国内における豚インフルエンザ流行動態の解明

文献情報

文献番号
201617023A
報告書区分
総括
研究課題名
国内における豚インフルエンザ流行動態の解明
研究課題名(英字)
-
課題番号
H26-新興行政-若手-001
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
小澤 真(鹿児島大学 学術研究院農水産獣医学域獣医学系)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
1,539,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
豚由来のインフルエンザウイルスは、パンデミックを引き起こす可能性があるため、その流行動態を注意深く監視する必要がある。しかし、産業構造などの
理由により、国内養豚の血清や鼻腔スワブ検体にアクセスするのは難しく、国内における豚インフルエンザの流行動態はほとんど把握されていない。本研
究は、国内における豚インフルエンザの流行動態を、血清学的ならびにウイルス学的に解明することで、豚インフルエンザウイルス流行株の人への感染リス
クや、豚由来ウイルスが海外から侵入した際の養豚を介した国内蔓延リスクを評価することを目的とする。
研究方法
【抗体調査】多検体の抗インフルエンザウイルス中和抗体価を効率よく測定するため、遺伝子組換えウイルスを活用して中和試験法を改良する。この改良法
を用いて、全国各地から収集する養豚血清検体の中和抗体価を測定し、国内養豚における豚インフルエンザウイルスの浸潤状況を明らかにする。
【ウイルス分離】豚インフルエンザウイルスを効率よく分離するため、様々な豚由来培養細胞株の中から、発育鶏卵よりも感染感受性が良く、ウイルス増殖
効率も優れた細胞株を選び出して、ウイルス分離条件を最適化する。この最適化した分離法を用いて、国内の幅広い地域から収集した養豚鼻腔スワブ検
体等からのウイルス分離を進める。
【ウイルス性状解析】分離したウイルス株の、遺伝子配列、レセプター結合特異性、抗原性などを解析する。
結果と考察
平成26年度に確立した改良型中和試験を用いて、全国8県の37農場から集めた約160頭分の母豚血清における抗インフルエンザウイルス中和抗体価を測定し、平成27年度までの結果と合わせて解析した結果、2009年パンデミックウイルス(2009pdm)系統のウイルスを中心に、豚インフルエンザが国内の養豚において広く蔓延していることが明らかになった。また、ウイルス分離法の最適化を経て、全国5県11農場の養豚から合計19株の豚インフルエンザウイルスをあらたに分離した。さらに、これら分離株のウイルス遺伝子の解析により、国内流行株の間で2009pdm系統の内部遺伝子が広く共有されていること、同系統のヒト流行株よりも多くのアミノ酸変異が蓄積していることが示された。
結論
国内養豚において豚インフルエンザウイルスが幅広く浸潤していることが確認された。また、分離株を中心としたウイルス遺伝子の性状解析により、豚インフルエンザウイルス流行株のヒトにおける感染・流行リスクの評価や、季節性インフルエンザワクチンとの抗原交差性、抗ウイルス薬への感受性など、新型インフルエンザ対策を進める上で、有用な知見が提供された。

公開日・更新日

公開日
2017-06-05
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201617023B
報告書区分
総合
研究課題名
国内における豚インフルエンザ流行動態の解明
研究課題名(英字)
-
課題番号
H26-新興行政-若手-001
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
小澤 真(鹿児島大学 学術研究院農水産獣医学域獣医学系)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
豚由来のインフルエンザウイルスは、パンデミックを引き起こす可能性があるため、その流行動態を注意深く監視する必要がある。しかし、産業構造などの理由により、国内養豚の血清や鼻腔スワブ検体にアクセスするのは難しく、国内における豚インフルエンザの流行動態はほとんど把握されていない。本研究は、国内における豚インフルエンザの流行動態を、血清学的ならびにウイルス学的に解明することで、豚インフルエンザウイルス流行株の人への感染リスクや、豚由来ウイルスが海外から侵入した際の養豚を介した国内蔓延リスクを評価することを目的とする。
研究方法
【抗体調査】多検体の抗インフルエンザウイルス中和抗体価を効率よく測定するため、遺伝子組換えウイルスを活用して中和試験法を改良した。この改良法を用いて、全国各地から収集する養豚血清検体の中和抗体価を測定し、国内養豚における豚インフルエンザウイルスの浸潤状況を明らかにした。
【ウイルス分離】豚インフルエンザウイルスを効率よく分離するため、様々な豚由来培養細胞株の中から、発育鶏卵よりも感染感受性が良く、ウイルス増殖効率も優れた細胞株を選び出して、ウイルス分離条件を最適化した。この最適化した分離法を用いて、国内の幅広い地域から収集した養豚鼻腔スワブ検
体等からのウイルス分離を実施した。
【ウイルス性状解析】分離したウイルス株の遺伝子配列および抗原性を解析した。
結果と考察
多検体の抗インフルエンザウイルス中和抗体価を効率よく測定するため、遺伝子組換えウイルスを活用して中和試験法を改良した。本法を用いて、全国から採集した母豚血清を検体とする抗体調査を実施した結果、2009年パンデミックウイルス(2009pdm)系統のウイルスを中心に、豚インフルエンザが国内の養豚において広く蔓延していることが明らかになった。また、ウイルス分離法の最適化を経て、全国5県12農場の養豚から合計20株の豚インフルエンザウイルスを分離した。さらに、これら分離株のウイルス遺伝子の解析により、国内流行株の間で2009pdm系統の内部遺伝子が広く共有されていること、同系統のヒト流行株よりも多くのアミノ酸変異が蓄積していることが示された。
結論
国内養豚において豚インフルエンザウイルスが幅広く浸潤していることが確認された。また、分離株を中心としたウイルス遺伝子の性状解析により、豚インフルエンザウイルス流行株のヒトにおける感染・流行リスクの評価や、季節性インフルエンザワクチンとの抗原交差性、抗ウイルス薬への感受性など、新型インフルエンザ対策を進める上で、有用な知見が提供された。

公開日・更新日

公開日
2017-06-05
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201617023C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究で確立した改良型中和試験法を用いることで、多くの血清検体の抗インフルエンザウイルス中和抗体価を効率よく測定することが可能となった。また豚インフルエンザウイルスの分離には、ヒト型受容体過剰発現MDCK細胞が適していることがわかり、当該細胞を用いて20株の豚インフルエンザウイルスを分離された。養豚血清の中和抗体価測定および分離ウイルスの遺伝子解析の結果、国内養豚においてH1亜型2009pdm系統のウイルスを中心に、豚インフルエンザウイルスが広く蔓延していることが明らかとなった。
臨床的観点からの成果
2009pdm系統分離ウイルスのHA遺伝子の系統樹解析を行った結果、その多くが、現在のヒトH1亜型季節性ウイルスの当該遺伝子のクラスターには分類されず、各々が独立していた。また、HAタンパク質の抗原決定領域を構成する56アミノ酸残基について、2009pdm初期分離株を基準に変異を調べたところ、ヒト分離株で未報告のアミノ酸置換が21ヵ所同定された。以上の結果から、豚インフルエンザウイルスが、ヒト流行株とは異なる変異・進化を遂げており、ヒト集団内でも感染・流行し得る可能性が示唆された。
ガイドライン等の開発
豚インフルエンザウイルスが、パンデミックの発生を含め、ヒトに対して健康被害を及ぼす可能性が多方面から指摘されているが、特に国内養豚における流行状況はほとんど研究されてこなかった。本研究により、国内養豚において豚インフルエンザウイルスが幅広く浸潤していることが確認された。今後は、豚インフルエンザに対する継続的なサーベイランス体制、およびヒトに対する定期的なリスク評価体制の構築が望まれる。
その他行政的観点からの成果
本研究により、国内養豚における幅広い浸潤が確認された豚インフルエンザだが、養豚の生産性に与える影響が不透明なことから、生産現場における認知度が低い。公衆衛生面のみならず、畜産衛生上のリスクもより厳密に評価することで、より積極的な豚インフルエンザ対策が期待できる。豚インフルエンザの流行を抑えることで、パンデミックを含めた公衆衛生上のリスクも低減できることから、省庁の枠組みを超えた連携が期待される。
その他のインパクト
従来の研究において、インフルエンザウイルスは、ブタよりもヒトにおいてより早く進化することが示されていた。ところが本研究により、少なくとも2009pdm系統ウイルスは、ブタにおいてより早く進化していることが示唆された。近年の養豚の生産体制の大規模化・効率化は目覚ましいことから、ウイルスと宿主の関係が変化している可能性が推察される。適切なリスク管理のためにも、病原体を取り巻く環境を、より幅広い視点で観察することが重要と考えられる。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
4件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ozawa M, Matsuu A, Yonezawa K et al.
Efficient isolation of Swine influenza viruses by age-targeted specimen collection
J Clin Microbiol , 53 , 1331-1338  (2015)
10.1128/JCM.02941-14
原著論文2
Okuya K, Matsuu A, Kawabata et al.
Distribution of gene segments of the pandemic A(H1N1) 2009 virus lineage in pig populations
Transbound Emerg Dis , 65 (6) , 1502-1513  (2018)
10.1111/tbed.12887

公開日・更新日

公開日
2017-06-15
更新日
2019-08-01

収支報告書

文献番号
201617023Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
7,616,000円
(2)補助金確定額
7,616,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 4,950,201円
人件費・謝金 90,196円
旅費 459,140円
その他 359,463円
間接経費 1,757,000円
合計 7,616,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2019-08-01
更新日
-