08
更新日
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