内分泌かく乱化学物質の人の健康への影響のメカニズム等に関する調査研究

文献情報

文献番号
199800573A
報告書区分
総括
研究課題名
内分泌かく乱化学物質の人の健康への影響のメカニズム等に関する調査研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
井上 達(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 垣塚 彰(大阪バイオサイエンス研究所)
  • 菅野 純(国立医薬品食品衛生研究所)
  • 広川勝□(東京医科歯科大学医学部)
  • 井口泰泉(横浜市立大学理学部)
  • 鈴木勝士(日本獣医畜産大学)
  • 西原 力(大阪大学大学院・薬学系研究科)
  • 藤本成明(広島大学原爆放射能医学研究所)
  • 笹野公伸(東北大学大学院・医学系研究科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
45,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
内分泌かく乱化学物質の人の健康への影響のメカニズムを探求し、以ってその毒性評価の知識基盤とするため、本研究では、個別的に他の試験研究分野で進められている分析や反応系研究以外の、それらの総合領域すなわち高次生命系の発生・維持機構とそれに関わる組織特異的機能制御における核内レセプター分子の発現と機能修飾の分子メカニズムを系統的に解明することを目的とする。
研究方法
内分泌かく乱化学物質の問題を包括的に時間軸を含めて把握するために、本研究は、高次生命系としての神経・内分泌・免疫ネットワークに対する影響を解析する立場から、1)神経、2)免疫、および3)発生・生殖について検討する。また、そのネットワークのシグナル伝達系に対する影響を解析する立場から、4)核内レセプターとその共役転写因子およびエストロジェン受容体とセカンドメッセンジャーとの相互作用、5)ステロイド代謝活性機構を検討する。また、これらの研究過程で集積される科学情報および研究結果の統合(データベース化)と出版を行う。
結果と考察
本研究班は、高次系としての免疫系や神経系を含む広い視野から、個体の発生、成長、成熟の各々の過程に対する内分泌かく乱化学物質(EDCs)の影響メカニズムの解析を行い、以下の様な成果をあげてきた。即ち、神経毒性のリスクファクターとしての内分泌かく乱化学物質の影響については、培養神経細胞PC12にポリグルタミンの発現を誘導させ、同調した細胞死を引き起こす神経細胞株を樹立した。内分泌かく乱化学物質の神経系に及ぼす影響については、初代神経幹細胞培養系を神経細胞分化のモデル系及びエストロゲンレセプター_、_の発現を検出するPCR系を確立した。平成11年度は分化過程に対するエストロジェンの影響、外来性エストロジェン様物質の影響を解析する。内分泌かく乱化学物質の免疫系に及ぼす影響については、Diethylstilbesterol(DES)を腹腔内投与した際に、胸腺、脾臓の軽度の重量増加とT細胞、B細胞の軽度の増加をみた。平成11年度は、1)DESの免疫系への影響を若齢(4週齢)と24カ月齢の雄と雌のマウスを用いて検討する。2)免疫学的な検討は脾臓における各種免疫担当細胞の数、抗体産生能、T細胞の増殖能、B細胞の増殖などについて行う。3)これらの結果を総合して、DESの若齢および老齢マウスの免疫系への影響を解明する。内分泌かく乱化学物質のマウス生殖腺の分化および精子、卵子形成への影響については、妊娠10日目から9日間、ジエチルスチルベストロール(DES)およびビスフェノール-A (BA)を母親マウスにそれぞれ投与し、妊娠19日目の胎仔生殖器官を組織学的に解析したところ、雌マウスでは子宮、膣の上皮の丈の高さがDES、BA投与群ともに有意に増加し、細胞分裂率はBA投与群のみ有意に増加していた。雄マウスではDES投与により潜伏精巣が発生し、精巣も小さく単位面積当たりの精細管の数も有意に減少していることを見いだした。平成11年度は妊娠中に、エストロゲンや内分泌かく乱化学物質を投与された胎仔の精巣、卵巣および生殖腺附属器官における細胞増殖、分化への影響を調べるために、Ad4BP、MIS、WT-1、Hox遺伝子に着目してin situ hybridization法を用いて調べる。初期発育鶏卵に及ぼすエストロジェンの発生障害作用に関する研究については、硫酸エストロンを鶏受精卵の卵黄内投与により
約20%の胚で胚盤葉下層の消失、胚の管様構造への変形、重複胚奇形、神経管形成の異常が生じた。気室内投与でも胚発生の遅延(体節数低下)などの軽度の影響をみいだした。平成11年度は、エストロジェン受容体mRNAのPCRによる検出、発現局在の確定、胚盤葉下層でのアポトーシスの検出と活性化経路の確定、エストロジェンでの用量相関関係の証明、他のステロイドの影響の探査する。内分泌かく乱化学物質のホルモンレセプターを介する作用発現機構については、平成10年度は酵母Two Hybrid Systemにおいて、一部の物質ではSRC-2,TIF I,TIII、RIP140などの コアクチベーターの違いによりにレスポンスの程度に少し違いがみられた。ER_の系 を新たに作成したところ、一部の物質でER_の系とレスポンスの程度に違いが示唆された。平成11年度はER_の系を用いて各種物質について測定し、ER_の系での結果と比較検討する。アンタゴニスト物質の結合性について各種コアクチベーターの系で調べる。代謝活性化物質について、各種コアクチベーターの系で調べ、あるいは、新規コアクチベーターを検索する。ステロイドホルモン受容体系における内分泌かく乱化学物質作用の検討については、平成10年度はER_発現ベクターとレポーター遺伝子をコトランスフェクトした培養細胞で、ERE部位とAP-1部位を介するエストロゲン応答を比較した。平成11年度はヒト乳ガン細胞、ヒト前立腺細胞等にレポーター遺伝子、受容体コファクター発現遺伝子のトランスフェクションを順次行い、AP-1応答系で、ER_の応答性を検討する。AP-1の系と他の細胞内伝達物質の相互作用の検討を行う。ヒトにおけるステロイド代謝酵素、ステロイド作用の検索については、平成10年度は、estradiolをestroneに転換する17β-HSD2の発現が実際のヒト組織に於て胎生期を含めて肝臓、消化管粘膜のみで著明な発現を示していて、経口的に摂取されたエストロゲンの代謝に関係している事を初めて示した。平成11年度は17β-HSD2の発現のみばかりではなく、実際の活性動態も上述の組織で検討する。17β-HSD2以外のより活性の低いエストロゲンを分解する酵素の発現動態も検討する。胎生期のエストロゲン作用に関係すると考えられているエストロゲン受容体βのヒト胎児期における発現動態を検討する。文献収集評価については、平成10年度は、データベースの入力を開始した、引き続き、各班員からの結果の集積とコンピュータによるデータベース化を行い、最終報告を待って、科学研究モノグラムの刊行を行う。  
結論
本研究班では、内分泌かく乱化学物質の人の健康への影響のメカニズムを神経系、免疫系を含む高次生命系および多種多様なシグナル伝達系分子との相互作用に主眼を置き、個体発生から成体での内分泌機能への影響に至るまでの広い範囲を視野に入れ、生命科学の立場から探求するものであるが、その学際的性格は、本研究の有用性を更に際だたせるものと結論される。

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