文献情報
文献番号
201618010A
報告書区分
総括
研究課題名
外国人に対するHIV検査と医療サービスへのアクセス向上に関する研究
課題番号
H28-エイズ-一般-003
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
北島 勉(杏林大学 総合政策学部)
研究分担者(所属機関)
- 沢田 貴志(神奈川県勤労者医療生活協同組合 港町診療所)
- 宮首 弘子(杏林大学 外国語学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
5,385,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
近年、我が国の外国人男性のHIV陽性報告数は増加傾向にあり、男性同性間の性的接触による感染が多数を占めつつある。また、日本語や英語で十分なコミュニケーションをとれない外国人の受診が遅れることも明らかになっている。そこで、本研究では、HIV検査受検促進や陽性者への医療関連サービスへのアクセスの改善をめざし、自治体との連携モデルを構築することを目的とする。
研究方法
本研究では、下記の4つの研究を行った。(1)在留外国人のHIV検査受検に結びつく効果的な介入方法の検討するために、大学又は日本語学校に在籍している留学生を対象にヒヤリングを行った、また、介入方法に関する文献をPubmedとWeb of Scienceから抽出し、そのレビューを行った。(2)英語・中国語・スペイン語・ポルトガル語・タイ語によるHIV検査受検支援ツール(以下、支援ツール)をタブレット端末にインストールし、保健所と検査センター10カ所で試用してもらい、その有効性の評価を行った。(3) HIV及び結核の検査・治療に活用できる医療通訳の育成を行うために、研修を行い、その効果を測定した。研修は2回行われ、初回はHIVと結核に関する講演を行い、参加者の知識や意識に関する変化を質問票により測定した。2回目は中国語、フィリピン語、ベトナム語、ネパール語の通訳者を対象に、ロールプレイを用い通訳の質の評価を試みた。(4)海外の外国人エイズ対策に関する情報収集やNGOとの連携を模索するために、台湾と中国を訪問した。また、2016年のリオ・デ・ジャネイロオリンピック/パラリンピック(以下、リオ五輪)開催期間中のHIV対策について情報収集を行うために、ブラジル保健省、UNAIDS、リオ市保健事務局等の担当者からヒヤリングを行った。
結果と考察
(1)留学生20人から協力が得られた。HIVに関する一定の知識はあるが、保健所でHIV検査を無料・匿名で受診できることを知らなかった。外国人のHIV検査受検促進に関する介入研究の数は少なかったが、言葉の壁を低くすることと、医療者側から働きかけることが重要であることが示唆された。(2) 支援ツールは概ね好評であったが、文字の大きさや画面の切り替えなどで改良が必要であることがわかった。(3)初回の研修の参加者は40人であった。研修参加者の特徴は、日本出身、女性、50才以上、大卒以上が多かった。対応する言語は英語・スペイン語・中国語が多数を占め、ベトナム・フィリピンなど現在不足が指摘されている言語の話者は少数であった。研修効果については、おおむね知識の向上が認められた。支援的な態度については研修前より高い傾向にあったが研修後更に向上した。2回目の研修の参加者は13人であった。感染症医療通訳が経験すると思われる現場の対話通訳の場面をロールプレイによって疑似体験することで、自身の現在持つ通訳力がどこまで通用するかを確認することができ、不足している専門知識や通訳技術が明らかになり、今後学ぶべき方向性に示唆が得られた。また、HIV及び結核患者対応のロールプレイ・シナリオを作成し、講師(評価者)用の統一した評価項目を設けた上、具体的なチェックポイントをロールプレイ・シナリオに落として、数値化した評価を試み一定の効果が得られた。(4) 台湾ではMSM支援団体が、コミュニティーセンターを拠点として、HIV感染予防のための情報提供、HIV検査、感染者の支援、セクシャルマイノリティーに関する啓蒙活動などを行っていた。中国では、出会い系アプリを運営する会社が企業の社会的貢献活動として、インターネット上にプラットフォームを開設し、中国国内のNGOがオンラインでHIV感染予防、感染者支援、セクシャルマイノリティーの居場所作りを行っていた。また、HIV検査を提供し、早期発見早期治療に向けた活動を展開していた。ブラジルでは、HIV検査、PEP、ARTを、統一医療システム(SUS)下の公的医療施設において自己負担無く利用できるようになっており、リオ五輪期間中のHIV対策についてもその仕組みによって対応していた。この他、外国からの訪問者でARTを紛失した際の代替薬の提供に関するプロトコールの作成、大量のコンドームの無料配布、HIV感染予防に関する3ヵ国語のリーフレットの配布を実施していた。
結論
留学生の国内のHIV検査や医療に関する知識は乏しく、サービス利用に対しては言葉が障壁になっていたことがわかった。2年度目は、より多くの留学生を対象とした調査を実施したい。外国人が検査や治療を受けやすくするために、支援ツールの改良や医療通訳の養成を継続していくことは重要である。更に、近隣諸国のNGOとの連携等を通して、HIV関連のサービスに関する情報提供の仕組みづくりについても検討する必要がある。
公開日・更新日
公開日
2017-06-07
更新日
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