急速な病期進行あるいはセロネガティブ感染を伴う新型HIVの国内感染拡大を検知可能なサーベイランスシステム開発研究

文献情報

文献番号
201618004A
報告書区分
総括
研究課題名
急速な病期進行あるいはセロネガティブ感染を伴う新型HIVの国内感染拡大を検知可能なサーベイランスシステム開発研究
課題番号
H26-エイズ-一般-006
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
川畑 拓也(大阪府立公衆衛生研究所 感染症部 ウイルス課)
研究分担者(所属機関)
  • 渡邊 大(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター・臨床研究センターエイズ先端医療研究部HIV感染制御研究室)
  • 塩田 達雄(大阪大学微生物病研究所)
  • 村上 努(国立感染症研究所エイズ研究センター)
  • 森 治代(大阪府立公衆衛生研究所 感染症部 ウイルス課)
  • 駒野 淳(独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター)
  • 小島 洋子(大阪府立公衆衛生研究所 感染症部 ウイルス課)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
6,133,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
大阪府南部の病期進行が早い傾向を認めるHIV感染者・エイズ患者から、共通した変異を持ち遺伝学的に非常に近縁な一群のHIV-1を検出した。この変異が病期進行に関与する事を疑い、当該HIVの疫学的・ウイルス学的解析と感染者のゲノム解析、これを捕捉するための検査とサーベイランスの強化・再編を目的とした。
研究方法
1.病態解析
 新型変異HIVが共通して持つP6Gag領域の5アミノ酸重複挿入変異(以下p6変異)とインテグラーゼ領域の終止コドンへの点突然変異(以下IN変異)を単独、あるいは両方導入し作成した3種の分子クローンを用い、導入の影響について検討した。IN変異はVif/K22N変異でもあるので、APOBEC3Gの分解に与える影響についても検討した。
 収集した新型変異HIV感染症例の臨床経過から、急性期あるいは慢性期の新型変異HIVと非新型変異HIV症例での病態の差異を、血中ウイルス量を指標として統計学的に解析した。
 さらに、宿主側因子の関与を検討するため、HIV感染に関わると報告のある遺伝子(HLA Class I・Class II,CCR5,CCR2,CCL5/RANTES,IL-4)について多型解析を行った。
2.遺伝子疫学解析
 新型変異HIV検出の為、共同研究機関内で保存しているHIV-1陽性検体のp6変異とIN変異の保有状況を引き続き調査した。また、塩基配列が公開されている国内他地域で検出されたHIVや東京都健康安全研究センターで確認されたHIVについても同様に調査した。
3.個別施策層向け検査体制の強化
 新型変異HIV検出の為、診療所を窓口としたMSM向け検査を強化し、さらに確認検査においてNAT・遺伝子解析を実施した。
4.サーベイランス体制の強化
 通常と異なる病期進行の事例を把握し、受療中の拠点病院を通じて本研究で詳細な解析ができる体制づくりに務めた。また、衛生微生物技術協議会において地方衛生研究所(以下地衛研)のHIV担当者に情報提供を行った。
結果と考察
1.病態解析
 分子クローンの解析ではIN変異が複製を負に制御する傾向を認めたが、ウイルスの物理的性状とウイルス抗原量あたりの感染価は野生株と有意な差を認めなかった。臨床分離株におけるウイルス粒子へのAPOBEC3Gの取込みは他の分離株と同等であった。新型変異HIVの臨床分離株にはVifK22Nの活性低下を代償する変異が存在することが示唆された。
 感染時期が推定できた症例では初感染からエイズ発症までの期間が6ヶ月と非常に短く、またCD4が350cells/mLより低下したりするなど病期の進行がおこるまでの推定中央期間が1.5ヶ月と非常に短かった。感染初期で検出された新型変異HIVのウイルス量は平均8.4×10^6コピー/mlで、非新型変異HIVの感染初期と比較して4倍有意に高かったが、慢性期のウイルス量には有意な差はなかった。またHBVやCMVの共感染が何らかの関わりをもつ可能性が示唆された。
 新型変異HIV感染者12名を対象に遺伝子解析を行った結果、IL-4を除く全ての因子において、病態進行加速との関連が報告されている多型のアレル頻度が高い傾向にあり、中でもrs9264942のHLA-Cアレルの有意な減少が確認された。当該HIVはHLA拘束性の細胞性免疫からの逃避変異が蓄積したウイルスで、これらのHLAを持つ人への感染効率が高かった可能性が考えられた。
2.遺伝子疫学解析
 大阪府の2008-2016年のHIV-1検体1380例を解析したところ36例が新型変異HIVであった。
愛知では2例検出されたが東京都では検出されず、大阪近郊に限局された流行が示唆された。
3.個別施策層向け検査体制の強化
 平成28年度、診療所におけるMSM向け検査の受検者はのべ301名で、うち陽性者は7名であったが(陽性率2.3%)、新型変異HIVは検出されなかった。また、確認検査陽性検体のうち遺伝子解析が可能であった83例を精査し、2例の新型変異HIVを新たに検出した。
4.サーベイランス体制の強化
 通常とは異なる病期進行を示すHIV感染事例の宿主因子を解析するため、これまでの3ヶ所に加え、新たに大阪とその周辺の拠点病院計2ヶ所との協力体制を整えた。
結論
ウイルス変異に起因すると考えられる発症までの期間が短いエイズ患者の集積を世界で初めて報告した。また、これらの変異のみでは急速な病期進行を直接的に説明出来ないことを明らかにした。急速な病期進行に関わるウイルス側因子・宿主因子を明らかにするには、新型変異HIV株や近縁の分離株から全長の分子クローンを作製し解析することや、さらに多くの急性期や慢性期の新型変異HIV感染患者や非新型変異HIV感染早期発症者のゲノムを解析する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2017-07-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2017-06-06
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201618004B
報告書区分
総合
研究課題名
急速な病期進行あるいはセロネガティブ感染を伴う新型HIVの国内感染拡大を検知可能なサーベイランスシステム開発研究
課題番号
H26-エイズ-一般-006
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
川畑 拓也(大阪府立公衆衛生研究所 感染症部 ウイルス課)
研究分担者(所属機関)
  • 渡邊 大(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター・臨床研究センターエイズ先端医療研究部HIV感染制御研究室)
  • 塩田 達雄(大阪大学微生物病研究所)
  • 村上 努(国立感染症研究所エイズ研究センター)
  • 森 治代(大阪府立公衆衛生研究所 感染症部 ウイルス課)
  • 駒野 淳(独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター)
  • 小島 洋子(大阪府立公衆衛生研究所 感染症部 ウイルス課)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
セロネガティブHIV感染例を端緒として、大阪府南部の病期進行が早い傾向を認めるHIV感染者・エイズ患者から、共通した変異を持ち遺伝学的に非常に近縁な一群のHIV-1を検出した。このウイルス変異が病期進行に関与する事を疑い、当該HIVの疫学的・ウイルス学的解析と感染者のゲノム解析、これを捕捉するための検査・サーベイランスの強化・再編を目的とした。
研究方法
1.病態解析
 新型変異HIVが共通して持つP6Gag領域の5アミノ酸重複挿入変異(以下p6変異)とインテグラーゼ領域の終止コドンへの点突然変異(以下IN変異)を単独、あるいは両方導入した3種の分子クローンを作成し、導入の影響について検討した。IN変異はVif/K22N変異でもあるので、APOBEC3Gの分解に与える影響についても検討した。
 新型変異HIV感染症例について臨床経過から病期進行の実態を調査し、急性期あるいは慢性期の新型変異HIVと非新型変異HIV症例で病態に違いがないかを、血中ウイルス量を指標として解析した。
 さらに宿主側因子の関与を検討するため、HIV感染に関わると報告のある遺伝子(HLA Class I・Class II,CCR5,CCR2,CCL5/RANTES,IL-4)について多型解析を行った。
2.遺伝子疫学解析
共同研究機関内で保存するHIV-1陽性検体について、HIV-1 gag-pol領域の塩基配列を決定し、p6変異およびIN変異の有無を調べた。また、塩基配列が公開されている国内他地域で検出されたHIVについても同様に調査した。
3.個別施策層向け検査体制の強化
 新型変異HIV検出の為、診療所を窓口としたMSM向けHIV検査を強化し、さらにHIV確認検査においてNAT・遺伝子解析を実施した。
4.サーベイランス体制の強化
 通常と異なる病期進行の事例を把握し、受療中の拠点病院を通じて詳細な解析ができる体制の構築に向け、拠点病院や診療所の医師、CBOやNPO、自治体担当者等に協力を呼びかけた。また、衛生微生物技術協議会において地方衛生研究所(以下地衛研)のHIV担当者に情報提供を行った。
結果と考察
1.病態解析
 分子クローンの解析ではIN変異が複製を負に制御する傾向を認めたが、ウイルスの物理的性状とウイルス抗原量あたりの感染価は野生株と有意な差を認めなかった。臨床分離株におけるウイルス粒子へのAPOBEC3Gの取込みは他の分離株と同等であった。新型変異HIVの臨床分離株にはVifK22Nの活性低下を代償する変異が存在することが示唆された。
 感染時期が推定できた症例では初感染からエイズ発症までの期間が6ヶ月と非常に短かった。6例では急性感染期にCD4数が200/μL以下に急速に低下していた。感染初期で検出された新型変異HIVのウイルス量は平均8.4×10^6コピー/mlで、非新型変異HIVの感染初期と比較して4倍有意に高かったが、慢性期のウイルス量には有意な差はなかった。またHBVやCMVの共感染が何らかの関わりをもつ可能性が示唆された。
 新型変異HIV感染者12名を対象に遺伝子解析を行った結果、IL-4を除く全ての因子において、病態進行加速との関連が報告されている多型のアレル頻度が高い傾向にあり、中でもrs9264942のHLA-Cアレルの有意な減少が確認された。当該HIVはHLA拘束性の細胞性免疫からの逃避変異が蓄積したウイルスで、これらのHLAを持つ人への感染効率が高かった可能性が考えられた。
2.遺伝子疫学解析
 延べ2359例について解析を行い、30例の新型変異HIV感染事例を把握したが、その多くは大阪周辺に集中していた。
3.個別施策層向け検査体制の強化
 個別施策層向けHIV検査の手法を確立し、平均2.4%と高い陽性率で1000名以上に検査を実施したが、新型変異HIVは検出しなかった。
 確認検査陽性検体の遺伝子解析により4例の新型変異HIVを検出し(再掲)、地衛研におけるHIV遺伝子解析の重要性を明らかにした。
4.サーベイランス体制の強化
 通常とは異なる病期進行を示すHIV感染事例の宿主因子を解析するため、地域のネットワークを構築し、大阪とその周辺計5ヶ所の拠点病院との協力体制を整えた。
結論
ウイルス変異に起因すると考えられる発症までの期間が短いエイズ患者の集積は世界初の報告である。当該HIVは2010年末頃に大阪南部のMSMを中心とする集団内で遺伝子組換えにより発生したと推測される。共通する特徴的な変異のみでは急速な病期の進行を直接的に説明するのは困難であることが明確になり、ウイルス因子および宿主因子が複雑に絡み合っていると考えられたが、少なくとも宿主遺伝子の多型、rs9264942の関連が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2017-07-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2017-06-06
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201618004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ウイルス変異に起因すると考えられる発症までの期間が短いエイズ患者の集積は世界初の報告であり、また、新型変異HIVに共通する特徴的なgenetic signatureは世界的にも独特で、ウイルス伝播を正確に追跡できた。一方、感染性クローンの解析より、新型変異HIVに共通する特徴的な遺伝的変化のみでは早い病期の進行を直接的に説明するのは困難であることが明確になった。新型変異HIV感染者のゲノム遺伝子を解析した結果、HLA-C5'(rs9264942)が、新型変異HIV感染者集団では排除されていた。
臨床的観点からの成果
感染初期で検出された新型変異HIVのウイルス量は、非新型変異HIVのそれと比較して統計学的に有意に高く、また新型変異HIV 感染症例では、急性期での診断からCD4が350cells/mLより低下したり、抗HIV治療が開始されたり、AIDS指標疾患が認められたりするなどといった病期の進行が起こるまでの推定中央期間が1.5ヶ月と非常に短いことを明らかにした。
診療所を窓口としたMSM向けHIV検査を行ったところ、高い陽性率でHIV陽性者を検出し、非常に有意義な検査であることを明らかにした。
ガイドライン等の開発
特になし。
その他行政的観点からの成果
厚生科学審議会、エイズ・性感染症に関する小委員会(第1回:平成28年12月20日開催、第2回:平成29年1月23日開催、第3回:平成29年2月21日開催、第4回:平成29年4月11日開催)において、資料「性感染症の発生動向と対策の現状」中の「性感染症対策の現状」の項に、自治体・NPOと連携した事例として紹介された。
大阪府のエイズ対策において、診療所におけるMSM向けHIV検査がハイリスク層向け検査(個別施策層MSMに限定した検査)として採用された。(岡山・広島県にも情報提供)
その他のインパクト
特になし。

発表件数

原著論文(和文)
21件
原著論文(英文等)
47件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
140件
学会発表(国際学会等)
10件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
3件
大阪府、岡山県、広島県
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kojima Y., Kawahata T., Mori H., et al.
Identification of novel recombinant forms of Hepatitis B virus generated from genotypes Ae and G in HIV-1-positive Japanese men who have sex with men.
AIDS Research and Human Retroviruses , 31 (7) , 760-767  (2015)
10.1089/AID.2014.0281
原著論文2
Haruyo Mori, Yoko Kojima, Takuya Kawahata, et al.
A cluster of rapid disease progressors upon primary HIV-1 infection shared a novel variant with mutations in the p6gag/pol and pol/vif genes.
AIDS , 29 (13) , 1717-1719  (2015)
10.1097/QAD.0000000000000771
原著論文3
Yoko Kojima, Keiichi Furubayashi, Takuya Kawahata, et al.
Circulation of Distinct Treponema pallidum Strains in Individuals with Heterosexual Orientation and Men Who Have Sex with Men (MSM)
Journal of Clinical Microbiology , 57 (1) , E01148-18-  (2019)
10.1128/JCM.01148-18

公開日・更新日

公開日
2017-07-03
更新日
2019-06-11

収支報告書

文献番号
201618004Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
6,439,000円
(2)補助金確定額
6,439,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,330,300円
人件費・謝金 602,777円
旅費 334,520円
その他 1,865,403円
間接経費 306,000円
合計 6,439,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2017-06-06
更新日
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