HIV感染妊娠に関する全国疫学調査と診療ガイドラインの策定ならびに診療体制の確立

文献情報

文献番号
201618007A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV感染妊娠に関する全国疫学調査と診療ガイドラインの策定ならびに診療体制の確立
課題番号
H27-エイズ-一般-003
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
喜多 恒和(地方独立行政法人奈良県立病院機構 奈良県総合医療センター 周産期母子医療センター 兼 産婦人科)
研究分担者(所属機関)
  • 吉野 直人(岩手医科大学 微生物講座 免疫学・ウイルス学)
  • 杉浦 敦(地方独立行政法人奈良県立病院機構 奈良県総合医療センター 産婦人科)
  • 田中 瑞恵(国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院 小児科)
  • 谷口 晴記(三重県立総合医療センター 産婦人科)
  • 蓮尾 泰之(九州医療センター 産婦人科)
  • 塚原 優己(国立研究開発法人国立成育医療研究センター 周産期・母子診療センター産科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
22,559,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HIV感染妊婦と出生児に関する全国調査を行い、HIV感染妊娠の早期診断治療と母子感染の回避に寄与する。出生児の予後を調査し、妊婦に対する抗HIV治療の影響を検討する。さらにHIV感染妊娠の診療体制を整備し、わが国独自のHIV感染妊娠に関する診療ガイドラインを策定する。
研究方法
1)HIV感染妊娠に関する研究の統括と成績の評価および妊婦のHIVスクリーニング検査偽陽性への対策、2)HIV感染妊婦とその出生児の発生動向および妊婦HIVスクリーニング検査率に関する全国調査、3)HIV感染妊娠に関する臨床情報の集積と解析、4)HIV感染妊婦から出生した児の臨床情報の集積と解析およびフォローアップシステムの構築、5)HIV感染妊娠に関する診療ガイドラインの策定、6)HIV感染妊婦の分娩様式を中心とした診療体制の整備、7)HIV感染妊娠に関する国民への啓発と教育。
結果と考察
1)研究分担者による研究計画評価会議と研究班全体会議は年2回、各研究分担班会議も複数回行われ、研究遂行に有効であった。HIVスクリーニング検査に関する認識度調査のプレテストが3施設150例に実施された。偽陽性を理解していた妊婦は6.6%のみで、陽性との告知に52.9%が非常に動揺することから、妊婦の知識レベルの低さと教育啓発の必要性が明確になった。HIVスクリーニング検査前の資料配布による説明が、教育啓発に有効であると考えられた。
2)産婦人科病院1227施設および小児科病院2395施設に対し全国調査を実施した。妊婦のHIVスクリーニング検査率は、産婦人科病院では99.96%にまで上昇した。平成27年の未受診妊婦の分娩は、425,312分娩中1110例(0.26%)であった。未受診妊婦におけるHIV感染は、9年間に1例のみであると推測され、未受診妊婦が年間1例程度の母子感染の発生源となるとは考えられない。
3)平成27年末までに妊娠転帰が判明したHIV感染妊娠954例(前年から55例増加)の臨床情報をデータベース化した。最近5年間では、HIV感染判明後の妊娠が75%と増加傾向で、妊娠中の新規判明は減少傾向であることから、今後は報告数の減少が期待できる。しかし分娩後の抗HIV治療や妊娠指導などの継続的なフォローアップは不十分と考えられ、HIV感染女性を対象としたフォローアップシステムの構築が必要である。2000年以降の母子感染率は0.4%まで低下したが、2012年と2013年に母子感染が2例追加され、55例となった。2例とも妊娠初期検査は陰性であったため、妊娠中あるいは授乳期のHIV感染が母子感染の原因であると推測された。
4)国立国際医療研究センター内のデータセンター(JCRAC)に委託し、米国のREDCapデータベースツールを導入して、HIV感染女性と出生児の長期フォローアップウェブ登録システムを構築した。
5)欧米のHIV感染妊娠に関する診療ガイドラインでは、分娩様式の推奨は血中ウイルス量に従い各国で異なる。医療レベルや医療経済事情および国民性を考慮した本邦独自のガイドラインの原案を作成し、スクリーニング検査、妊娠中の抗ウイルス療法、周産期管理、児への対応、産褥の対応、未受診妊婦への対応などの項目に要約と解説を記載した。分娩様式の推奨においては、母子感染予防を担保し、医療スタッフの理解と協力および医療安全を確保する必要がある。
6)全国のHIV診療拠点病院および周産期センターの564施設に対してアンケート調査を行った結果、現状で経腟分娩が可能と回答したのは6施設のみであり、ガイドラインでの経腟分娩の明確化やスタッフの理解とトレーニングなどの条件付きで可能としたのも34施設のみであったことから、わが国では経腟分娩に対応できる医療体制は未だ整っていないと考えられる。したがって欧米のガイドラインをそのままわが国に導入することは、診療現場の混乱やHIV感染妊婦の受け入れ拒否を招く要因になりかねない。
7)横浜市、京都市および佐賀市でのAIDS文化フォーラムにおいて、市民参加型公開講座を開催した。さらに筑波大学では学生を対象とした特別講義「HIV感染症を含む性感染症の予防策」を行った。しかし国民のHIV感染妊娠に関する知識レベルは低いことが推測され、小・中・高を含む学校教育への導入や学校祭などでの公開講座、啓発資料の改訂や新規作成などとともに、マスコミの協力が得られる企画も必要である。
結論
国内のHIV感染妊娠の発生動向が経年的に把握されている。HIV感染の早期診断が母子感染予防の基本である。HIV感染女性と出生児のフォローアップシステムが構築され、わが国独自の診療ガイドラインの原案が完成した。今後はHIV感染妊娠の診療体制の整備および若者への教育啓発活動が重要であると考える。

公開日・更新日

公開日
2017-05-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2017-05-30
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201618007Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
28,198,000円
(2)補助金確定額
28,198,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,549,439円
人件費・謝金 5,622,348円
旅費 4,363,808円
その他 9,023,419円
間接経費 5,639,000円
合計 28,198,014円

備考

備考
利子14円が発生したため、収入の「(2)補助金確定額」と支出の合計に差異が生じた。

公開日・更新日

公開日
2017-05-11
更新日
-