エンテロウイルス等感染症を含む急性弛緩性麻痺・急性脳炎・脳症の原因究明に資する臨床疫学研究

文献情報

文献番号
201617012A
報告書区分
総括
研究課題名
エンテロウイルス等感染症を含む急性弛緩性麻痺・急性脳炎・脳症の原因究明に資する臨床疫学研究
課題番号
H28-新興行政-一般-007
研究年度
平成28(2016)年度
研究代表者(所属機関)
多屋 馨子(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
研究分担者(所属機関)
  • 森島 恒雄(岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 亀井 聡(日本大学 医学部)
  • 片野 晴隆(国立感染症研究所 感染病理部)
  • 田島 茂(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
  • 清水 博之(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
  • 細矢 光亮(福島県立医科大学 医学部)
  • 吉良 龍太郎(福岡市立こども病院 小児神経科)
  • 奥村 彰久(愛知医科大学 医学部)
  • 安元 佐和(福岡大学 医学部)
  • 鳥巣 浩幸(福岡歯科大学 総合医学講座)
  • 森 墾(東京大学 医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
原因不明の急性脳炎・脳症から病原体遺伝子の網羅的検索を行い、日本の急性脳炎・脳症の疫学を明らかにし、日本脳炎(以下、JE)の紛れ込みを確認する。臨床検体の採取、保管、搬送のガイドラインを作成し、病原体診断の向上に努める。2015年秋に国内で多発した急性弛緩性脊髄炎(acute flaccid myelitis: 以下、AFM)の臨床的特徴を明らかにして、対策立案を行う。EVD68を含むEVを検出・同定する手法を検討し、AFPサーベイランスの国内導入について検討し、急性弛緩性麻痺(acute flaccid paralysis: AFP)を呈するEV感染症の実態を把握する。全数把握が可能と考えられる地域については、感染症関連神経疾患の全例を把握するリアルタイム報告システムを確立し病原体を可能な限り明らかにする。
研究方法
急性期の5点セット(血液、髄液、呼吸器由来検体、便、尿)および急性期と回復期のペア血清を症状、所見とともに検討し、網羅的リアルタイムPCR法でウイルス、細菌、リケッチア、真菌のゲノム検索を実施し、JEウイルス特異的IgM抗体価の測定を行った。AFPについては、倫理委員会の承認を得て、症状、予後、検査結果、画像検査結果、神経生理学的検査結果について検討した。詳細な全例調査が可能な地域については、地域での症例収集方法を確立し、今後の全国展開について検討した。
結果と考察
2007~2016年に報告された急性脳炎・脳症は3,919例であった。4年連続で増加し2016年は716例であった。年齢中央値は5歳(0~98歳)、男女比は1.25:1であった。0~4歳が最多で、インフルエンザウイルスが最多であった。定量的PCRを応用したウイルス、細菌、真菌の網羅的検索系を開発した。7例中3例からCoxA6、アデノ5型、型不明EVが検出された。JEV特異的IgM抗体の測定によりJEの紛れ込みは認められなかった。検体採取・搬送のガイドライン案を作成した。中耳炎や副鼻腔炎などの耳鼻科領域の感染症に合併した細菌性髄膜炎では、感染により骨破壊と硬膜を損傷し髄膜炎を発症するが、3次元画像構築ソフトウェア(ZiostationⓇ)を用いた骨病変同定法は、菌の侵入門戸となる欠損孔の同定に強力な診断デバイスとなることが示唆された。
2015年秋にAFPの多発が報告され、詳細な検討によりAFMは59例であった。EVD68特異的リアルタイムRT-PCR法の検出感度が高く、咽頭拭い液からの検出頻度が比較的高かったが、髄液や血液からの検出事例も認められた。次世代シークエンス解析により分離株は遺伝子型Clade Bに分類された。福島県、中国四国地方については、全AFP症例の探知を試みた。福島県では前方視的に調査したが、2014~2016年にAFPの発生はなかった。急性脳炎・脳症は毎年10例前後で、EVが関与したと思われる症例は認めなかった。中国・四国地方の小児科では、EVD68の早期診断体制を確立した。
2015年に報告された59例のAFMの症状は気道感染症が先行した後に四肢の運動麻痺が急に出現し、髄液細胞増多が見られた。運動神経の複合筋活動電位の振幅低下と、F波の出現頻度の低下が約8割の症例に認められた。初回検査でF波の出現率が正常であることは神経学的予後良好因子であることが示された。全例で脊髄病変が認められ、長い縦走病変が特徴であり、灰白質のみでなく白質にも病変を認める例が多かった。ガドリニウム造影では、馬尾の造影効果が高率であった。全脊髄に病変を認めても、単麻痺を示す例も稀でなかった。ガドリニウム造影効果は、やや遅れて出現する傾向を認めた。次のAFM症例の多発に備えて、早期探知、早期診断に繋げるためには、AFPサーベイランスの構築と診療ガイドラインが必要であると考えられた。
結論
急性脳炎・脳症3,919例の疫学所見について解析した。原因不明急性脳炎(脳症)から様々な病原体遺伝子が検出されたがJEの紛れ込みはなかった。検体採取、検体搬送に関するガイドライン案を作成した。3次元画像構築ソフトウェア(ZiostationⓇ)を用いた骨病変同定法は強力な診断デバイスとなることが示唆された。2015年秋に、59例がAFMの症例定義を満たした。EVD68特異的リアルタイムRT-PCR法の検出感度が高く、咽頭拭い液からの検出頻度が比較的高かったが、髄液や血液からの検出事例も認められた。福島県、中国・四国地方の小児科では、積極的症例探索に加えて、病原体診断を行う体制を確立した。2015年に多発したAFMの症状、検査、画像、神経生理学的所見について報告した。次の流行の早期探知、早期診断に繋げるためには、AFPサーベイランスの構築と診療ガイドラインが必要である。

公開日・更新日

公開日
2017-05-30
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2017-05-31
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201617012Z