簡易ダイオキシン検出システムに関する研究

文献情報

文献番号
199800572A
報告書区分
総括
研究課題名
簡易ダイオキシン検出システムに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
和田 恵一郎(新日鐵化学株式会社)
研究分担者(所属機関)
  • 原田 和明(新日鐵化学株式会社)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 生活安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ダイオキシンの汚染の程度を簡便に測定できる手法の開発を目的としている。通常ダイオキシンの測定には1回あたり数十万円の費用がかかり、国民的関心事でありながら、身近な環境の測定すらできないのが実状である。このような状況が国民の不安をさらに掻き立てている。安価に簡便に測定できる手法を開発することで、例えば、資金を投入してでも通常の測定をやるべきかどうかを判断するための予備検査として利用されることを期待している。
研究方法
ダイオキシンの前駆体であるクロロフェノールと、ある種の金属錯体を溶液中で混合すると、溶液の蛍光強度が増加する現象を利用する。8-オキシキノリンアルミを、クロロホルムあるいは四塩化炭素に溶解させて希薄溶液とし、各種クロロフェノール類を添加して蛍光強度を測定した。次の3つの相関関係を調査することで可能性をさぐることとした。(1) クロロフェノール類濃度とダイオキシン類濃度(2) 試薬レベルでのクロロフェノール類と蛍光発光強度あるいは波長変化(3) 実サンプルでのクロロフェノール類と蛍光発光強度あるいは波長変化(阻害因子の影響)以上3つの相関関係が得られる対象を特定し、蛍光強度を測定することで、ダイオキシン量をある程度推定できることになる。
今年度は(2)を中心に、(1)の一部の測定を開始した。なお、(1)についてはダイオキシンを取り扱う設備を擁する分析会社に測定を依頼した。
結果と考察
(1) クロロフェノール類濃度とダイオキシン類濃度
焼却炉排ガスでの実測ではダイオキシン毒性等価容量(またはダイオキシン発生量)とクロロフェノール濃度の間に強い相関関係があることがわかった。ダイオキシン毒性等価容量に対してクロロフェノール濃度は約500倍であることがわかった。過去に前駆体とダイオキシン類との相関を調査したものはほとんどなかった。クロロフェノール類とダイオキシン類の相関については、燃焼由来のダイオキシン類にはフラン骨格をしたものが多いことから、クロロフェノールは前駆体の一つであることは間違いなく、これまでも高いであろうことは推測されていたが、両軸とも対数でないグラフでこのような強い相関関係が明らかになった非常に貴重なデータである。今回は大まかな相関を見るために高濃度のダイオキシン発生領域での測定を行なったが、改正大気汚染防止法では既存設備の暫定措置で80ng-TEQ/Nm3以下、新規設備で0.1 ng-TEQ/Nm3以下と規制されているため、改正大気汚染防止法に対応するためには、改めて低濃度範囲で測定する必要がある。(2) 試薬レベルでのクロロフェノール類と蛍光発光強度あるいは波長変化 クロロフェノール類を8-オキシキノリンアルミニウム(ALQ3)溶液に添加すると、ALQ3に対してクロロフェノール類が等モルになるまで、ALQ3単独溶液の発光強度に比べ、発光強度が増加した。しかし、クロロフェノールが過剰になる領域で発光強度は変化しなかった。ただし、クロロフェノールの塩素の数や位置による発光強度の差は見られなかった。また、フェノール及びクロロベンゼンでは発光強度の増加がないこともわかった。クロロフェノールの蛍光強度増大効果のメカニズムに関しては2つの考え方がある。(a) 金属錯体とクロロフェノールが「会合」して電子状態が変化する。
(b) 金属錯体の配位子がクロロフェノールと交換、発光時に再び配位子が元に戻る。(配位子交換)
どちらのメカニズムであるかの判断はできないが、フェノールでは発光強度に変化が見られないことから会合している可能性が高いと考えられる。発光強度が高くなる理由は量子収率が高くなるからで、クロロフェノールがその役割をはたしていると思われる。
いずれにしろ、クロロフェノール類の塩素の数や位置にあまり依存しない、フェノール・クロロベンゼンでは効果がない、という特徴があることがわかったので、このことを利用した実現性の高い溶液系を見出したい。(3) 問題点があることも見つかった。8-オキシキノリンアルミのクロロホルム溶液は時間経過とともに蛍光強度が低下する。これはクロロホルムの分解物が8-オキシキノリンアルミ分子に悪影響を与えていることが予想される。遮光保存しても、冷蔵保存しても経過時間による劣化を防ぐことはできなかった。溶媒の変更を試みたが、8-オキシキノリンアルミの溶解度が小さく発光の測定限界程度の発光しか見られず、測定することが困難であった。実用化を考えた場合、保存安定性の確保は必須であるので、同様の効果をもち、かつ溶液溶解性の高い金属錯体の探索が必要になると考えている。できれば炭化水素系(塩素系でない)溶剤が利用できる錯体系を探索したいと考えている。
結論
今年度の研究では、8-オキシキノリンアルミ/クロロホルム系でクロロフェノール類を代替指標とする蛍光分析でダイオキシン類濃度を推定しうるかどうか確認した。
今年度の次のような研究成果から簡易測定法探索に大きな前進があった。
1. ある焼却炉での排ガス中のクロロフェノール類濃度とダイオキシン類濃度との間には強い相関がある。
2. クロロフェノール類<8-オキシキノリンアルミの場合は、クロロフェノールの種類によらず比例関係がある。比例係数もクロロフェノールの塩素数や置換位置の違いはなかった。クロロフェノール類>8-オキシキノリンアルミの場合は、クロロフェノールの種類、量によらず発光強度はほぼ一定である。
3. 測定下限は10-9mol/l程度である。
4. クロロホルム溶媒では再現性に課題がある。
以上の結果から、クロロフェノール類を代替指標としてダイオキシンを分析できる可能性はあると判断した。次年度には、再現性に問題があった8-オキシキノリンアルミ/クロロホルム系に代わる錯体系の探索を行なう予定である。また、測定対象を土壌や焼却灰に広げて、クロロフェノール類との相関調査を行ない、実用化検討を進める。

公開日・更新日

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