地域においてHIV陽性者と薬物使用者を支援する研究

文献情報

文献番号
201618005A
報告書区分
総括
研究課題名
地域においてHIV陽性者と薬物使用者を支援する研究
課題番号
H27-エイズ-一般-001
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
樽井 正義(特定非営利活動法人ぷれいす東京 研究事業)
研究分担者(所属機関)
  • 大木 幸子(杏林大学 保健学部看護学科)
  • 生島 嗣(特定非営利活動法人ぷれいす東京 研究事業/支援・相談サービス)
  • 肥田 明日香(医療法人社団アパリ アパリクリニック)
  • 沢田 貴志(神奈川県勤労者医療生活協同組合 港町診療所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成27(2015)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
5,903,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 私たちの社会ではMSMにおけるHIV感染に性行動と薬物使用とが関連しているが、薬物使用に関しては、使用している・いないという単純な排他的二分があるのではなく、使用を勧誘される・断るから、依存形成、回復プログラム参加まで、時間軸に沿った幾つかの分岐点があり、選択が分かれることが指摘されている。本研究では、MSM(HIV陰性者と陽性者、薬物未使用者と使用者)を対象とする質問紙調査および面接調査を実施して、それぞれの分岐点で使用あるいは不使用に導く諸要因を明らかにする。また不使用を促すために、地域の諸機関(医療、行政、NGO)に求められる支援を検討し、そのために有用な資料を作成する。
研究方法
 3年計画の2年目である今年度は、5つの分担研究を進めた。
a. MSMの薬物使用・不使用に関わる要因の調査(生島):新設したウェブサイト(LASH online)とN社の男性同性愛者出会い系アプリで募集した対象者に、性行動、HIVの知識と予防、メンタルヘルス等広範囲にわたる97問の質問紙調査を行い、回答者10,544人中7,587人(72.0%)から全問回答を得た。
b. 地域の相談支援機関利用によるHIV陽性者・薬物使用者の回復事例の調査(大木):8人の対象者に半構造化面接調査を行い、薬物使用および回復の諸要因を検討した。
c. 薬物使用者の依存症クリニック受診経緯の調査(肥田):3人の対象者に面接調査を行い、複線径路・等至性アプローチ(TEA)により分析し、薬物使用から受診までの経緯を検討した。
d. 男性同性愛者が利用する施設の国際化に関する基礎調査(沢田):ゲイスポットの飲食店経営者5人に半構造化面接を行い、外国人利用者の動向(国籍、日本語能力等)を調査した。
e. 薬物依存からの回復を支援する社会資源の調査(樽井):日本における薬物問題の現状を概観するために、使用の実態、刑事対応と法令、政策動向、地域の依存回復資源について、文献調査を行った。
結果と考察
a. 出会い系アプリを利用する性的にアクティヴなMSMを対象とする質問紙調査では、薬物使用の生涯経験率は25%で、使用は主に性的関係においてであり、自ら進んでが20.0%、相手から誘われてが71.6%、知らずに摂取させられたが8.3%だった。使用する理由は、セックスの快感や痛みの軽減(79.2%)、現実からの逃避や不安の軽減(69.7%)が多かった。
b. HIV陽性者の薬物使用からの回復事例の調査では、使用を始める要因として、日常生活において性指向、薬物使用、そしてHIV陽性という「秘密をもつこと」による「生きづらさ」「居場所のなさ」が、回復の要因としては、反対に「秘密にする必要がない」「秘密を話せる」仲間や支援者との継続的な関わりが挙げられた。
c. 依存症クリニック受診者の調査でも、MSMが安心できる場(ゲイスポット)における性関係と薬物の存在が使用の契機となり、覚せい剤への移行、逮捕を機に依存症治療を提供する医療施設を受診という過程が見られ、使用と不使用の逡巡の中で安心できる相談窓口の不在が課題として示された。
d. ゲイスポットで外国人顧客が多い飲食店経営者に対する調査では、従来の欧米に加えて台湾、韓国、中国などアジアからが全体の3~4割と増加し、顧客が体調を崩した時に費用や言葉の問題への対処、観光客増加への対応が課題として挙げられた。
e. 日本における薬物使用の現状と対応の調査では、使用経験率は諸外国と比べてかなり低いが、その対策は犯罪取締が主であり、回復プログラムの提供等健康問題としての対応は不十分で、民間の自助グループが回復支援を担っていることが指摘された。
結論
 MSMの間でのHIV感染には薬物使用が関与し、薬物使用については最初の使用・不使用から依存、回復までの過程に幾つかの分岐点が経験されているが、本研究においては、そうした分岐点を同定すると共に、そこに作用する要因が指摘された。また、薬物使用の背景に、性的少数者への差別と偏見によるメンタルヘルスの問題があることが示唆された。これらを踏まえて、使用と感染を予防する介入策の検討が期待される。
 分岐点における逡巡や葛藤について安心して相談できる窓口や医療機関における回復プログラムの必要性とともに、自助グループによる回復支援の有効性も指摘された。薬物使用とHIV感染の問題に取り組むには、薬物使用を健康問題と捉え、MSMを支援する公的機関と民間団体の活動の充実が求められる。

公開日・更新日

公開日
2017-05-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2017-05-30
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201618005Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
7,673,000円
(2)補助金確定額
7,673,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 317,890円
人件費・謝金 2,844,822円
旅費 204,537円
その他 2,535,751円
間接経費 1,770,000円
合計 7,673,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2017-05-29
更新日
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